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3巻

3-2

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 その後、俺は王都を離れなければならない旨をハービアに伝えるため、彼女の住む王宮――トリアノン宮にやって来た。

「ケイン、何か用?」

 ハービアは、ソファに座って酒の入ったグラスを手に持ち、従者の美少年達をながめている。
 欲望丸出しだが、そんな姿さえ天使長という肩書きのせいか美しく見える。

「しばらく竜の国に行くので、それをお伝えしに来ました」
「そう、トカゲの国に行くのね。あそこは面白みがないから私は遠慮するわ。まぁ楽しんできなさい」

 ハービアはそう言って微笑ほほえむ。やはり以前に比べると、なんだか随分温和になった気がする。

「竜の国は面白みがないですか?」
「ええ、それに竜って人化しても生臭なまぐさいのよ……だからどんな美少年の姿になっても気持ち悪く感じるわ」
「そういうものですか?」
「そういうものよ」

 前世でいう動物園の爬虫類はちゅうるいコーナーのような臭いでもするのだろうか?
 俺は特に感じた事はないけど……
 あれ、さっきハービアは〝面白みがないから私は遠慮する〟と言っていた。
 裏を返せば、面白みがあれば行くという事だ。ハービアは基本面倒くさがりなので、自分からそう言い出すのは珍しい。俺はハービアに尋ねる。

「そういえば、さっきの話では、何か面白みがあったら竜の国でも行く、ととれますが……」
「あなたは従順な私のしもべなのよ。楽しませてくれるなら一緒に出かけるくらいはするわ」

 しもべか……確かにそういう立場だが、そんなふうに言われた事は今までなかったな。

「そうですか。それでは今度はハービア様が楽しめる場所を探して、お誘いしますね」
「楽しみにしているわ」

 ハービアらしくなくて、なんだか調子が狂うな。

「どうかしたの?」
「いえ、なんでもありません」

 俺はハービアに軽く会釈えしゃくして、トリアノン宮を後にした。


   ◇◆◇◆◇


 今回の竜の国への旅は俺一人で行こうと考えていた。
 パーティメンバーには王都にいてもらうか、ラグドリアン湖の小城でバカンスでも楽しんでもらうのがいいだろう。俺はそう思って皆に相談した。
 しかし――

「何を言っているんだい? そういう時は僕も一緒に行くよ」
「ケインは水臭いな。破壊神とかはごめんだが、竜の国に行くくらいは付き合う」
「そうよ、そのくらいなら別に構わないわ」
「まぁちょっとした旅に行くだけですから」
「ポーターの本領は旅で発揮されるんです。うちの見せ場です」
「ご主人様の旅にはメイドが必要ですよね」

 ケイト、アイシャ、アリス、メルル、クルダ、シエスタが口々に言った。

「メルルが行くなら私も治療院を閉めてついていくわ」
「私、一人残っても仕方ないから行くよ」

 ソニアとリタもどうやら乗り気のようなので、自由の翼のメンバーは全員今回の旅に参加する事になった。
 よく考えたら今回の旅の目的は、竜王との話し合いだ。
 危険もないし、皆で遠出するのも良いかもしれない。

「うちはまだ行った事はありませんが、竜の国は自然が豊かで、食べ物が新鮮で美味おいしいと聞いた事があります」

 さまざまなパーティにヘルプで入っているポーターのクルダは、情報通だ。彼女がそう言うのだから、間違いないのだろう。
 俺は皆に告げる。

「そうだな、ならさっさと用事を終わらせて、その後は竜の国でバカンスでもするか」
「「「「「「「「賛成(だ)(です)」」」」」」」」


   ◇◆◇◆◇


 その次の日――
 今回の旅は急ぐ必要はないので、竜の国へは歩きで行こうと思っていたのだが、朝パーティハウスの前に、明らかに高級な馬車が止まっていた。ハービアとの会話を聞いていた誰かが用意したらしい。

