転生王子はダラけたい

朝比奈 和

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4巻

4-8

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「じゃ、アリスたちを迎えに行こうか?」

 しかし、レイは俺を手で制止する。俺とカイルが首を傾げると、レイはチッチッチと舌を鳴らした。

「まだ、その衣装、完璧じゃないぜ」

 見ると、先ほど服があった場所の脇に、何かが置いてあった。
 他の衣装にまぎれてて、気づかなかったな。
 えっと、ふちに白のファーがついたえん色のマントと……おうか……王冠っっ!?
 レプリカらしく、とても軽かったが、小ぶりのそれは確かに王冠の形をしていた。

「え。いや、これは、さすがに……」

 あわあわとする俺に、レイはニヤリと笑ってもう一つのアイテムを差し出す。
 ……おうじょうもあるんですね。


   ◇ ◇ ◇


 未だ盛り上がるパーティーから抜け出し、いつもの六人でこっそりと来たのは、例の秘密基地。校舎の奥にある、今は使われていない教務室だ。
 飲み物や食べ物を抱えて、俺たちは扉を開ける。
 中では皆の召喚獣たちが、のんびりくつろいでいた。
 ホタルがいるせいか、室内はとても暖かい。
 ヒスイがふわりと飛んできて、俺たちの前に降り立つ。

【お帰りなさいませ】
「ただいま」

 ヒスイは踊り子の衣装に身を包んでいた。
 レイが「おぉぉ! 美しい!」と声をあげ、ライラとアリスも「綺麗」とうっとり見つめる。
 エメラルドグリーンの衣装は、ヒスイのライトグリーンの髪や瞳にとても合っていた。
 この部屋で留守番を頼んだ時に着ていた、チャイナ服みたいなタイトなワンピースも良かったよな。
 服を用意しなくても、自分の意思で自由に姿を変えられるヒスイは、この仮装パーティーを誰よりも楽しんでいる。

【フィル様~っ! 待ちくたびれたっす!】

 トテトテとテンガがやってきて、俺の足元にまとわりつく。
 ちなみにテンガたちも仮装をしていた。衣装はすべて、ベイル先輩が縫ってくれた。
 他の人のサイズ直しで忙しかっただろうに、パーティー発案のお礼にと作ってくれたのだ。
 ふくろねずみのテンガは、狼の着ぐるみを着ていた。コクヨウをアニキとしたい、憧れを抱く本人たっての希望である。
 だが、いかんせん、本人はワラビーなので、直立状態だと狼に見えにくいのが難点だ。

【フィル様、お疲れ様です~】

 毛玉猫のホタルは、虎の着ぐるみを着ていた。同じ猫科として、これまた強いものに憧れがあるのだろう。
 だが、フォルムのせいだろうか? ホタルの場合、丸い虎にぱっくり食べられているように見える。
 でもやっぱり、着ぐるみは最強だな。すごく可愛いや。
 持ってきた荷物を机に置いてソファに腰を下ろすと、二匹を撫でてやる。

【フィル~! コハクも!】

 こうけいのコハクが足元に来て、俺の足を翼でペシペシと叩く。
 どうやら自分も撫でろとの要求らしい。
 撫でろって言われてもなぁ。
 カボチャにふんしたコハクには、出ている部分が少ない。布と綿で立体的に作られているオレンジ色のカボチャからは、コハクの顔と翼と足だけしか見えなかった。


「わぁ! コハク、ポクムの仮装なんだ? 可愛いね」

 トーマがクスクスと笑う。
 こちらの世界で、カボチャは「ポクム」と呼ばれている。
 ベイル先輩には何でポクムの仮装なのか不思議がられたが、俺としてはハロウィンの連想から始まったパーティーだったので、ぜひにとお願いしたのだ。

「ねぇ、エリザベス。あんな格好も可愛いかったかもね」

 トーマはそう言いながら、ナガミミウサギのエリザベスを抱きかかえる。
 今日のエリザベスは純白のウェディングドレス。トーマの羊の着ぐるみが白いモコモコなので、エリザベスは毛皮にすっぽりと収まって同化した。

