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2巻
2-3
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2 エルフ! 襲撃! あけみちゃん!
長女ウィドレンは、ここ数日イラついていた。
次女のウォタレンもイライラしていた。
フィアレンは……末っ子だからだろうか、いつもどおりマイペースであった。
姉二人の苛立ちの原因はわかっていたが、フィアレンはそれを口には出さなかった。
口に出した途端、忌々しいドワーフの三姉妹に対する「負け」が確定してしまうような気がしたからだ。
家のリビングでお茶を飲みながら、フィアレンは思った。
これまで自分達は、あのドワーフ三人娘のことを忌々しく思いながらも、心のどこかで「同志」のように感じていたのかもしれない、と。
そしてこうも考えた。
自分達は、連中と貶め合いながらも、「互いに勝利者にはなれない」とどこかで安心していたのだ、と。
実際、そうだったのだろう。
あの噂を、耳にするまでは……。
エンガルの南に位置する町、イクタフ。
そのイクタフのギルド出張所で聞いた噂は、エルフ三姉妹にとって、天地がひっくり返るほど衝撃的なものだった。
噂を聞いたその夜から、彼女達は何度悪夢に魘されたことだろう。姉二人に比べて競争心のないフィアレンでさえ、嫉妬心から見る悪夢で真夜中に目を覚ましてしまうほどだった。
そして、ある日の朝。
前の晩、連日の悪夢のせいでやつれ切っていたウィドレンが、すぐ隣に寝るウォタレンの涙ながらの寝言を聞いて何かを決意したらしく、妹達にこう切り出した。
「確かめるべきだと思うの……あの噂の真相を……」
ちなみにウォタレンが呟いた寝言は「置いてかないで……」だった。
姉の提案を聞いてビクッと肩を震わせたウォタレンは、静かに俯く。
「何を?」
「わかってるでしょう、ウォタレン」
ウォタレンが姉から目を逸らす。
「きっと、根も葉もない噂に違いない……」
いまだ小刻みに震えているウォタレンの肩を、ウィドレンがガッシと掴んだ。
「それを、確かめましょう」
「……おねちゃんダヂ、他人の幸せを妬んじゃだめだなし」
末っ子のフィアレンは、彼女達の故郷の訛り丸出しで二人を諌める。
普段は、姉達から「訛りがひどいから人前で喋るな」と言われているフィアレンだが、さすがに自宅でまでは禁じられていない。
しかし、しょせんは末っ子。
嫉妬に狂った姉二人の意向には逆らえなかった。
「だまらっしゃい! これがじっとしていられますか! ウォタレンなんて、昨夜は泣きながら魘されていたのよ?」
「な……自分だって、毎晩魘されているではないか、ウィドレン!」
「確かめるのよ! 『ドワーフ三姉妹が嫁に行った』っていう噂がデタラメだということを!」
「ああ、デタラメに決まっている! よし、それをはっきりさせよう!」
にわかに意気込む姉達に、末っ子フィアレンはこう言うほかなかった。
「やめたほうがいいペした……」
その日から数日かけて、町の人々に聞き込みをして確認した噂の真相は――ウィドレン・ウォタレンの二人を嫉妬の炎で焼き尽くすほどの幸せ丸出しエピソードばかりであった。
何日か経って出向いたエンガルギルドで、偶然、件のドワーフ三姉妹を娶ったという男を見つけ、ウィドレンが絡んだ。
だが彼の向かいにいた受付係が、以前にいざこざを起こしたことのある相手だったためにウィドレンは少々不利だった。
さらに、その場にドワーフ三姉妹の中でも挑発が得意な次女が現れ、煽られて、結局こちらは怒りに身を焦がしながらギルドをあとにすることになった。怒りに震えていたのは、主に姉二人だったが。
翌朝、姉達のアイデアで、せめてもの意趣返しにと貸馬屋で待ち伏せ、独身女の経済力を見せつけようと自家用馬をアピールしたのだが――あろうことか、こちらの馬よりも数段格上の自家用馬を見せつけられてしまった。
「ユルサナイ……」
「奴らの不幸はワタシノコウフク……」
怒り狂って貸馬屋から走り去りながら、馬上で魔物のような形相をする姉二人。
彼女達を止めることなど、末っ子のフィアレンにはもはや不可能だった。
