転生王子はダラけたい

朝比奈 和

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4巻

4-13

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「だからね。仕方なかったんだよ」

 一部始終を説明し終えると、コクヨウはくるりと振り返り、こちらをジトリと睨んだ。

【おひとしめ! 世の中は強者が勝つもの。何もエッグタルトを、やる必要はなかったのだ】

 俺は「ごめん」と、手を合わせて謝る。

「今回だけって約束したし。コクヨウやレイたちには、明日もう一回作ってあげるから」
【大きいのだぞ。丸いのまるまるだぞ】

 タンタンと足を鳴らすコクヨウに、俺は深く頷いた。



 5


 ここは中等部の寮。三年のジェイ・ハリスの部屋だ。
 部屋の中央では同級生十四人が集まり、とある会議が行われていた。

「じゃあ、間違いないのか?」

 ジェイが聞くと、ティム・ミラーはメガネを光らせコクリと頷く。

「あぁ、間違いない。同じクラブの一年から仕入れた情報だ。商学の時間に、フィル・テイラの班が例のクッキーを販売するらしい」

 聞いていた彼らは、ゴクリとのどを鳴らした。
 ティムは三年生の中で、一番の情報通だった。彼が「間違いない」と言うのであれば、その情報の信用度は高い。

「ついに来たるべき時がきたなっ!」

 ジェイは拳を握りしめ、熱のこもった口調で皆の顔を見回す。
 そんなジェイの隣で、シモン・ロイズは遠くを見つめながら息を吐いた。

「ベイルからもらった、テイラの試作クッキー。俺、あのクッキー食べてから、他のクッキーが美味しいと思えなくてさぁ」

 そう言ってぎゅっと目をつむり、目尻に浮かんだ涙をそっとぬぐった。

「シャクの実のドライフルーツとジャム。甘酸っぱくて美味うまかったよなぁ」

 シモンの言葉に、皆が顔をほころばせ何度も頷く。
 その頷く中に、イアン・ルースの姿もあった。

「確かに、あれは美味しかった。色鮮やかで、雑味もなく、素材を活かす味。ドライフルーツも、ジャムも最高級品の味だよ」

 そう言うと、記憶の味をはんすうするかのように、何も入っていない口をモゴモゴと動かした。
 彼の家は、美食家として有名な貴族のルース家だ。当然、幼少期から美食で育ったイアンも、かなり舌がえている。
 その彼をも納得させる味かと、同級生たちはどよめいた。