【絶対イヤ! 冗談じゃないわよ!】

 ゲシゲシとトーマを蹴る。いつもなら痛がるトーマだが、今日はモコモコがクッションとなり、ダメージを受けていないみたいだ。エリザベスを抱きしめながら、トーマはのほほんと笑う。

「エリザベスは、どんな格好もきっと似合うと思うんだぁ」
【そ、そんなに言うんだったら、着てやらなくもないけど!】

 そう言って、プイッとそっぽを向く。
 エリザベス、相変わらずのツンデレだなぁ……。
 少し呆れつつ、コハクを手のひらに乗せ、指で撫でる。すると、ポクムの着ぐるみの重みでころりと転がった。コハクはそれもまた楽しいらしく、ジタバタしながら遊んでいる。

【フィル、戻ってきたなら、これをどうにかしろ】

 俺がコハクを手のひらで転がしていると、コクヨウが俺のひざに乗ってきた。

【動きにくくてかなわん】

 不満そうに、タンタンと足踏みする。

「か、可愛いぃっ!」

 アリスとライラが口を押さえて、コクヨウを見つめた。
 今日のコクヨウは、茶色のくまちゃんぬいぐるみバージョンだ。可愛らしくにっこり笑うくまちゃんの顔の下で、満面不機嫌になっている。でもその顔も、またギャップがあって可愛かった。

「可愛いのに。ねぇ、カイル」

 カイルに同意を求める。
 コクヨウにジトリと睨まれたカイルは、顔を引きつらせた。

「え、いや……俺からは何とも……」

 コクヨウはフンと鼻息を吐く。

【可愛いと言われても、嬉しくないわ】

 コクヨウが着ぐるみの足をカジカジと噛み始めたので、俺は慌ててそれを止めさせた。

「せっかくなんだから、もうちょっと着ていようよ。ほら、今日はポクムのプリンがあるんだよ」

 にっこり笑ってオレンジ色のプリンを差し出すと、一瞬にしてコクヨウの視線はそれに釘付けになった。

【……この流れに乗るのはしゃくだが、食うまでの間は我慢してやってもいい】

 コクヨウはか胸を張ると、ポクムプリンにがっつき始める。
 それを合図に、俺たちもポクムプリンや会場からいただいてきたお菓子を食べることにした。
 皆に注目されて、飲食できる感じじゃなかったからな。