「ケイン様にはこの馬車に乗っていただくようにとおおせつかって参りました」
「ありがとうございます。せっかくなので使わせていただきます」

 俺は馬車だけありがたく使う事にして、御者ぎょしゃや護衛の騎士には帰ってもらった。パーティメンバーだけで楽しく過ごしたいからな。
 御者と騎士が去った後しばらくすると、案内役の青龍が人化した姿でやって来た。
 彼は到着するなり、豪華な馬車に目を奪われている。

「なんだ、この凄い馬車は……」
「いや、俺もすっかり忘れてたんだけど、表向き俺はこの国の王様と同じ扱いなんだよ」
「そうか……だけど、これだとシュベルター王国の重鎮じゅうちんと竜王様が会うという、政治的にかなり重要なイベントになってしまうな。もしかして、俺はまずい事を頼んでしまったのでは……」
「まぁ今回は友人として訪れるだけだから、気にしなくて良いんじゃないか?」
「そうだな、ありがとうケイン」
「いいよ。ちょうどパーティメンバーでバカンスに行こうと考えていたから、そのついでだ」
「そうか、もし今回の話が上手くまとまったら、俺がいろいろと案内してやろう。竜の国でも最高クラスの待遇でもてなしてやるよ。これでも竜王様直属の精鋭で、竜の国ではそれなりに地位があるからな」
「ああ、頼んだよ」

 こうして、俺達自由の翼と青龍は用意された馬車に乗り、竜の国へと旅立った。


 出発してからしばらく経った頃――俺は御者をしながら、隣に座るシエスタに話しかける。

「シエスタ、なんでずっとそこに座っているんだ? 中の方が乗り心地はいいぞ」
「わたしはメイドですよ? 御者台の横に座るのは当たり前じゃないですか」

 すると、中からアイシャが顔を出して言う。

「御者なら私もできるんだ。ケインが疲れたら交代するぞ」
「アイシャさん、田舎娘をめちゃいけません。農家に生まれたわたしにとって馬を扱うのは朝飯前です」

 シエスタは確かにイメージ通りだが、パーティでタンク役を務めるアイシャは大ざっぱな性格の印象だったので、御者ができるのは意外だった。

「そんな事を言うなら、輸送専門のうちだってできますよ」

 アイシャとは反対側の窓からクルダが顔をのぞかせて言った。
 俺は三人の申し出をありがたく受け取る。

「そうか、なら少し体が冷えたから、とりあえずアイシャとクルダにしばらく代わってもらおうかな」

 そう言って俺は、シエスタと共に御者台を下りてアイシャとクルダに席を譲る。
 交代相手がいると思うと少し気が楽になったな。

「アイシャ……これはうちが考えていたのと違います」
「同感だ、クルダ……これじゃ寒いだけだ」

 二人は何やらぼそぼそ言い合っていた。
 馬車の中に入ろうとすると、入れ替わりでアリスが下りてきた。俺が声をかける暇もなく彼女は近くの草むらに走っていき、乙女おとめとは思えないうめき声を出しながら、吐いていた。

「ア、アリス……大丈夫か?」
「うん、と言いたいところだけ、うぷっ……ま、まさか自分が馬車にここまで弱いなんて……ごめん」

 すると、俺の横で心配そうに覗き込んでいたシエスタが言う。

「アリスさん、これをあげますよ」
「シエスタ、何それ?」
「それは食べてからのお楽しみです!」

 シエスタがアリスに差し出したのは、しわくちゃの果実……まさか。アリスはそれを口に放り込んだ。

「すっぱいし、しょっぱい……シエスタ、これ毒じゃないの?」


「これはうめーほしです」

 なんだか梅干しみたいに聞こえるな……というか、見た目もそっくりだ。

「俺も一つもらっていいか?」
「はい、ケイン様」

 シエスタにもらって食べた感じ、確かに梅干しだった。

「これはいけるな。だけど、なんでこれ、うめーほしって言うんだ?」
「この実は干さないで食べると凄く不味まずいんです。それで干して食べると美味しいよ、という意味を込めて〝うめーほし〟って呼ばれているそうです。しかし、初めて食べたのにこの味に驚かないなんて、さすがはケイン様です」