ドワーフ三姉妹の行き先は、エンガルギルドの入り口で盗み聞きして掴んである。
「こうなったら……やるわよ、ウォタレン、フィアレン」
フィアレンは頷くしかなかった。
こうしてエルフ三姉妹は、先回りをして目的地付近にあらゆる罠を仕掛け、宣戦布告として、二本の矢を彼女達の夫に向けて放った。
相手側に、罠のスペシャリストがいることも忘れて……。
◇◇◇
その夜――。
エルフの姉二人はそれぞれ顔に死神を模した化粧をし始めた。これはエルフ族に伝わる、宿敵を殺しにいく前に行う儀式である。
「んだは! 行くど!」
「絶対にきゅう言わせてやるぺした!」
「おねちゃんだぢ訛り戻っでる……」
エルフ三姉妹は夜の闇にまぎれ、ドワーフ達の野営場所へと向かった。
ゴブリンの巣から少し離れた場所に、テントが張られているのが見える。そのすぐそばで、絶やさないように火を守る不寝番らしき小さな人影も確認できた。
エルフ三人は音を立てず慎重に近づいていく。途中、自分達が先回りして仕掛けた罠のデンジャーゾーンの印が見て取れた。うっかりその罠にかからないよう、小さな印のある辺りに注意しながら、そっと樹上に移動する。
足場の不安定な樹上での素早い行動こそ、彼女達エルフの真骨頂である。
生まれ落ちた時から森で生活するエルフは、森の中で地上と樹上を高速で移動することで敵を翻弄し、罠にかけ、弓矢などの遠距離攻撃で仕留めるのを得意とする。
樹上を自在に行き交うこと……それが、ドワーフ三姉妹が彼女達を猿呼ばわりする所以だった。
幹の太さと樹皮の張り具合から、とくに音を立てにくい木を選び、それぞれの配置につくエルフ達。
樹上からドワーフ達の野営テントを眺めながら、思い思いの言葉が口をついて出る。
「くくく……あなた達が悪いのよ……あたし達より先に結婚なんかスルカラ」
「さよなら……オチビサン」
その時だった――。
「ああああああああああああああああ!」
フィアレンの、闇を切り裂くような悲鳴が響いた。
ウィドレンは悲鳴のしたほうに目を向ける。
両足を蔓でぐるぐるに巻かれたフィアレンが、別の、一際高い木の上にいるウォタレンのほうへ飛んでいくところだった。
ウィドレンが、妹達を庇うか、それとも自分の身を守るか……と一瞬思考を巡らせた時には、妹二人は激しく衝突していた。
フィアレンが体にぶつかった衝撃でバランスを失ったウォタレンは、体を支えるために近くの枝を掴んだ。
だが、枝はぬるりと滑り、彼女は樹上から落下した。
「……動物の、脂?」
思わず頭に浮かんだ疑問を口にしながら、ウォタレンは地面に向かって落ちていく。
地上には、力任せに折られて槍のように先の尖った何本もの木が、上を向いて立っていた。ウォタレンは藁をも掴む思いで、いつもなら触ることのない細い枝に手を伸ばすが、重力加速度のついた状態では細い枝など掴んだところで折れるだけだ。
何度目かに掴んだ枝が折れた瞬間――。
「!?」
ウォタレンの落下するベクトルが、下ではなく真横に変わった。
掴んだこの枝には、横にめいっぱいしならせた別の枝が固定されていた。そして枝が折れるとともに、しなっていた部分が一気に元に戻り、その軌道上にいたウォタレンを弾き飛ばしたのだ。
彼女が飛ばされた方向には、ウィドレンがいた。
ウィドレンは、フィアレンの悲鳴とウォタレンの落下が続けざまに起きたことでパニックに陥っていた。
事態の把握ができないまま樹上で呆然としていたが、暗闇の中から突然自分に向かって飛んできた、死神の化粧をして恐怖に歪んだウォタレンの顔を目にし――わずかに残っていた理性をあっさり手放した。
ウォタレンの体に薙ぎ払われたウィドレンが、エルフなら誰もが知っている格言――「樹上から落ちるは一生の恥」をたとえ一時でも捨てていれば、あるいはこのあとの展開は違ったかもしれない。
だが、彼女に一族の誇りとも言えるこの格言を投げ出すことなどできはしなかった。それは二人の妹達も同じである。
そしてこれらの罠を仕掛けた恐るべき人物は、ウィドレン達エルフの誇り高い精神をも利用したトラップを重ねがけしていた。
そのために――ドミノ倒しのように、罠コンボが繋がる。
地面めがけて落下するウィドレンの目に、ちょうどよい横枝が映った。
あれなら掴まれる!