「俺の調べじゃ、あれはテイラの手作りらしいぞ」

 ティムの言葉を聞き、彼らはきょうがくする。

「オフロといい、クッキーといい、どれだけ才能があるんだ……」

 ジェイはがくぜんとして、軽く頭を振った。

「テイラは日干し王子のいる、グレスハート出身らしいからな。作り方を知っているのかもしれない」

 ティムが手帳を見ながらそう推測を述べると、イアンはなるほどと頷いた。

「最近あの国の名産は、とても品質がいいからな。あのクッキー、もっと食べたかったなぁ。この前、二枚しか食べられなかったんだよ」

 しょんぼりしたイアンのお腹が、グゥゥゥと鳴る。
 そんなイアンを、クリフ・エイデンは恨めしげに見た。

「俺なんか、かけらだけだぞ。皆最低二枚は食べているのに、俺だけ一枚の半分以下しか口にできなかった」

 クリフはため息を吐いて、肩を落とす。
 自らを「運が悪い」という彼は、小さな不幸が常につきまとう男だった。
 ジェイは、そんなクリフの肩を強く叩く。

「だからこそ! 今回そのクッキーを手に入れるべく、同志が集まったんじゃないか」

 熱のこもった力強い言葉に、クリフは顔を輝かせ「そうだよな!」と頷く。

「それで、ティム。一年の商学の授業は、この時間帯に行われているんだな?」

 ジェイは三年生の時間割に記された、ある一点を指で示す。
 三年生たちは真剣な表情で、その紙をのぞき込んだ。

「あぁ、間違いない。確認済みだ」

 ティムはニヤリと笑い、しっかりと頷いてみせた。
 すると、示した箇所を確認したシモンは、ハッとして頭を抱える。

「俺、史学とかぶってるっ!」

 史学をとっているらしい他の生徒からも、次々に落胆の声が上がった。
 シモンはしばらく呆然としていたが、うつろな目をしてポツリとつぶやく。

「……こうなったら授業サボるか」

 それを聞いて、周りの三年生がざわめいた。

「シモン、何言ってんだ。お前、史学の単位微妙なんだろう?」

 ジェイに「しっかりしろ」と肩をつかまれ、シモンはフッと笑った。

「単位を引き換えにしてもいいと思っている」

 その顔はすがすがしいほど、スッキリしていた。
 ジェイは頷きかけて、すぐさま頭を振る。

「いやいやいや、駄目だろう。授業を受ける奴には、買って来たクッキーを分けてやるから。いくらなんでも、クッキーを買いに行って単位落としたらまずいって」

 シモンをさとすジェイの隣で、ティムが皆に向かって聞く。

「他に何人が史学を受けてる?」

 挙がる手を数えて、ジェイは眉をひそめた。

「半数か……」
「史学は、男子に人気の科目だからな」

 ティムは「仕方ない」とばかりに、肩をすくめた。

「だけど、手分けしたとして買えるのか? 聞いたところによると、敵は多いんだろう?」

 シモンが不安そうに聞き、ジェイは渋い顔で口元を歪める。

「あぁ、簡単ではないだろう。なにせ生徒総長が皆に触れ回っていたからな」

 生徒総長であるデュラント王子の宣伝効果は、本人の自覚以上に絶大である。 
 きっと噂を聞きつけた生徒が、商学を行うテラスに押し寄せることだろう。その影響が中等部だけにとどまらないことも予想できた。

「あのクッキーの存在を知られていない、初日が狙い目だと思ったのに」
「何で宣伝しちゃうのかなぁ」
「生徒総長、自分の影響力を全然わかってない」

 三年生たちは口々に言って、深いため息を吐く。
 そんな彼らの注目を集めるため、ジェイはパンパンッと手を叩いた。

「落ち込んでいても仕方ない! とにかく、作戦を練るんだ」
「そうだな。俺たちは授業で行けないけど……俺たちの分まで頼むっ!」

 シモンがジェイの手を握りしめ、お互い見つめ合ってしっかりと頷く。
 それから、ジェイは周りにいる仲間に向かって言った。

「皆! 意地でもクッキーを手に入れるぞ!」

 三年生たちは、部屋の外に聞こえるほど大きな声で、「おーっ!」と叫び、拳を掲げたのだった。


   ◇ ◇ ◇


 ジェイたち三年生による、クッキー大作戦当日。
 作戦と言っても、『他の人より早く販売場所のテラスに行く』ことが最も重要だった。
 ひどく単純で簡単そうだが、障害は二つある。
 まず一つ目、前の授業が必修科目の語学であることだ。
 選択科目と違って、必修は三年生全員が受けなければならない。しかも三年生の語学担当は、ダリア・メイズ先生だった。五十代の女性の先生で、時間に大変厳しい。
 他の先生は早めに終わることもあるのだが、ダリア先生はいつも時間きっかりだった。

「では、授業を終わりにします」

 鐘を聞き終えたダリア先生がそう言って、ゆっくりした足取りで教室を出ていく。
 ジェイたちはダリア先生に続いて、すぐさま教室から飛び出した。

「こっちが近道だ!」

 先頭を行くティムの指示に、ジェイたちは走る足を早める。
 廊下から外に出て、植木を乗り越え、坂を上り、木々の間を抜けていった。

「急げっ! 離れてるんだから!」

 これがもう一つの障害だった。三年生の教室は、全学年の中でテラスから最も遠いのだ。
 ただでさえ出遅れているのに、この距離は大変な痛手だった。

「あぁ、走るの苦手なのに……」

 ドタドタと走りながら、荒い息を吐いてイアンが嘆く。他の生徒よりふくよかなイアンは、運動を最も苦手とする少年だった。
 ティムの調べた最短コースを通っているのだが、最短ゆえに道なき道を進まなければならず、それがより彼の息を上がらせている。

