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9巻

9-3

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 そしてやって来たその場所で、俺は大きな衝撃を受けた。

「しまっ……た。油断した!」
「どうした血相を変えて?」

 手が震えているのを自覚する。
 気がつくのが遅すぎた。
 俺は蒼白になって、足元に散らばる砕けた岩を見下ろしていた。

「カワズさん、緊急事態だ……」

 俺の視線の先には、「マジカル☆トンボちゃんのばか」と彫られた岩が、見事に真っ二つになって転がっていた。
 その下には掘り返された穴があり、中では宝箱がぽっかり口を開けている。
 後ろで見ていたカワズさんも、砕かれた石を見て、事情を察してくれたらしい。

「こいつは……まさか」

 カワズさんのひたいにもまた、じっとりと脂汗が浮かんでいた。カワズさんは目をそらして現実を直視しないようにしていたが、その気持ちは痛いほどよくわかった。
 俺は、カワズさんの肩に手を添えて首を振る。

「問題を先延ばしにしたところで、状況が好転するわけじゃない。現実を見よう」
「そうじゃな。……死ぬほど疲れそうじゃが」

 俺達二人は同時に深々とため息を吐く。そしてカワズさんは、ついに問題の核心を口にした。

「念のため確認しておきたいんじゃが。こ、これは……、なんじゃ?」
「マジカル☆トンボセット封印の地」
「やっぱり……、アレなんじゃよな」
「まぁ、アレなんだよ」

 カワズさんは思わず頭を押さえ天を仰いだ。彼をしてそうさせた一品、それがマジカル☆トンボセットである。
 かつて、そのあまりに強力な効果により、現場を目撃した一部の者達を震撼しんかんさせ、現在進行形でファンを増やし続けている魔性のアイテム。
 思いつきと、ありったけの技術、そして大いなる悪ふざけを詰め込んだ魔法の大作。
 職人気質な、やんごとなき方々による集大成。
 それを身に着けた者は魔王の力すら凌駕りょうがすると、他ならぬ魔王自身からのお墨付きをもらったという、トンボ専用の最強装備。
 そんなものが、この世に解き放たれてしまったのだ。
 これはまずい。
 俺はいなくなったトンボが何をしでかすかを考え恐怖した。

「なんてこった……。アレが、アレが解き放たれてしまったなんて!」
「何でもう少し厳重に管理しておかん! 何じゃこの雑な封印の仕方!」

 カワズさんの指差す先には、小学生のタイムカプセルを掘り出した跡みたいになっている地面があった。
 だがこれには、俺にだって事情があるのである。

「だって! せっかく作ったんだから、もう少し思い出にひたりたいじゃないか! あの完成度を見てなかったのかい!?」
「おい。そんな理由かい」
「それだけじゃないさ! こいつは俺一人で作ったわけじゃない! 合作だっていうのが問題だったんだ!」

 一人で作ったのならともかく、こいつはいろんな人の多大な労力の結果なのだ。悪い意味で有名になってしまったが、だからといって即処分できるような代物しろものではない。その辺りの事情はカワズさんも知っているはずだ。

「製作に関わった面子めんつが面子じゃから、勝手に処分するにもいかんわけか」
「まぁ……、どう封印すべきか迷うあまり、少々処理の仕方がおざなりになってしまった感はあるけれども」
「おざなりというよりも、笑いを誘いにいっておるようだがのぅ」