そう思い、腕を伸ばして猿のようにしがみついた瞬間、彼女は全身に違和感を覚えた。
「これは……松脂?」
極めて粘着力が強いタイプの松脂らしく、体は枝にぴったりくっついて離れない。嫌な予感がしたのと同時に、仕掛けがガクンと外れ――ウィドレンを載せたままブランコのようになった横枝が、大きく後ろに振れ、そして手前に戻ってくる。
「おおおおおおおお!」
振りが頂点に達したそのブランコに、さきほど蔓に足を絡め取られたまま飛ばされたはずのフィアレンが、同じ要領で戻ってきて激しくぶつかった。
するとフィアレンを捕らえていた蔓が途中からぶつりと切れ、ウィドレンの貼りついている横枝に彼女と向かい合うようにくっついた。
二人分の体重がかかったことにより、横枝をブランコたらしめていた二本のロープが、ちぎれる。
横枝ごと投げ出される二人――ポトリ、と着地した先は、何者かの規格外の力で限界ぎりぎりまで曲げられてロープで固定された、大木の幹の上だった。
そしてここには、先客がいた。
ウォタレンだ。
エルフ三人が「乗せられた」大木……それが「発射台」であることにウィドレンが気づいた時には、もう遅かった。
そこから先も、為されるがままだった。三人はもはや抗う気力もなく、縦横無尽に投げ飛ばされ続けた。
――どれほど時間が経っただろうか。
ようやくフリーフォール地獄から解放され、ふらつく足取りでドワーフ達がいると思われるテントに向かうと――焚き火の前で暖をとっていたのは、ドワーフほどの身長の、妙に力の抜けた顔つきをしたクマのゴーレムだった。
ウィドレンが腹立ちまぎれにそのクマゴーレムを蹴飛ばす。するとテントの中から同じ顔つきの……しかし筋骨隆々として体長は三メートルほどもあろうかという異形のクマゴーレムが二体出てきて、森の中を朝まで追いかけ回された。
もはや叫び声も出ないエルフ三人娘は、泥沼の中で体中に赤土を塗りつけて擬態することで何とか筋肉クマゴーレム達をやり過ごした。
息を殺し、祈る思いで地面と同化していると――筋肉グマの叩く太鼓の音が近づき、やがて、遠ざかっていった。
太鼓の音がほとんど聞こえなくなった頃、三人は深いため息をついた。
「どういうこっだ? 何であげなバケモンがこいなどごうろついでっだ?」
「もうやんだ~、もうやんだ~、森さ帰るぺした」
「だがら、言ったぺした」
数日後――。
エルフ三姉妹は、自分達の仕掛けた落とし穴の中で虫とドングリを食べて生き延びているところを、ゴブリンの巣殲滅の裏づけ調査に来た新人ハンターに発見された。
◇◇◇
翌朝。
目を覚ますと、ヴィータがいなかった。
彼女お得意の関節技がかかっていなかったので、いつもよりよく眠れた気がする。
俺の口の中に入っているエステアの足を出し、さらに俺の喉仏を鷲掴みにしているデックスの手を外して、表に出てみた。
寝ずに火の番をしていたクマゴーレムが、こちらに向かって手を振っている。
他のクマ兄さん達が見当たらないと思ったら……ちょうど、奥の森の中から太鼓を叩きながら出てきた。
ゴブリンでも追い込んだのだろうか?