「ポクムのプリン美味しいっ! これもグレスハートの?」

 ライラがキラキラとプリンの容器を見つめる。

「うん。新作。たまにはいいでしょ」
「あぁ、テンガ君がいたら、世界で手広く商売できるのに」

 残念そうなライラの言葉を聞いて、テンガは俺の足に張り付いた。

【袋壊れちゃうっす!】
「ライラ、テンガが袋壊れるって言ってるぞ」

 カイルがテンガの言葉を通訳すると、ライラは慌てた。

「ごめんごめん! 冗談だから……できるといいなとは思ってるけど」

 後半のつぶやきが真顔だったので、テンガは震えた。
 それ、本気じゃん。

「フィル、お茶をどうぞ」

 アリスが、そっとマクリナ茶を出してくれる。
 着物姿のアリスにお茶を出されると、ここだけ日本って気がするなぁ。

「ありがと」

 マクリナ茶を飲んで、俺はホッと息を吐く。

「パーティーは楽しいけど疲れたね」

 俺がソファにもたれながらつぶやくと、カイルが苦笑した。

「フィル様は特に……ですよね」

 他の皆も、くすくすと笑いながら「うんうん」と頷く。

「デュラント先輩はかっこ良くて、マクベアー先輩は迫力あったけど、やっぱりフィル君が一番目立ってたわ」

 腕を組んで息を吐くライラに、レイがまぶたを閉じてうっとりと言う。

「すっげー可愛かったもんなぁ」

 俺は頬をぷっくりと膨らませた。

「僕だけじゃないでしょ。皆だって目立ってたじゃないか」

 だが、レイは俺に向かって、ニヤリと笑った。

「でも、フィルにはかなわないだろう? 何せフィルは、ドレスから着替えたあと皆に……」
「やめてっ! それ言わないでっ!」

 俺は叫ぶと「わぁっ!」と両手で顔を覆う。
 ホタルは心配そうな声で、俺にすり寄った。

【フィル様、どうしたです?】
【何があったっすか? いじめられたっすか? どうしたっすか?】

 テンガは俺の表情をうかがうためか、右に左にと移動してのぞき込んでくる。
 覆った手の隙間からテンガの反復横跳びを眺めながら、俺は先ほどあった出来事を思い出す。
 まさかベイル先輩の用意した服が、ただの礼服ではなく、王様の衣装だったなんて――。
 会場に王子様っぽい格好をした生徒は数多くいたが、さすがに王様は俺だけだった。
 でも、不眠不休でわざわざ用意してくれたベイル先輩の気持ちを考えると、着ないわけにもいかなくて……。
 結局レイの勧めるまま、小さな王冠を頭に載せ、王杖を持ち、ファーのついたえん色のマントを着て会場に出たのだった。
 会場中に、さざ波のように広がっていった言葉――『少年王』。
 いくら仮装パーティーだからって、なんて恥ずかしいネーミングっ!

「うぅ……妙にご大層な名前をつけられるくらいなら、まだ『ちびっこ王』のほうが良かった……」

 うつむいて小さく嘆くと、氷亀のザクロが俺の足を叩いた。

【フィル様っ! 安心してくだせぇ! フィル様を悲しませるやからは、このザクロが許しはしねぇ】

 手を顔から離して足元を見れば、そこにはポーズを決めるザクロの姿があった。
 今日のザクロの格好は、お奉行様コスプレだ。ベイル先輩が、俺のイメージ通りに細部まで作ってくれて、チョンマゲカツラにかみしもをつけている。
 ザクロはお奉行が何なのかを知らないのだが、俺が正義の味方だと伝えたら、いたく気に入ったらしい。オーバーアクションの言動は、何だか動物時代劇でも見ているみたいだ。

【ロイも手伝うっ!】

 レイの召喚獣であるスナザルのロイには、お奉行様の手足となる同心の格好をしてもらった。未だにザクロに心酔していて、お奉行の仲間の仮装がいいと言うので、それにしたのだ。
 俺の足元で反復横跳びをするテンガに、動物時代劇を始めるザクロとロイ……。
 見ていたら、何だか落ち込んでいる自分が可笑おかしくなってしまった。

【フィル、元気でた~?】

 コハクが俺を見上げる。他の召喚獣たちも、心配そうに様子をうかがっていた。

「皆、心配してくれてどうもありがとう。元気になったよ」

 俺がにっこり微笑めば、カイルたちも安堵して笑みを浮かべる。
 しかし、そんな中、トーマがしょんぼりと肩を落としていた。

「フィルが復活したと思ったら、今度はお前か。何で落ち込んでるんだよ、トーマ」

 レイが気づいて肩を叩くと、トーマはうなった。

「んー……花の精のライラ、お人形のアリス、漆黒の王子カイルとキンキラ王子レイ……って言われてたじゃない?」
「……そのキンキラって悪口じゃないよな?」

 レイの質問が聞こえているのかいないのか、トーマは無視して「フゥ」と息を吐く。

「フィルなんか、お姫様と少年王……」

 だからその呼び名やめて。

「そう考えると、今日の仮装、僕だけ地味なんだなぁと思って……」

 は? 今、地味って言った?

「トーマ……フィル様の次に目立ってたぞ」

 カイルがそう告げると、トーマはキョトンとした。

「え?」

 俺たちも「間違いない」と、肯定した。
 トーマのモコモコ羊は、本当にすごく目立っていた。クオリティ凄くて。

「本物の羊がまぎれ込んだんじゃないかって、ちょっとした騒ぎが起こってたくらいだよ」

 俺が言うと、プリンを食べ終わったコクヨウがトーマを見てポツリとつぶやいた。

【確かに……モコモコしていて、本物の羊っぽいな】

 ねぇ、今ペロリと舌なめずりしたのは、プリンを食べた後だから?
 俺はいちまつの不安を覚えて、自分のプリンを差し出した。

「これあげるから、食べちゃダメ」
【わかっておるわ】

 ……本当に? ちょっと本気の目をしていたのは気のせい?