「大丈夫。ここを抜ければ、すぐだ」

 そう言ってティムが指し示した先には、背の高い垣根があった。

「この向こうにテラスがある」

 にっこりとティムが微笑む。
 ジェイが垣根の葉と葉の隙間をのぞくと、テラスの広場と屋台が見えた。

「どうやって、これを抜けるんだ? 飛び越えるには、高すぎるけど……」

 クリフが垣根を見上げて、心配そうに言った。他の皆も、不安そうにしている。

「上じゃない。下だよ」

 言われて皆で下を見れば、人一人が通れそうな穴があった。

「ここか?」

 ティム以外の全員が、戸惑いの表情を見せる。
 そんな彼らの目の前で、ティムがいつくばりながら穴の中へと消えていった。

「さあ、早く!」

 向こう側から声が聞こえて、ジェイはゴクリとのどを鳴らして穴へと入っていく。
 地面は落ち葉で覆われているので土はつかないものの、穴は少し狭い。ジェイはり傷を作りながら、垣根をくぐった。
 穴を抜けて再会したティムの頭や服には、葉っぱがついていた。ジェイは自分やティムについた葉っぱを軽く払いながら、辺りを見回す。
 少し離れた位置にある屋台には、もうすでに多くの人が並んでいた。
 ジェイがそわそわと足踏みを始めた途端、後ろで声が上がった。

「あぁ! どうしよう!」

 振り返ると、ジェイの後から来たクリフが、穴を見てワタワタしていた。
 ティムとジェイが穴に視線を向けると……。

「うぅ~」

 イアンが垣根に引っかかって、ジタバタもがいていた。

「イアンが引っかかっていたから、俺、引っ張ったんだけど。そしたらさらにハマっちゃったみたいで……」

 クリフは青ざめながら、事の次第を説明する。

「なんてことだ……イアンの後ろにまだ三人もいるのに」

 ジェイはがくぜんとし、ティムはうなった。

「イアンが抜けなかったら、他の人もこちらに来られないな」

 三人はイアンを引き抜こうと腕を引っ張った。

「イタタタ! 痛いって!」
「そんなこと言っても、抜けなかったらこのままだぞ!」

 ジェイの言葉に、イアンは情けない顔になった。

「俺の運の悪さのせいだ、きっと!」

 クリフは盛大に嘆きながら、垣根にしがみつく。そのせいでり傷がいっぱいできているが、それさえも気にならないようだった。

「ジェイ……俺を置いて行ってくれ……」

 イアンはいつくばりながら、ジェイを見上げた。葉っぱのついたイアンの顔には、すでに諦めの笑みが浮かんでいた。

「イアン……だが……」
「このままじゃ、作戦が失敗してしまう。シモンも楽しみにしていた。他の皆だって……。俺たちの分まで、クッキー……買って来てくれ」

 そう言って、イアンは力尽きたのか地面に突っ伏す。

「イアーン!」

 名前を呼ぶが、イアンが起き上がる気配はなかった。
 すると、垣根の向こうから声が聞こえる。

「ジェイー! こっちからイアンを引っこ抜いとくよ~。お前たちは先に行ってくれ~」

 ジェイは突っ伏したままのイアンから顔をらした。

「わかった! イアンを頼む!」

 そう言って、ティムとクリフに向き直る。

「行くぞ! 来られない同志のために!」


   ◇ ◇ ◇


 ジェイの部屋では、クッキー大作戦の同志たちが再び集まっていた。
 エッグタルトなるものを見つめ、ゴクリとのどを鳴らしている。
 人数分で切り分けたため、一つがかなり薄い。

