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2巻

2-3

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「――君たちはどこの工房に依頼されてきたのかな?」


 ルークの唐突とうとつな言葉に私はぎょっとした。いきなりなにを言い出すんですか!
 私が声を上げようとすると、ルークはそれに先んじて応募者の一人に質問を重ねる。

「じゃあ君に聞こうか。君は本当に自分の意志でここに来たのかい?」
「そ、それはもちろん……」
「本当に? 大丈夫、もしそうでなくても責めたりしないよ」

 最初は否定していた応募者だったけれど、ルークの言葉を聞くうちにだんだん視線が泳ぐようになってきた。そしてしばらくして白状した。

「――すみません。実は自分はマルク工房の工房長に言われて来ました」

 ……え?

「お、俺はリーガル工房からです!」
「私も、調合の師匠に命令されて……」

 次々に口を割る応募者たち。

「やっぱりか……さすがに集まった人数が多すぎると思ったんだ」

 溜め息を吐くルークに私は思わず尋ねた。

「ど、どういうことですか……? ルーク、説明してください!」
「簡単に言うと、彼らはスパイだ。君のポーションの調合レシピを盗むために、他の工房がうちに潜入させようとしてきたんだよ」

 ルークが言うと、三人の応募者は気まずそうに目をらした。
 その態度だけでルークの言葉が真実だとわかってしまう。

「俺にはポーションのことはよくわからないけど、アリシアのポーションにはいくつか他の店にはないものがある。それが目当てだろうね。ランドの能力で判別できなかったし、たぶん彼らは上に命令されて仕方なく来てるんじゃないかな」

 確信しているように、ルークはそうはっきり告げた。

「……仮にそうだとして、こんなに簡単に白状するものですか?」
「ああ、それはスキルのお陰だよ。【交渉】スキルを使ったからね」
「そんなものまで持っていたんですか」

 私は半ばあきれてしまった。
【交渉】スキルを使うと、会話での駆け引きが有利になる。相手の嘘を見抜いたり、隠し事をあばいたりすることも可能だ。
 どうりで商談で相手を手玉に取れるわけだ。
 ともかく、ルークの言っていることが本当なら、目の前の三人を雇うわけにはいかない。

「すみませんが、今日のところはお引き取りを」
「「「はい……」」」

 しょんぼりと肩を落とす三人が店を出ていくのを見送り、私は遠い目をした。
 店は繁盛しているけれど、まさかスパイを送り込まれるなんて。せっかくいい調合師を雇えると思っていたのに……

「まあまあ、まだ他にも応募者はいるわけだし」
「そうじゃぞアリシア。気落ちするのはまだ早かろう」
「ルーク、ランド……そうですね、まだ諦めるには早すぎますね」

 二人に励まされて私は気を取り直した。そう、他の工房からのスパイなんてそうそういるはずがない! 最初の三人がたまたまそうだっただけだ。
 残りの十数人の中に、きっとなにもたくらんでいない調合師が一人くらいいるはず!
 私は期待を込めて次の応募者たちを店の中に招き入れ――



「…………まさか全滅とは思いませんでした……」

 すべての面接を終えた私は、カウンターに突っ伏した。
 結局、今日集まった応募者は全員この街にある他の工房の手先だった。ルークが【交渉】スキルで確認したから間違いない。
 面接を終えたあと、私たちは即座に薬師ギルドに向かい、スパイを送り込もうとしてきた工房にギルド経由で苦情を入れてきた。
 これでもうどこかの工房の息がかかった人間がやってくることはないだろう。
 今後の心配がなくなるのはいいけれど、なんだかすごく疲れてしまった。
 しかも結局新しい調合師は雇えていない。

「冷静に考えたら、この街でフリーの調合師なんてそうそういないよね」
「この街には工房が多いからのう。無所属の調合師は引っ張りだこというわけじゃな」

 店に戻り、ルークとランドが納得した様子で話している。
 そういえばアーロン工房の前工房長が、個人の調合師はこの街でやっていけない、というようなことを言っていた。確かにこれだけ工房が乱立している状況では、新たな店を構える人より、すでにある工房に就職する人のほうが多いだろう。