 そう言って、割れた石に彫られた「マジカル☆トンボちゃんのばか」という文字に白い目を向けるカワズさん。

「まぁ、ネタで作ったわけだし、そういう側面がなくはない」

 カワズさんの指摘は、俺から見てもおおむね正解だった。

「細かいことはいいじゃないかカワズさん。そんなことよりも、今はトンボを探し出さないと」
「ふむ。そうじゃな。これが女王にでも知れたら……」

 今考えられる最悪の事態を想像して、ヒソヒソと話し合う俺達。
 そのとき、お互いの肩が同時に叩かれた。

「知れたらどうまずい?」
「そりゃあ……」

 俺は言いかけて押し黙る。
 優しく話し掛けられた声は、そのまま「最悪の事態」に直結していたからである。

「おいおい内緒話か? それはつれないな? わらわも交ぜてはくれないのか?」

 俺とカワズさんは幻聴ならいいなと思いながら振り返って――血の気が引いた。
 そこには、ラフレシアの花をバックに女王様が腕組みして立っていた。

「あ、こういう展開か。もうだめじゃな」
「そうだね」

 ラフレシアの強烈な臭気に涙目になりながら、カワズさんと俺はとりあえず覚悟を決めた。


      ◇◆◇◆◇


 というわけで、事情説明のため、女王様の城に連行された俺達。
 ところが、自室に到着した肝心の女王様は、こっちの話なんて聞いているんだか聞いていないんだか、まるでわからない状況だった。
 女王様は、ヘアバンドで髪を留めると、唐突に何かの作業に入り、ペンタブで何やら絵を描きつつ、こまめに携帯をチェックし始めた。そんな風に黙々と作業に没頭していて、手を止める気配はない。
 はっきり言って、連れて来られた俺達の方が説明を求めたいくらいだ。
 そんな状況でも説明を続けていたのだが、どうやら女王様はきちんと聞いてくれていたようである。これほどのマルチタスクをこなせるとは、ある意味、聖徳太子より器用そうだ。

「ふむ、なるほど。それはまた……実に面白そうな話ではないか」

 そう言うと、女王様は完成させたらしい画像をメールと共に送信。ツッターンと鮮やかに打ったキーボードの音が無駄にスタイリッシュである。

「めちゃくちゃキーボード打つの速いですね」
「そうか? 普通だろう? おっと、ちょっと待ってくれ。……よしOKだ」

 続いて、携帯に送られて来た写真をチェックする女王様。タッチパネルの上をスライドする指が滑らか過ぎる。

「返信早いですね」
「だから、普通だ」

 パソコン周辺機器を華麗に使いこなす妖精の女王様の姿を見て、本来の妖精らしさはパソコンのゴミ箱にでも捨てたのだろうと俺は確信した。
 作業が一段落したところで、女王様は思い出したように俺に顔を向けた。

「少し立て込んでいたところ、気晴らしに散歩に出てみれば……。しかし、思いもしなかった展開になったものだな」

 さぞ怒られると思ったが、女王様の怒りに触れてしまったということでもないらしい。むしろ穏やかな様子なので、俺は意外に感じていた。

「えーっと……、怒らないので?」

 実は話を聞いていなかったんじゃないかと思い、軽く尋ねてみたが、それでも女王様の反応は変わらないようだ。

「怒る? 妾が? そんなわけがないだろう? お前達の説明を聞いてその程度のことかと思ったくらいだ。むしろ登場したときの演出ミスの方をいているんだ。臭かったしな、ラフレシア」

 思い出したようにくんくんと自分の体の匂いをぐ女王様。だが、こっちは本気で肝を冷やしたのだから人が悪い話だ。

「わかっててプレッシャーかけてきたわけじゃなかったんですね」
「何やらこそこそしているから、少しいたずらしてやろうかなと。それだけだよ。しかし、アレが解き放たれたということは、相応の騒ぎになるだろうなぁ。服の形をした、理不尽の投げ売りだからな」
「そうですね。実力とかまるで関係ないですからね」

 もちろん女王様もマジカル☆トンボセットのことは知っている。
 いや、知っているどころか、マジカル☆トンボセットの衣装デザインを手がけたのは、何を隠そうこの人なのだ。

「いや、いいんですか? そんな悠長ゆうちょうに構えてて?」
「騒ぎで済めばいいですがのぅ」

 俺とカワズさんはあまりにも軽すぎる女王様の反応に驚き、思わず彼女を説得してしまった。
 もう少し慌てるなりなんなりしてくれてもよさそうなものだが、女王様はやはり平然としている。

「大丈夫だろう? 今やアレの知名度はそれなりに高い。誰かが注意を促すさ」
「はぁ、まぁ、でも一部の間ではでしょ?」

 俺がそう言うと、女王様は呆れたような表情を浮かべた。

「何で発信源のお前がその程度の認識なんだ? そんなわけないだろう? 噂は広まるものだし、クチコミというのは案外伝染力があるものだぞ。パソコンだけが世界ではないのだ」
「言いたいことはわかるんですが。なんだろうな、女王様にだけは言われたくないなって」
「そうか?」