「クッキーを手に入れられなかった我々に、フィル・テイラはエッグタルトを与えてくれた」

 ジェイの言葉に皆がどよめき、クリフとティムが頷く。

「本当にこうごうしかったな……。救いの神とはテイラのことだ」

 クリフが息を吐くと、ジェイはエッグタルトを載せた皿を掲げた。

「テイラに感謝しよう」

 目をつむって祈り、皆も同様に祈りを捧げた。
 しかし、祈りの沈黙の中、イアンのお腹が鳴る。

「……食べてもいいか?」

 イアンがゴクリとのどを鳴らして周りを見ると、皆、苦笑して頷いた。

「さあ、いただこう!」

 ジェイの言葉に、皆が歓声をあげ、大事そうにひと口食べる。

「うっまーっ!!」

 シモンが叫び、体を震わせた。
 その隣でイアンが、ゆっくりとエッグタルトを味わう。

「卵の味が、なんて濃厚なんだ。とろける舌触りはまさに絶品。このクッキー生地のサクサク感が、またたまらない。食べたことのない、まるで夢のような味だ」

 周りの皆もその感想に同意し、首が取れそうなほど頷いている。
 いち早く食べ終えたジェイは皆の顔を見回し、スクッと立ち上がった。

「次こそ、テイラの菓子を堂々と手に入れるぞっ!」

 彼らは「おーっ!」と大きな声で叫び、高く拳を掲げたのであった。



 6


 俺たちは今、鉱石学と剣術合同の課外授業で、ステア王国の東の森に来ている。

「久々に外に出ると寒いな」

 シエナ先生は、体をすくめ白のコートをかき寄せる。

「前に学校の敷地外に出たのいつですか?」

 アリスに質問され、シエナ先生はしばし空を見つめて言った。

「日差しの暖かい、花の咲いている時期だった」

 いつから引きこもってるんだ、この人。

「それにしても、こんなに囲まれて護衛されてると、なんか国の要人にでもなった気分だね」

 トーマは周りを見て小声でそう言い、眉を下げて微笑む。俺もそれに頷いた。
 確かに。いくら実習での護衛とはいえ、凄い陣形だよなぁ。
 まず先頭のワルズ先生が危険がないかを探り、シエナ先生と鉱石学の生徒たちが続く。その俺たちを、剣術の六班が円陣を組んで取り囲んでいた。
 事前の説明によれば、鉱石採掘が始まると、ウィリアム、ビル、シリルを残し、他の剣術の生徒は少し離れた場所で野外訓練をするんだったな。

「あぁ、寒い……」

 シエナ先生が、身を縮こまらせている。
 本格的な冬はまだ先なのだが、引きこもりのシエナ先生にはこたえるらしい。
 今日のコートは、いつも着ている白衣より生地が分厚いようだけど……。今から寒がっているんじゃ、鉱石を探す間、耐えられないんじゃないだろうか。

「シエナ先生、そんなに寒いなら僕の召喚獣を出しましょうか?」

 俺の言葉に、シエナ先生が小刻みに頷く。

「それで寒くなくなるなら召喚を許可する」

 お許しが出たので、俺はホタルを召喚した。

「ホタル」

 空間の歪みから出てきたホタルを、抱き上げてひと撫でした。

「ホタル、周りを暖かくしてくれる?」
【ハイです!】

 しばらくすると、外にいながら暖房を入れたみたいに、周りの空気が暖かくなった。

「「「あぁぁっ! あったかいっ!」」」

 ライラとトーマとレイが、俺にピタリとくっつく。

「ら、ライラ!」

 アリスが頬を染め、慌ててライラの手を引いた。だが、空気の暖かさにつられて、アリスまでもが俺にそっと寄り添い、ホッと息を吐く。

「すごくあったかい……」

 人間カイロにされてる。
 いや、あの、アリス……ミイラ取りがミイラになってない?
 そう言おうと思ったら、レイがより暖を求めようと俺にぎゅうぎゅう抱きついてきた。