 シエスタの言葉を聞いて、アリスがうらめしそうな視線を向けている。

「シエスタ……ひどい。確信犯だったのね」
「ですが、アリスさん、これは本当に乗り物いに効くんですよ」

 確かに乗り物酔いにはっぱいものが良いというのは、俺も聞いた事がある。
 アリスは渋々納得して、馬車の中に戻っていった。
 俺とシエスタが乗り込むと、馬車は再び走り始める。
 アリス以外の皆はトランプみたいなゲームをやっているが、よく見ると違っていた。
 俺が尋ねると、ソニアが説明してくれる。

「これ、スランクっていうゲームなんですって。同じ絵札を二枚集めると場に捨てる事ができるの。最後までカードを持っていた人が負けなのよ」

 言われてみれば、皆が持っているカードには数字の記載がなく、全て絵札だ。
 ちなみに、今一番負けているのが青龍。いでリタ、ソニア。ケイトとメルルがほとんど負けなしで一位と二位を独占していた。

「竜種はこんなゲームをしない」
「私だってそうよ。つらい旅ばかりでこういうゲームなんてした事ないわ」

 青龍とリタが負け惜しみを言っているが、俺は笑って指摘する。

「こういうゲームは、別に経験は関係ないと思うぞ」

 すると、青龍とリタが詰め寄ってきた。

「そんな事を言うならケイン、お前もやってみろよ」
「案外難しいわよ。賢者で頭脳労働が得意な私が全然勝てないんだから」

 メルルとケイトも挑戦的な顔を向けてくる。

「相手がケインでも負けませんよ」
「僕に勝てると思っているのかな?」

 やけに自信ありげな二人。俺はゲーム性を増すために、一つ提案する。

「十回やって俺が二回以上一位を取れなかったら、一番多く一位を取ったやつの言う事を一つ聞いてやるよ」
「「「「「「……」」」」」」
「ケイン様、それならわたしも参加しても良いでしょうか?」
「うぷっ、そういう事なら私も参加するわ」

 シエスタとアリスが手を上げて言った。

「もちろんいいよ。じゃあ、御者の二人以外の全員でやろうか」


 結果、俺は十回のうち三回一位を取った。

「なんで、そんなに強いのよ……」
「何かおかしいわ」

 リタとソニアが詰め寄ってきたが、俺はもともとこういうカードゲームが得意なだけだ。
 ごねる皆を横目に、俺は少し得意になるのだった。


   ◇◆◇◆◇


 パーティハウスを出発してから数日――道中特に問題は起こらず、俺達は竜の国まで少しのところに来ていた。
 馬車を降りてみんなで休んでいる時、ふとケイトがつぶやいた。

「そういえば、ケインがもらったラグドリアン湖には、全然行けてないや」

 確かに、今までいろいろな事がありすぎて、結局一度も足を運べていない。

「この件が片付いたら今度こそ行きましょう」

 アリスが言うと、ケイトは表情をぱっと明るくした。

「そうだね……ラグドリアン湖で魚釣り三昧、僕凄く楽しみ」
「ラグドリアン湖周辺は温泉があるんです! 皆で入ってゆっくりできます」

 クルダが新情報を口にする。温泉があるのか……それは楽しみだな。
 よくよく考えてみたら、この世界で温泉なんて行った事がなかった。
 すると、青龍が口を挟んでくる。

「あのよ……なぜラグドリアン湖なんだ? 竜王様達との話し合いが終わったら、俺が竜の国で楽しませてやるって言ったよな?」

 そうだった。とはいえ、俺達は竜の国について何も知らない。

「青龍、竜の国って何があるんだ? 美味うまいものとか観光地とか……」
「竜の国の肉は凄く美味いぞ」
「肉か……他には何かないのか?」

 肉なら狩れば新鮮なものがいつでも食べられるしな……

「いや、肉以上に美味いものはないぞ? まさかお前達は草食なのか?」
「どちらかと言えば雑食だな」
「ならば、肉を食えば良いだろう」
「そうだけど、そういう事じゃなくてだな……」
「それに、竜の国にはお前達が話していた温泉も湖もあるから、終わったら案内してやる。まぁラグドリアン湖には負けるがな……」
「わかった。楽しみにしとくよ」
「おお。さて、そろそろ出発するか」