 3


 レイが穴場として使用していた秘密基地。俺たちはここ最近毎日のように、放課後や授業の空き時間になると、この部屋に来ていた。

「何か皆……毎日ここに集まってないか?」

 レイは悲しそうな声で、ポツリとつぶやいた。

「俺の秘密基地が、どんどん侵食されていく……」

 確かに、初めて来た時と今では部屋の雰囲気が大分変わっている。
 以前は物が雑多に置かれ、少年心をくすぐる秘密基地感があった。
 だが今は、机の下にダークブラウンのじゅうたんが敷かれ、ソファにはオレンジ色に白のしゅうが入ったカバーがかかっている。雑多に置かれていた物も、オブジェとしてセンス良く配置されていた。
 おしゃな「おうちカフェ」みたいな内装である。
 カイルはしょぼくれた様子のレイを見て、困った顔で息を吐く。

「寮だと男子と女子にわかれている。皆で話をするなら、ここが丁度いいだろう?」
「でもさ、ここじゃなくても、カフェとかあるじゃないか」

 そう言って、レイは口をとがらせた。
 やはり少年として、自分だけの秘密基地がなくなるのは悲しいらしい。
 だが、そんなレイの申し立てに、ライラは呆れた口調で言う。

「聞き耳を立てられてるかもしれない状況で、何を話すっていうのよ。さっきだって、ファンクラブの子たちがフィル君の後をつけていたのよ。カフェなんか無理に決まってるでしょ」

 トーマとアリスも、同意見とばかりに頷く。

「ファンクラブに入っていない子はカイルがいっかつしてくれたおかげで、表立っては騒がないけど。何となくフィルの様子をうかがってる感じはあるよねぇ」
「そうね。ほとぼりが冷めるまでは、カフェも使わないほうがいいと思うわ」

 そんな皆に対し、俺は申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
 そうなんだよなぁ。エナ草の一件以来、同級生の熱量が凄くて、大変困っている。
 まず、女の子の場合。
 可愛い可愛いと言うだけならいいのだが、一部のファンクラブ会員が後をつけてくるので、心の休まる時がない。
 片や、男の子場合。
 俺がいずれ何かすごいことを成し遂げると、多大な勘違いをしている。
 エナの量がすごかろうが、精霊を召喚獣にしていようが、特に成し遂げたい野望なんてない。
 伝承の獣のコクヨウや鉱石の力を使って、世界征服する気も全くないし……。
 俺の望みは、ただ動物たちともふもふゴロゴロしながら、平穏に人並みの人生を送ることだけ。
 普通に接してくれたほうが、嬉しいんだけどなぁ。
 今のところ、このメンバー以外でまともに会話できてるの、調理の班のターブとオルガくらいじゃないだろうか。早くほとぼりが冷めて欲しい。

「皆、迷惑かけてごめんね」

 俺が頭を下げると、アリスは優しく微笑んだ。

「フィルが謝ることないわ」
「そうそう。カフェなんか行かなくても、こうしてお茶が飲めるし」

 そう言ってライラはにこっと笑い、マクリナ茶の入ったカップに口をつける。

「うん。ファンクラブをいてこの秘密基地に来るのも、何か楽しいしね」

 長閑のどかな口調で言うトーマに、皆がほんわかとする。
 そんな俺たちの様子を見ていたレイは、ようやく諦めたらしく、長いため息を吐いた。

「わかった。ここを皆の集会所にしていいよ。でも、これ以上、人数増やすなよな」

 不承不承頷くレイを、ライラが横目で見る。

「あんたこそ、フィルのファンクラブに教えないでよ。あんたの好きなメルティーちゃんに」
「し、しないって! そんな、フィルが困るようなこと。それに、大丈夫。……俺今、ラミア様に夢中だからさぁ」

 そう言って、デレデレとそうごうを崩した。
 レイは先日の山犬魔獣事件でラミアと会って以来、時々こんな顔になっている。

「そう……ならいいけど」

 ふやけた顔にドン引きして、ライラは頬を引きつらせる。

「じゃあ、ここを私たちの拠点にするって決まったところで、何のクラブにするのか皆で話し合わない?」

 アリスの言葉に、皆は今日ここに集まった理由を思い出してうなった。

「そうだよねぇ……」

 俺はげんなりと、机に置かれたチラシの束を見る。クラブ勧誘のチラシだ。
 中等部、高等部の学生は、何かしらのクラブに所属しなければならない。
 何十人も所属する大きなクラブもあれば、五人程度の小さなクラブも存在する。
 顧問の先生は必要だが、認可されれば活動内容は生徒に任せているみたいだ。よって、正統派クラブから、マニアックなものまで多種多様だった。