「これからどうしましょうか……」
「まあ、裏のない調合師が来てくれるのを待つしかないんじゃない?」

 ルークの言葉に私はぐぬぬとうなる。信用できる調合師を見つけるまでに、一体どれくらい時間がかかることだろう。
 ――すると、不意に店の扉が開いた。
 お客でしょうか? 閉店の看板は立てていたはずなんですが。

「すみません、今日は臨時休業で――」

 そう言いかけて私は思わず固まった。
 扉を開けて入ってきたのは、見覚えのあるドレスに、髪を巻いた華やかな出で立ちの若い女性。

「……え、エリカ?」
「久しぶりね、アリシア」

 本来ここにいるはずのない私の友人は、そう言って軽く笑った。


   ▽


 面接会場だった店の後片付けをルークたちに頼み、私はエリカを応接室に案内した。
 エリカは感心したように言う。

「ずいぶん立派な屋敷じゃない。よく手に入ったわね」
「幽霊が出るというので、ポーションで退治して安く売ってもらったんです」
「……なんていうか、あんたらしいわ」

 私がれた紅茶を優雅な所作で一口飲み、エリカは「さて」と切り出した。

「とりあえず、お互いの近況報告でもしましょうか」
「わかりました」

 私もエリカがどうしてここにいるのか気になっているので、その提案には賛成だ。
 私はトリッドの街に来てからの出来事をエリカに話した。
 話を聞き終えたエリカは、頭痛を耐えるようにこめかみを押さえた。

「……財布スられてフォレス大森林に一人で入って調合して、泉の精霊と仲よくなって、幽霊退治して屋敷を手に入れて、出店許可証をとるために解毒ポーションを大量に作って、最終的には盗賊団に誘拐された? あんたどれだけトラブルに見舞われるのよ……」

 冷静に思い返してみると、プロミアス領を追い出されてからの私の人生は波乱万丈なんてレベルではないのかもしれない。

「だからスキルは隠せって言ったのに」
「……返す言葉もありません」

 エリカに従わなかったために危険な目にったようなものだ。あきれられても仕方ない。

「ま、こうして無事ならいいけどね。しかもきっちり店まで開いて。正直言って驚いたわ」

 応接室を見回しながらエリカはそう言った。
 エリカがめるのは貴重だ。ここは素直に喜んでおこう。
 さて、今度は私が聞く番だ。

「エリカのほうはどういった経緯でこの街に?」
「プロミアス領が危険になってきたから、この街に拠点を移すことにしたのよ」

 エリカの端的な言葉に私は視線を落とした。
 予想はしていたけれど、やはりそうなりましたか。

「……魔物が増えたんですか?」
「ええ。ま、当然よね――プロミアス領を守っていた魔物除けは全部あんた一人が作ってたのに、そのあんたがいなくなったんだから」

 プロミアス領はここ数年魔物による被害が少なかった。それは私自らが魔物除けを調合し、領内に行き渡らせていたからだ。よって私がいなくなれば、プロミアス領内で使われる魔物除けの流通は完全にストップする。
 私が一人で魔物除けを量産している、なんて非効率的だと思われるかもしれないけれど、これには理由がある。
 というのも、プロミアス領ではポーションに対して予算が下りないのだ。
 大のポーション嫌いであるお父様が領主を務めているので、魔物除けを製造するための資金援助はありえない。そしてお金が発生しないのにポーションを作る調合師はいない。
 だから、私は独力でプロミアス領を守るのに必要なだけの魔物除けを製造していた。一本一本作っていては消費に追いつかないけれど、EXランクのものを作って薄めるやり方ならなんとかなる。
 もちろん素材の調達や魔物除けの運送などは私一人ではできないので、新ポーションの調合レシピと引き換えにスカーレル商会の力を借りていた。
 そこまで手を尽くして、プロミアス領はどうにか平和を保っていたのだ。