 そうして、俺達は再び馬車に乗り込み、竜の国への旅路を行くのだった。


 それから数時間後――

「ほら、見えてきたぞ」

 青龍がそう言うので、俺は馬車の窓から前方を見る。
 目の前には竜が闊歩かっぽする大きな村があった。

「ここからは、俺も竜の姿に戻るよ」

 すると、青龍は大きな竜の姿に戻る。
 いつも人型の姿しか見ていないが、これこそが青龍の本当の姿だ。
 こうして見ると、改めて竜だったんだな……としみじみ思う。
 俺達は青龍の後について村に入った。

「青龍様、お客様ですか?」
「そうだ。この馬車をしばらく預かってくれないか?」
「青龍様の頼みなら、私が責任を持って管理いたします」

 青龍は村長とおぼしき竜と話している。というか、会話は人語なんだな。
 村長をはじめ、周りの竜が青龍に対して敬語を使っているので、彼が竜の国で高い地位を得ているのは間違いない。
 イービルの件で、俺の中の評価は下がってしまっているが、こう見るとなかなか威厳いげんがあるな。

「ケイン、馬車はここで預かってくれるそうだ。ここから先の町や村には人化できない竜がたくさんんでいる。馬もおびえるかもしれないし、何より大型の竜に間違って踏まれたら大変だ」

 確かにその通りだな。竜が棲む場所を馬車で進むのは難しそうだ。

「それで、ここからどうするんだ?」
「俺の背中に乗っていけばいい」

 青龍の申し出はありがたいが、だったら、最初から青龍に乗ってくれば良かったのではないか?
 そんな事を思いつつ、皆で青龍に乗って移動する事二時間――ようやく俺達は竜王の城にたどり着いた。
 城を目にした俺は思わず呟く。

「これ、洞窟どうくつじゃないか?」
「洞窟だと何かおかしいのか?」

 青龍は〝なんでそんな事を聞くんだ〟という顔で俺を見ている。

「いや、普通日当たりが良い場所に城を作るんじゃないかと思って」
「竜種は火竜等の一部を除いて、湿っていて涼しい場所を好むからな。そうなると洞窟はもってこいなんだ」
「そうか」
「それに、ここはただの洞窟じゃない。最初はダンジョンになっていて、途中から人間の城のような内装に変わるんだ」

 それを聞いて俺は尋ねる。

「もしかして、ダンジョンに魔物が棲んでたりするのか」
「そんなわけがないだろう。竜種、それも竜王様が棲んでいるダンジョンに、他の魔物がいるはずがない」

 確かにその通りだな。とにかくさっさと用事を済ませる事にしよう。

「それじゃ、俺は青龍と行ってくるから」

 俺は皆にそう告げた。青龍は門番らしき竜と話した後、俺以外のパーティメンバーに向けて言う。

「お前達の事は、門を守る衛兵に頼んでおいた。地上に客人をもてなす迎賓館げいひんかんがあるから、そこでくつろいでいると良いぞ。後これを渡しておく」

 青龍は俺を除く全員にメダルのようなものを渡した。

「なんだ、それ」
「俺の招待客であるというあかしだ。持っていればこの国で何かと優遇してもらえる。それじゃケイン行くぞ」

 そう言うと青龍は、先に歩いていってしまった。
 まだ着いたばかりなんだから、俺だって休みたい……いや、無駄に高すぎる能力のおかげで疲れてはいないけど、茶くらいは飲みたかった。

「それじゃ皆、行ってくる」
「「「「「「「「行ってらっしゃい(ませ)」」」」」」」」


 俺は青龍に続いて洞窟に入る。
 まるで中は前世で言うところのRPGみたいな感じだ。
〝〇〇があらわれた〟なんて事があってもおかしくない。
 まぁ竜種が棲んでいてしっかりと統治しているなら、それはないだろうが。
 しかし、見ていてシュールだ。俺を案内する青龍は人型に戻っているのだが、ところどころに大きな竜達がいて、俺達が通ろうとすると道を開けてお辞儀をしてくる。
 しかも――