「それにしてもクラブ多すぎない? こんなにあるとは思わなかった」

 俺がどうしたものかと困っていると、レイがチラシの束を渡してくれた。

「掛け持ちありだからな。活動日がかぶらなきゃ、二、三個所属している場合もざらだし」

 話には聞いていたが、そんなに皆、掛け持ちしてるのか……。
 チラシの束を、パラパラとめくる。
 なるほど。裁縫クラブは三日に一回、天文クラブは週一回、地図作成クラブは月一回か……。
 剣術クラブみたいに、毎日活動しているところは意外に少ないんだな。
 まぁ、俺は一つのクラブで充分だけど……って、何だこれ!
『本日のラミア様クラブ』!? ……毎日活動してる。
 活動内容は……毎日放課後、クリティア聖教会ステア支部に行ってラミア様の情報を得て、ラミア様に思いを馳せる。クラブ人数、五十五人。……大所帯じゃん。
 他にも珍味クラブ、似顔絵クラブ、探検クラブ……などなど。
 学校の認可がゆるいのか、何だこれ的なクラブもたくさんある。
 本来は学校に慣れるまで、ゆっくり考えて決められるはずなんだが……。
 いろいろあって後回しにしていたら、気づけば締め切り間近になってしまった。他の新入生はもう決まっているらしく、残っているのは俺たちだけだ。

「皆は何か入りたいの見つけた?」

 俺と同様にチラシをめくっている皆に視線を向ける。

「僕は動物研究会かなぁ」

 トーマからチラシを受け取って、活動内容を読む。
 個々で研究して、月一で発表する活動か……。まさにトーマ向きだな。

「個人での研究ばかりで、あんまり集まっての活動はしないみたい。だから、もう一個くらい入ってもいいかなって思ってる」

 微笑むトーマの横で、ライラは手に持ったチラシを見ながら深いため息を吐いた。

「私はまだ決めかねてて……。お茶会クラブに出るお菓子は魅力的だけど、噂によるとクラブの人、上流階級のお嬢様方ばかりだっていうのよね」
「ライラだってお嬢様でしょ?」

 俺がキョトンとすると、レイは小さく噴き出した。

「中身がお嬢様じゃないもんな」
「堅苦しいのが嫌いなだけよ。あんたみたいに、断られたわけじゃないから」

 そう言って「フン!」とライラがそっぽを向くと、レイは驚いてソファから立ち上がった。

「何でそれをっ!」
「え、断られたの?」

 トーマにポカンとされて、レイは低くうなりソファに再び腰を下ろす。
 だが、ねた顔をするばかりで、話そうとしない。
 ライラを見ると、彼女は小さく肩をすくめた。

「レイは、お茶会クラブとか裁縫クラブとか、女の子の多いクラブを希望したんだけど、ことごとく断られたの」
「どうして?」

 不思議そうなアリスに、ライラは笑いをこらえながら言った。

「レイの女の子好きはすでに有名じゃない? クラブ内が荒れそうで嫌なんだって」
「…………あぁー」

 一呼吸置いて、レイ以外の皆が納得して頷く。
 その反応に、レイはふるふると震えて叫んだ。

「女の子が好きなだけなのにっ!」

 まんべんなく好きなのが、問題じゃないかなぁ。
 レイがあまりにも落ち込んでいるので、先ほどのチラシを渡した。

「じゃあさ、本日のラミア様クラブは? さっきラミアに夢中って言ってたでしょ?」

 レイは微笑む俺から、手に持ったチラシに視線を落とす。

「ラミア様は好きだよ。でも……フィルはわかってない……」

 そう小さくつぶやき、目を大きくカッと見開いて言った。

「このクラブは、男しかいないっ!!」

 あ…………そうだね。盲点でした。

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