「……プロミアス領は立て直せるでしょうか」
「無理でしょうね。今のところまともな対策は打ててないようだし」
「お父様はなにもしていないんですか?」
「『この俺自らがきたえ上げた兵士がいれば、魔物なんてどうにでもなる』みたいなことを言ってたわね」
「お父様……」

 私はがっくりと肩を落とした。
 すでに魔物除けの話はお父様に伝わっているだろうに、それを信じていないのだ。これでは本当にプロミアス領は元の危険な土地に逆戻りしてしまう。
 エリカがプロミアス領からこのシアン領に移ってきたのも当然といえるだろう。
 エリカは肩をすくめて言った。

「まあ、あんたが気にすることじゃないわ。あんたを追放した以上、あの人が責任取ってなんとかすべきよ」
「は、はい……」

 そう言われても簡単には割り切れない。そんな私を見かねてか、エリカは強引に話題を変える。

「近況報告はそのくらいにして、アリシア。あんた顔色悪いわよ。ちゃんと寝てる?」
「え? いえ、最近はあまり……店を開いたはいいのですが、商品の調合が間に合わなくて」

 私が言うと、エリカは考え込むようにほおに手を当てた。

「……つまり調合師が足りてないってことね?」
「簡単に言えばそうなります」

 エリカがにやりと笑う。

「それじゃ、いい提案があるわ。うちの調合師、一人貸してあげる」
「本当ですか⁉」
「ええ」

 エリカの部下であるスカーレル商会の調合師たちとは、プロミアス領にいた頃一緒に仕事をしていた。彼らなら実力も人柄も信用できる。
 なにより彼らは私の開発したポーションの調合レシピをある程度知っている。
 レシピ流出のリスクは限りなく低い。

「ありがたくその話を受けさせてもらいます。では、報酬ほうしゅうの話をしても構いませんか?」
「いいわよ。……あのアリシアが商談なんて……あ、なんか涙出てきたわ」
「……」

 子供の成長でも見守るようなエリカの仕草は、ちょっと心外だ。
 ともかく、私たちはスカーレル商会から派遣される調合師の扱いについて、そのあとしばらく話し合うのだった。
 ……それにしても、誰が来てくれるんでしょう?


   ▽


 翌日の朝、エリカがその人物を連れてきた。

「紹介するわ。うちで雇ってる調合師のレンよ」
「「……子供?」」

 立ち会っているルークとランドが、目を丸くした。
 エリカが連れてきたのは黒髪の少年だ。鋭い瞳が特徴的で、顔立ちは幼いながらも整っている。身長はルークの胸あたりまでしかなく、年齢は確か十二歳――というのは、二人は知らないことではあるけれど。

「レン! うちに来てくれるのはレンだったんですね!」

 私は思わず歓声を上げた。
 レンは年齢こそ若いものの頭がよく、優秀な調合師だ。レベルⅢの【調合】スキルを所持しているため調合作業も任せられる。
 以前プロミアス領にいたとき、スカーレル商会の工房でよく一緒に仕事をしていた。
 願ってもない人材と言えるだろう。
 私は素直に喜んだわけだけれど――

「……フン」

 レンは私に一瞬だけ目を向けると、すぐ不機嫌そうに視線をらしてしまった。
 ……あれ? 
 今、露骨ににらまれたような……

「レンだ。うちのボスの命令で、今日からここで働かせてもらう。よろしく頼む」
「俺はルーク。よろしくね」
「ランドじゃ」
「亀がしゃべってる……精霊がいるっての、ホントだったんだな」

 ランドがしゃべっているのを見て、レンが感心するように言った。
 昨日、エリカにルークやランドのことを紹介してあった。レンはエリカから二人について情報を聞いていたようだ。
 私もルークたちに続いて歓迎の言葉をかける。

「お久しぶりです、レン。また一緒に働けて嬉しいです。ぜひ力を貸してください」

 しかしレンから返ってきたのは冷ややかな視線だった。

「悪いけど、馴れ合うつもりはない。仕事はやるけど、あんまり話しかけてくるなよ」
「……⁉ れ、レン?」

 かけられた言葉に私はひどく動揺した。
 プロミアス領にいた頃にレンとはよく話していたけれど、少なくとも嫌われてはいなかったはず。それなのにどういうことだろう。

「ど、どうしたんですか、レン。怒っているんですか? 私がなにか変なことをしたとか……?」
「……さあな」
「やっぱりそうなんですか⁉ わ、私はなにをしたんですか⁉」