「あったかいよー! フィルっ!」
「ちょっ! レイ! 歩けないから!」

 俺が暖かいんじゃなく、ホタルのおかげだ。それに、屋外でも半径二メートルくらいは、暖かいはず。こんなにくっつかなくても大丈夫なんだけど。
 ホタルを抱っこしているためあまり動けず、どうしたものかと俺が困っていると、カイルがレイを引っぺがした。

「くっつかなくても暖かいだろう」

 その言葉にアリスたちもハッと我に返り、元の位置に戻る。

「ご、ごめんね。フィル」
「ごめん、フィル君。暖かさに我を失いました」

 顔が真っ赤になったアリスとライラに、俺は苦笑する。
 すると、アリスたちが離れて空いたスペースに、今度はシエナ先生が入ってきた。
 ま、まさかシエナ先生も、俺をカイロに?
 思わずドギマギしたが、シエナ先生は俺ではなくホタルを観察し始める。

「ほぅ、毛玉猫。しかも目の色が違うということは、能力が二種類あるのか?」

 ホタルを凝視しながら尋ねられ、俺はホタルを撫でてコクリと頷く。

「あ、はい。火と氷です」

 普通の毛玉猫は火属性なのだが、ホタルは火属性と氷属性の二種類の能力を持っている。そのおかげで、周りを暖かくも涼しくもできるのだ。

「動物にも詳しいんですね?」

 俺が驚くと、シエナ先生は馬鹿にするなといわんばかりに眉をひそめた。

「何が鉱石の研究に役に立つか、わからんだろう。研究者たるもの、色々と学ぶべきだ。その知識が無駄になることはない」

 なるほど。確かにそうかもしれない。研究者ではないが、俺も前世の知識が、こうして今世で役に立っているもんな。知識はあって困ることはない。
 その時、前方から笛の音が聞こえた。ワルズ先生の、止まれの合図だ。
 生徒たちが足を止めると、ワルズ先生がこちらにやってくる。

「シエナ先生……この辺りでよろしいですか?」

 ワルズ先生がボソボソと尋ね、シエナ先生は頷く。

「あぁ、この辺りでいい。では、私たちはしばらく鉱石を探す。剣術の生徒は、剣術の課外授業に戻していいぞ」

 そうワルズ先生に告げると、離れた位置で待機している剣術の生徒を見回し、大きな声で言った。

「皆、ここまでの同行ご苦労だった。帰りもまたよろしく頼む」
「はっ、はい!」

 シエナ先生に声をかけられて、皆が一斉に頭を下げる。

「剣術の生徒は礼儀正しいな」

 シエナ先生は満足そうに頷くが…………違うと思う。
 自室から滅多に出てこないので、シエナ先生が実際どういう人物なのかを知る生徒は少ない。
 怖い噂だけが先行しているせいか、声をかけられただけで皆、恐縮してしまうらしいのだ。
 課外授業出発前も、シエナ先生の姿を見た剣術の生徒たちがざわめいていたもんな。

「では……フィル君、カイル君、ライラ君は鉱石学の課外授業を優先させてください。ウィリアム君、ビル君、シリル君は、そのまま護衛を。それが剣術の課外授業の代わりとなります」

 ワルズ先生にそう言われ、俺たちは返事をする。
 剣術の生徒たちが移動する背中を、カイルが羨ましげに見つめていた。
 気持ちはわかる。俺も剣術の野外訓練に参加してみたかった。
 だが、剣術の課外授業はまた実施するらしいので、今回は鉱石採取に集中するとしよう。
 シエナ先生が俺たちを見回して、髪をかきあげる。

「鉱石学は各班三人一組で行動し、採取をするように。はしゃいで班からはぐれるなよ。特にお前」

 シエナ先生は低く言って、レイをビシリと指さす。

「何で、俺だけっ!」
「あんたが一番心配だからよ」

 ライラの言葉に、シエナ先生も頷く。

「俺が見ているので、安心してください」

 そう言ったカイルの肩を、ライラとシエナ先生が「頼む」と叩く。
 レイは、カイルとビルの班だった。それ以外の班は、俺とアリスとシリル。それから、ウィリアムとライラとトーマだ。

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