 新しいメールが来たのか、女王様はまた携帯を確認している。少しは落ち着いて欲しい。
 確かにマジカル☆トンボセットに関しては、作ったのも、動画に撮ったのも、ネットに上げたのも、すべて俺だ。間違いない。
 だからこそ、マジカル☆トンボセットの性能は誰よりも理解しているつもりである。
 女王様はいよいよわずらわしくなってきたのか、唐突に本音をさらし始めた。

「ならばあえて言わせてもらうが、だいたい騒ぎになって何が悪いのか、という話でもある」
「そ、そうですかね?」
「ああ、いい機会だ。お前にも見せてやろう」

 女王様は不敵に笑い、俺の目の前に携帯を突きつける。
 それを見た俺は息をするのも忘れてしまった。
 そこには、路線的にはマジカル☆トンボちゃんに近い、フリルがたくさん付いた服を着たエルフの女の子が写っていたのだ。

「こ、これは……!」
「フッ……、これでわかっただろう? この服は試しに作ったものだ。ちなみに、彼女は我が裁縫部期待の新人といったところだな」
「え、裁縫部? ええっとそれが何なんでしょうか?」

 唐突な話の流れに俺が混乱していると、女王様は笑顔を輝かせて、語り始めた。

「わからないか? カタログの中から好きな服を選んで着てもらい、そして自撮りしてもらうという恒例行事なんだよ。まぁ、つまるところ、近いうちに大きなイベントを企画していて、そのためのメンバーを集めているわけだ」
「は、はぁ」
「なんだ? 情けない返事だな? 有事の際の最大戦力がそんなことでいいのか」
「あ、俺もイベントの頭数に入ってるのね」

 ぜひともそのときは、前もって教えてもらいたいものだ。
 ともかく、女王様はひそかに進めていたプロジェクトを披露ひろうしてくれたわけだが、俺にはなぜその話を今語るのかさっぱりわからなかった。

「それは、トンボちゃんを放置する理由とは何の関係もないなーと思わなくもないんですが?」

 俺は勇気を出して尋ねてみる。
 すると女王様は、悪い顔をして人差し指を俺の眼前に突きつけた。

「つまりだ。アレが何かを打ち倒せば、強いピクシーがいるという噂が広まるのだ。そして妖精郷のピクシーの名が世にとどろくことになる。いや、それだけではない。あの素晴らしい衣装を作ったのはいったい誰なのかと評判になるはずだろう? となれば、自然と立ち上げたばかりの妾達のブランドの名も……。フフフフフ……」
「広告塔に利用すると?」
「その通りだ。タダでやってくれるというのならなおさら良い。コスパ最高だろうが」

 なんというか、すごく欲望むき出しの計画だった。
 そんなことを平然と言い切る女王様に俺は思った。この人はもう、俺の元世界に行っても完全にやっていけると。
 カワズさんも俺と同じように圧倒され、流れ出る汗をぬぐっていた。

「のぅ? ……なんだか妙な方向に野望がふくらんでおる気がするんじゃが?」
「この人、やっぱり根本的にトンボの親玉なんだよな。もっと気をつけるべきなのかも」

 女王様のスタンスを思い出して、俺は少しだけ納得することができた。

「うるさい。諸悪の根源がよく言うじゃないか、魔法使い共。とにかくアレだ。そんなに急がずともよかろう? アレを持っている以上、少なくともトンボは大丈夫だろうからな」
「……ですよね」

 女王様にしてみれば、妖精郷に害さえなければ基本放置で良いと思っているのだろう。この態度はいつものことだ。
 トンボの安否あんぴが気遣われてしかるべきなんだろうが、あの装備をまとったトンボを心配する方が無理である。アレに害を与えられる存在なんて、そうそういるはずがない。
 何せ、戦うヒロインは負けないのだから。
 だからこそ、そのヒロインの性格がお調子者だったりすると、誰も止められないのだけれど。

「以上、今の理由で納得できたか?」

 すべて語り終えた雰囲気を出していた女王様だったが、納得するには少し早そうである。

「でも、帰ってくるまで放置ってまずくないですか?」

 俺がそう指摘すると、女王様は顔をしかめて特大のため息を漏らした。
 薄々感づいていたが、この人忙しいからって、トンボの事件をなかったことにしようとしているに違いない。

「……言いたいことはすごくよくわかる。けれど、もうちょびっとだけ放置でもいいんじゃないか、な?」
「な? じゃないでしょうに」
「……ええい、わかっている! じゃあ妾の方からも、情報を提供しよう! それでよしとしておけ!」