「青龍様だ。いつ見ても凛々りりしいな」
「そういえば、まだつがいはいないんですよね」
「私、立候補しようかな」
「お前みたいな竜じゃ無理だな」

 どうやら青龍は結構な人気者らしい。まぁ人の俺には竜の器量のしなんてわからないが。

「このあたりはまだ人化できない竜ばかりだ。ここから下に行くと徐々に高位の竜が増えていくから、人化できる者が多くなっていく」

 青龍の後について階段を下りていくと、壁がごつごつした岩からレンガに変わっていった。
 それと同時に、周囲の竜種も人化している者が増えていく。
 青龍によると、高位の竜種は普段から人化して過ごす事が多いという。その方が何かと便利なのだとか。

「凄いな……皆人間にしか見えない」
「まぁな。このあたりの竜は大体数百年生きてるから、かなり高度な人化ができるんだ」

 そんな話をしながらさらに奥に進んでいくと、いつの間にか普通の城の中のような空間を歩いていた。こんな場所が地下にあるとは……

「そら、王の間に着いたぞ」

 青龍はそう言って、目の前の大きな扉を見上げた。
 青龍が入り口を守る二人の人化した竜に何かを伝えると、その二人が扉を開けた。
 中はさぞ豪華絢爛ごうかけんらんなんだろうなと思っていたが、意外とそんな事はない。
 絨毯じゅうたんや椅子はさすがに立派なものだが、それ以外は貴族の屋敷の方が豪華かもというくらいだった。
 一番奥にある玉座に竜王と思しき人物が座り、その周りに七人の少年や青年が立っている。

「竜王様」

 青龍がそう言ってひざまずいたので、俺も青龍にならう。

「久しいのう、青龍。八大竜公の中で一番の城嫌いのお前が自分から来るとは珍しい」
「そのような事はございません」

 青龍が震えている。こいつ、自分の主に対しても怯えているのか……生きるのが大変そうだな。

「余になんの用だ? その人間は誰だ?」
「こいつの名前はケインといいます。今日はケインの話を聞いていただきたい」
「〝竜殺しのケイン〟か……青龍よ、前にケインによる竜種の大虐殺だいぎゃくさつがあった時、余はお前に言われてケインを殺す事をやめたのだ。それなのになぜここに連れてきた」

 そんな事があったのか?
 俺は知らないところで、青龍に命を助けられていたらしい。

「今回はそれとは別で話があるのです」
「まぁ良い。聞いてやる」

 そこで俺は初めて口を開き、青龍がイービルに虐殺をやめるよう言ったところ、代わりに金を貢ぐ――つまり、竜種がイービルの傘下さんかに降らなくてはならなくなった経緯を話した。

「ほう、その凶神イービルを我々に信仰しろというのか?」
「そ、そういう事です」

 竜王は明らかに侮蔑ぶべつの目で俺を見ている。

「たかが虫けらの人間ごときが、竜種の頂点である余に人間の神に跪けだと? 思い上がるな」

 竜王がそう言うと、そばにいた人化した竜七人――彼らが八大竜公らしい――が騒ぎ出した。そのうちの一人が言う。

「お前は下位の竜を大量に倒したそうだな? 確かに人としては強いのだろう。だが八大竜公の中で一番弱い青龍に勝てなかった。そんなやつの信仰する神なぞ取るに足らぬわ」

 待て、青龍はこの中じゃ一番弱いのか?
 それより……まずい。自分に加護をくれた神をけなされたせいか、心の中がざわめいてきた。
 加えて、俺は青龍にも加護をもらっているので、彼を馬鹿にされた事も俺の怒りを駆り立てている気がする。やっかいな体質だ。

「青龍は王に連なる血筋だと聞いた事がある。俺はともかく、竜王の血筋の者がこうして竜種のために尽くしているんだ。どうにかするのが王の役目ってもんじゃないのか」

 やばい、口調も制御できなくなってきている。

「青龍は確かに余の血筋だが、血が薄い。竜の王の実力がともなわないゆえ、王位継承権を与えず部下として置いているのだ」

 竜王の言葉に、八大竜公のうちの数人が続く。


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