寝てないのかな? 働き者だなぁ。
「ダーリン、おはよう」
振り向くと、ヴィータがいた。
「おはようございます、ヴィータさん。今日は早いですね?」
「後片付けしてたの~」
「言ってくれれば、手伝ったのに」
「いいのよー、ダーリン、よく寝てたみたいだしね~」
「もうルッソくんを外に出しても平気ですかね? 朝の散歩をさせてあげたいので」
「ふふふ、大丈夫よ~」
土魔法で緩やかなスロープを造って地下室に繋げ、ルッソくんを表に誘導してあげる。
ルッソくんは、野営地の下草を美味しそうに食みだした。
水飲み場も造ってあげて、一息ついたところで、お約束の露天風呂をこしらえようとしたところ――。
「ダーリン、お風呂造るの?」
「はい、外のお風呂って気持ちいいですから。とくに朝は」
「じゃあ、こっち~」
ヴィータが俺の手を引いて、小高い丘の上に案内した。
罠だけでなく関節技の達人である彼女に掴まれると、合気道のような要領で体を自在にコントロールされてしまう。
「ここに造って~」
「見晴らしがいいですね。最高に爽快な風呂に入れそうです」
いつもより広めの露天風呂を造り――早速入ってみる。
「あ~、気持ちいい~」
「本当ね~」
ヴィータが隣でくっついてくる。
「んふふ~、ドキドキする? ダーリン?」
「慣れたっす」
「ひどい!」
腕と首の関節を捻られ、水中に沈められる。
「くはあ! 酸欠でドキドキするっす!」
そばで食事しながら俺達の様子を見ていたルッソくんが、お風呂の周りをウロウロし始めた。
風呂に興味があるのかな?
「ルッソくん、君も入ってみますか? とりあえず、前脚だけ」
熱い湯にいきなり全身を浸からせて驚かれてもいけないので、うまいこと誘導してひとまず前脚を湯に入れさせた。
ルッソくんは目を細めて、気持ちよさそうにしている。
「こんなところにいたのか、ダンナ! コッソリ朝風呂なんてズルいぞ!」
ザブンと飛び込んでくるエステアと、デックス。
「まったく、ルッソくんの足跡がなかったら、二人がどこ行ったかわからなかったわよ」
ご褒美にと、デックスがルッソくんを撫でる。ルッソくんの目がさらに細くなる。嬉しそうだ。
「えーと……それで、今回の仕事はこれで終わりなんですか?」
ふと思い出してそう聞いてみた。デックスが答える。
「そうね、『ゴブリンの巣の調査』っていうギルドの依頼は達成したし、ついでのゴブリン討伐も終わったからね。あ、でもあと一つ残ってるわ。討伐部位の剥ぎ取りが」
「……俺の苦手な、血がいっぱい流れるやつですね?」
頷くデックス。
「ええ、でも私達三人でやるからいいわよ? あなたは不寝番やってたようなものだしね」
「寝ずに見張っててくれたのはクマ兄さん達ですよ?」
「そのクマ達を造ったのはあなたでしょ? 外敵の襲ってこない地下室を造ったのもそうだし、今回はその活躍に免じて剥ぎ取りは勘弁してあげる。でも、あなたももうハンターなんだから、そういう処理をいつまでも避けてはいられないわよ?」
デックスの目つきが少しだけ真面目になる。
「はい、わかってます。剥ぎ取りは、今度やり方を覚えますね」
俺達のやりとりを横で聞いていたエステアが、きししと笑った。
「デックスは、何だかんだ言ってダンナに甘々だよなぁ……『あなた』とか言ってるし、きしし」
「そうよー、ダーリンの前だといつものデックスちゃんじゃないわよねー」
ヴィータまでそう口を挟むと、デックスの頰がみるみる真っ赤に染まった。
「な! バカ言ってんじゃないわよ!」
勢いよく立ち上がり、二人にお湯をかけ始めるデックス。笑いながら逃げ出すヴィータとエステア。
俺は浴槽の端に移動して、キャイキャイと元気よくはしゃぎ回る三姉妹と、いつの間にか後ろ脚まで湯に浸けてゴロゴロと喉を鳴らすルッソくん、それから向こうに広がる、見渡すかぎりの大自然を眺める。
「幸せっすねぇ……」
ピタリと動きを止める三姉妹。
こちらを、キョトンとした顔で見ている。
「幸せ……なの?」
デックスが代表して聞いた。
「ええ、幸せっすよ」
俺の答えに、三人は顔を見合わせたあと、にっこり微笑む。
「そう。……なら、私達も幸せよ」
柔らかい笑みを浮かべたまま、三姉妹がそっと身を寄せてくる。
心なしか、こちらに顔を向けているルッソくんも、笑っているように見える。
俺は空を仰ぎながら、呟く。
「なんか……『次回最終回』みたいな雰囲気っすね」
「台無しだよ、ダンナ!」
エステアのツッコミが、朝日に照らされた大自然に響いた。
◇◇◇
困った……。
今、目の前にいるのは、三歳ほどの女児。火がついたように泣いている。
なぜ、こうなった?