 結局女王様は、俺に丸投げすることにしたようだ。

「情報提供って、何か知ってるんですか?」
「無論。トンボの動向は逐一チェックしている。お前に最も近いピクシーだからな。最後に妾がトンボを見たのは、この妖精郷であの人間の娘といたときだ」
「人間の娘って……、セーラー戦士と?」

 ここで意外な人物が出てきた。
 俺が知る中で、妖精郷に出入りしている人間の女の子は一人しかいない。
 女王様が頷いて続ける。

「ああそうだ。そのセーラー戦士と一緒にいたことは知っている。もっと慎重な娘だと思っていたが、あの娘がマジカル☆トンボセットの封印を破るのに協力した、ということなのだろう。認識を改めなければならないかもしれないな」
「知っていたなら、止めてくださいよ」
「いや、そのときは特に忙しかったからな。目にしたのもたまたまで」
「……いつ頃の話なんです?」

 俺が問いただそうとすると、女王様は目をそらした。

「さ、さぁ? 何せ時間の感覚がな?」
「……じょおうさま」
「ええい! そんな目をするな! 妾が何をしようと妾の勝手であろうが!」

 俺の言い方がかんさわったのか、女王様は大声を出して自分の失態をうやむやにした。
 しかしセーラー戦士とは……。思わぬ共犯者の名前が出てきたものだ。
 カワズさんもさすがに予想していなかったようで、首をひねっていた。

「ふーむ……、あやつがそんなことをするとは思えんがのぅ」
「いや、でも。あの封印はトンボにだけは解けないようにしてあったんだ。壊したんだとすれば協力者がいる。それがセーラー戦士ってことなのかな?」

 だが、何のために?
 マジカル☆トンボちゃんの危険性は動画を見ればわかる。それはセーラー戦士も知っているはずだ。

「だとすれば厄介じゃな。あの娘の戦闘能力……、いや、それよりも行動力か。それにトンボの力が加われば、どうなるか……」
「さらに厄介なのが、今セーラー戦士には探知妨害の魔法を掛けてあるんだよ。しかも結構きつめのやつ」
「何で、そんなめんどくさいもの掛けたんじゃよ!」
「いや。セーラー戦士の居場所がバレてたみたいだから、念のため」

 というのも先日、彼女を召喚しょうかんした国である神聖ヴァナリアが、魔法でセーラー戦士の動向を探っていたということがあったのだ。その魔法は解除したものの、他に隠されているかもわからない。
 こうした経緯があり、本人とも相談のうえ、強力な探知妨害の魔法を掛けることにした。
 それを聞いたカワズさんは、釈然しゃくぜんとしないようだった。

「いざというときに、位置がわからないとまずいんじゃないのか?」
「それが『全然問題ない』ってばっさり。むしろ『乙女おとめのプライバシーを侵害する気なのか?』と」

 そんな風に言われたら、ぐうの音も出まい。
 とはいえ、携帯は持っているから、本当にやばくなったら連絡はくれるだろうという一縷いちるの望みにすがるしかない。

「あ、そうだ。セーラー戦士に電話かけてみようか?」
「……そうじゃな。それが手っ取り早かろう」
「ではさっそく。……電源入ってなかった」

 こちらの携帯電話である俺製作『Mフォン』は、基本的に現代地球で使われている普通の携帯電話と機能は変わらない。
 相手の電源が入っていなければ、通話はできないのである。

「いきなり頼みの綱が役立たずじゃな」
「くっ! 現代に忠実に作りすぎたか……」

 ここに来て、脆弱性ぜいじゃくせいが露呈してしまった。

「お前さんは、一事いちじ万事ばんじ詰めが甘いんじゃよな」
「ううう……否定できない」

 カワズさんに言われてうなだれる俺である。今回もまた自分の掛けた魔法で自分の首を絞めた形だった。
 携帯だけでは心許こころもとないが、だからといって発信機や監視カメラにまで手を出す気にはなれない。そこまですると犯罪の臭いがし始めるので。