 慌てて尋ねるが、レンは鬱陶しそうに視線をらすだけ。
 困り果てた私はエリカを見るも、肩をすくめるばかりでなにも言ってくれない。
 おろおろする私を見かねてか、ルークがこう提案した。

「まあ、こうしてても仕方ないし、レン君を工房に案内したら?」
「そ、それもそうですね」

 不安な気持ちを抱えたまま、私はレンを工房に案内するのだった。



 工房に着くまでの間、ランドが念話で私に尋ねてきた。

『アリシアよ。あのレンという子供との間になにかあったのか?』
『わ、私が聞きたいくらいです』
『昔はあんな感じじゃなかったの?』

 同じく念話に参加しているルークに答える。

『プロミアス領にいた頃は、むしろ仲がよかったと思います。スカーレル商会の工房で一緒に調合をしていましたし、私が研究に没頭していると気遣ってお茶を届けてくれることもありました』

 レンは昔から不愛想ぶあいそうではあったけれど、なんだかんだ優しかった。気配り上手な彼は、研究を始めると自己のケアがおろそかになる私をよく気にかけてくれていたのだ。
 それがなぜあんなことに……

『ふむ。聞いた限りでは仲がよさそうじゃが』
『だねえ。なにか理由があるのかもね』

 そんなことを話している間に工房に着いた。魔力紋によって扉を開け、工房の中へ。

「……広いな」
「そうね。個人で使うには広すぎるくらいじゃない?」

 レンと、付き添いで同行しているエリカが口々につぶやいた。
 そんな二人に一通り設備を見せていく。
 中でも驚かれたのが魔力式自動昇降機と地下畑で、「うちの工房にも取り入れようかしら……」とエリカが真剣に考え込んでいた。
 工房の中を見学し終えたところで、ルークが思い出したように言う。

「そろそろ店を開ける準備をしないとだね」
「そうじゃな。わしも行こう」

 もう店を開ける時間が迫ってきていた。ルークは開店準備があるので、工房を出なくてはいけない。
 ちなみにランドも店担当だ。
 私が用意したメモを参考に客の質問に答えたり、万引きされないよう目を光らせたりと手伝ってくれている。マスコット扱いで、客からの人気もひそかに高かったりする。
 そういうわけで、ルークとランドは店に戻る必要がある。

「あたしもそろそろ戻るわね。支部を移転させる手続きがまだ残ってるし」

 エリカも帰ってしまうらしい。
 つまり、工房には私とレンの二人きりということになる。
 ちらりとレンに視線を送ると、相変わらず不機嫌そうだ。こんな状態のレンと二人になるのは気まずい。

「アリシアは商品の補充をよろしくね。ついでにレン君に調合道具の細かい場所とか教えてあげるといいんじゃないかな」
「そ、そうですね。レンもそれで構いませんか?」
「……ああ。仕事はきちんとやるって言ったからな」

 レンは仏頂面のままうなずいた。

「それならよかった。それじゃああとは二人でよろしくね」
「店番は任せるがよい」
「それじゃ今日はこれで。また来るわね」

 そんなやり取りを最後にルーク、ランド、エリカの三人は工房から去っていった。
 残された私は隣のレンに話しかける。

「そ、それじゃあ始めましょう」
「ふん」

 また不機嫌そうに鼻を鳴らすと、さっさと調合用の作業台まで歩いていってしまった。
 ……本当に大丈夫なんでしょうか、この状況。



「……」
「……」

 レンと二人で調合を進めていく。
 スカーレル商会の工房でよく一緒に作業をしていたので、なんだかんだ連携して作業はできるけれど……やっぱり気まずい。
 そもそもなぜレンは怒っているんでしょうか。
 やはり強引にでも聞いてみたほうが……いやいや、そうやって余計に気まずくなったら目も当てられない。