「はぁ、今さらだけど、セーラー戦士はかなり無鉄砲というか、目的達成のためならどこまでも突っ走る娘なんだよな」

 俺の意見に乗っかって、女王様はセーラー戦士をこう評した。

「それはあるな。底知れぬ意志の強さと勇猛さを兼ね備えた娘だ。あの娘の瞳の光は様々な者を惹きつけよう。せいぜい行き着く先が死地でないように見ておいてやれよ?」
「……驚いた。あの女王様が、すごく妖精の女王様っぽいことを言ってる」
「お前な」

 俺は女王様の発言に感動さえ覚えていた。
 さっきまでの振る舞いからは想像もできない、これまでのマイナス分を一気に持ち直せそうな台詞だった。
 もっとも、顔の様々なパーツをゆがませているので、俺のめ言葉は彼女にとって不愉快極まりないようだったが。

「当然だ。お前も魔法使いなら、人を見る目の一つや二つ、やしなっておいて損はないぞ?」
「そ、そういうものですかね?」
「ああ、そうだとも。力にかまけて自分を甘やかすなよ? 力を持とうと持つまいと、つちかわねばならん素養はあるのだから。それに、お前もまたあの娘と同じように良くも悪くも多くの者を惹きつける力を持っていることを自覚せよ」
「……ぜ、ぜんしょします」

 急に本気を出した女王様から、不意打ちでためになることを言われ、反応に困った俺だった。

「ほほう。たまにはいいことを言うのぅ」

 カワズさんは、女王様の変貌に驚きながらもそれでこそと頷いていた。

「うるさいわ。お前達との付き合いも長いからな。たまには助言の一つもくれてやろうと思っただけだ。何せ妾はこの妖精郷の女王だからな」

 キリッっとした顔で、女王様はそう言い放った。
 本人も現状のあまりの威厳いげんのなさを気にしていたのかもしれない。
 女王様は、今度はカワズさんに向き直り鼻を鳴らした。

「ふん。腹立たしいな、その頷き。いいだろう、じゃあお前にも一つ助言をくれてやろう、愚かな蛙よ。お前、いつまでも師匠づらはしていられないんじゃないか? 太郎はもう一人前の魔法使いだぞ。まだ師として導く余地があるうちに、せいぜい手を貸してやるのだな。それと何かと過去の人づらもやめておけ。師匠が終わっても、生ある限り次があると心得よ。これは貴様よりさらに年長者からの助言だ」

 カワズさんは冷や水でも浴びせられたような顔になって黙り込んだ。しかし助言自体は神妙に受けとめることにしたらしい。

「耳が痛い助言ですのぅ……。しかし心得ました。ありがたく頂戴させていただきますかのぅ」
「うむ。では、探しに行くというのならせいぜい面白い土産みやげばなしを持ってくるがいい! そのついでにモデル候補になりそうな奴がいたら、妾に報告! 連絡! 相談を忘れるな!」

 女王様はパンッと手を叩く。

「あ、いつもの女王様に戻った」
「短かったのぅ」
「やかましいわ」

 それなりの威厳を示して女王様らしさを見せていたが、最後の言葉でそれも台無しにしてしまった女王様だった。


      ◇◆◇◆◇


 女王様への弁解も済み、いったん家に戻ってきた俺達は、作戦を立て直すことにした。
 女王様に会ったことで、新たな情報が得られたのは収穫だった。
 結果的にトンボだけでなく、セーラー戦士も捜索する対象に加わってしまったわけだが、女王様の意見が聞けたことで、俺も冷静さを取り戻せた。

「とにかく二人とも探しに行かなきゃいけないだろうな」
「じゃな。そこは決定じゃろ」
「でも、女王様の感じだと、そう急がなくてもよさそうだけど……」
「まぁ、言われてみればそうなのかものう。少なくとも二人の戦力を考えれば心配する方がおかしいしな」
「だなぁ」

 戦力という点で言えば、むしろ普段のセーラー戦士の方が心配なくらいだ。
 よって心配すべきは、別の点だろう。
 カワズさんは深刻な顔をして俺に言った。

「ふむ、だが、二人を探しに行くにあたって、お前さんの魔法はなるべく使わない方がよさそうじゃな」
「……何で、と聞いておこうか?」
「わからんか? あの装備が解き放たれたんじゃぞ? しかもあの娘まで引き込んでな。お前、フォローにどれだけ魔力が必要か、想像つくか?」
「……つかないな」

 マジカル☆トンボちゃんが変身して、その力を十二分に発揮すればどうなるか? というのが今回の問題のすべてである。
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