「……おれのことチラチラ見てないで手を動かせよ」
「わ、わかっています」

 やめておこう。答えてくれる気がしない。
 結局私が気付くしかないようだ。
 私は調合を続けながら考えて――そしてやがて一つのことに思い当たった。

「もしかして、私がプロミアス領を出ていくときに、レンに挨拶あいさつしなかったことを怒っているんですか?」
「あ?」
「ひっ」

 ぎろりとにらまれて私は身をすくませた。
 しかしそれ以外に考えられない。プロミアス領を出るとき、私はエリカには会いに行ったものの、レンをはじめ、スカーレル商会の調合師たちには顔を見せなかった。
 レンが不機嫌な理由なんてそれしか思いつかない。
 そう思ったけれど、レンは鋭い目をさらに吊り上げた。

「今さらお前が挨拶あいさつをすっぽかしたくらいで怒るわけねーだろ。お前、新しいポーションを思いつくたびにウチの仕事そっちのけで屋敷の研究室にこもってたじゃねーか。誰がその分の調合作業を引き受けたと思ってんだ?」
「……そ、その節はすみませんでした……」

 あきれたような視線が痛い。確かにそんなこともあったような気がする。
 レンは溜め息を吐いた。

「……おれが怒ってるのは、お前がおれたちに相談しなかったからだ」
「相談しなかったから? スカーレル商会の調合師たちにですか?」
「そうだよ。つーか、屋敷を追い出されたなら顔くらい見せろよ。父親に縁切られて、研究室まで燃やされて……心配するに決まってんだろ」

 私は目を見開いた。
 レンの言葉は私を攻撃するものではなく、むしろ私を気遣う響きが含まれていた。

「お前にとっちゃ単なる仕事仲間に過ぎねーだろうけど、おれたちにとっちゃお前は家族みてーなもんだ。それなのに相談もせずに一人で決めていなくなられたんじゃ、がっかりするだろ。おれたちはお前にとって大した存在じゃねーのかって」
「そんなことはありません!」

 スカーレル商会の調合師たちは、私にとって大切な存在だ。彼らの働く工房は、まるで自分の本当の居場所であるように居心地がよかった。
 父親にうとまれていた私だけでなく、レンにとってもおそらくそうだ。
 レンはスカーレル商会に雇われるまで、タチの悪い院長が経営する孤児院で暮らしていたらしい。食事を与えられないことも、暴力を受けることもあったという。
 しかしエリカに調合の腕を買われてスカウトされ、調合師として存在を認められた。
 だからこそ、レンは私を含む一緒に仕事をする調合師たちを大切に思ってくれていて――私が一言も声をかけずに領地を出たことに、大きなショックを受けたんだろう。

「……すみません。あのときの私には余裕がありませんでした。けれど、心配してくれて嬉しいです」

 私が素直に気持ちを告げると、レンは視線をらしてぼそぼそと言った。

「おれのほうこそ……その、悪かった。アリシアに悪気がないことはわかってたのに、突っかかったりして」
「もう怒ってないですか?」
「ああ」
「そうですか!」

 それはよかった。胸のつかえが取れた気分だ。
 これで心置きなく調合作業に専念できる。
 私はレンに尋ねた。

「レン、これから週に何日くらい来てくれるんですか?」
「特に指定がなければ毎日来るつもりだけど……そんなに仕事が切羽せっぱ詰まってるのか?」
「それもありますが、レンは頼りになりますから。できるだけ一緒にいてほしいです」

 レンは私の言葉にひるんだような顔をしたあと、やや顔を赤くして視線を外した。

「うるせーな、お世辞せじはいいっつーの」
「お世辞せじじゃないですよ。本当にそう思っています。レンが来てくれてよかったです」
「ああもう、いいから仕事しろっ!」

 みつくようにレンはそう言い、ザクザクザクッ! とナイフでの素材の下処理を加速させた。
 ああ、なんだか懐かしい。そういえばプロミアス領にいた頃もこんな雰囲気だった。
 私は店を開いて以来初めてとなる調合の共同作業に、感慨深くなるのだった。


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