つい一時間前までは、ルッソくんを連れてのんびり温泉に浸かっていたのに……道端で小さな女の子に泣かれて、まるで俺が何かひどいことをしたみたいだ。ここは山道で、他に通行人がいないのが不幸中の幸いである。
――俺は今朝から、エンガルの町の外れにあるロクゴウ山の麓で、野草採取の依頼をこなしていた。ギルドにおける依頼の中でも、一番ショボイ部類のものだ。
三姉妹は色々忙しいらしくて、こんなショボショボの依頼には付き合っていられないとのことで、俺一人でやることになった。
というわけで、ルッソくんと一緒に朝から山にやってきて採取を始め、昼前には、持ってきたリュックサックが野草で一杯になった。
そこで、いつものように小高い丘を探して土魔法で風呂を掘り、前回のゴブリン討伐以来すっかり風呂好きになったルッソくんも入ることのできるサイズの浴槽に浸かることにした。
そして行きつけの「うどん屋」――否、「酒場」で持ち帰り用にと先日買ってみた「エール」という、前世で言うビールっぽい酒を飲んでいたのだが……。
ルッソくんが何かの気配を感じたらしく、ヒクヒク鼻を鳴らしながら教えてきたので、俺は慌てて服を着て、念のためそばに掘っておいた落とし穴の中に隠れた。
そして、アースソナーと名づけた便利な魔法――動物が歩くことにより発生する振動を感知できる、土魔法の応用技を使って周囲を探ってみたら、聞き覚えのある足音をキャッチした。
フォレストウルフだ。それも、数頭分。
フォレストウルフは、エンガルではザコモンスター扱いの害獣で、戦闘が苦手な俺にとっても脅威ではない。
本来ならもう少し奥の森に生息するはずなんだけど……こんな麓まで下りてくるのは珍しいな。
まあ、しょせんザコなので……問題なくやり過ごせる。
はずだったのだが――。
「ん?」
アースソナーに、フォレストウルフ以外の足音も混ざっていることに気づいた。
どうやら……人間のものみたいだ。
これは、もしかして追われているのか?
「山菜でも採りにきた一般人かもしれませんね。ルッソくん、助けにいきましょう」
俺が言うと、ルッソくんはさっと湯から上がった。やる気満々らしい。
俺はルッソくんの背中によじ登り、足音の方向へ走り出した。
長女ウィドレンは、ここ数日イラついていた。
次女のウォタレンもイライラしていた。
フィアレンは……末っ子だからだろうか、いつもどおりマイペースであった。
姉二人の苛立ちの原因はわかっていたが、フィアレンはそれを口には出さなかった。
口に出した途端、忌々しいドワーフの三姉妹に対する「負け」が確定してしまうような気がしたからだ。
家のリビングでお茶を飲みながら、フィアレンは思った。
これまで自分達は、あのドワーフ三人娘のことを忌々しく思いながらも、心のどこかで「同志」のように感じていたのかもしれない、と。
そしてこうも考えた。
自分達は、連中と貶め合いながらも、「互いに勝利者にはなれない」とどこかで安心していたのだ、と。
実際、そうだったのだろう。
あの噂を、耳にするまでは……。
エンガルの南に位置する町、イクタフ。
そのイクタフのギルド出張所で聞いた噂は、エルフ三姉妹にとって、天地がひっくり返るほど衝撃的なものだった。
噂を聞いたその夜から、彼女達は何度悪夢に魘されたことだろう。姉二人に比べて競争心のないフィアレンでさえ、嫉妬心から見る悪夢で真夜中に目を覚ましてしまうほどだった。
そして、ある日の朝。
前の晩、連日の悪夢のせいでやつれ切っていたウィドレンが、すぐ隣に寝るウォタレンの涙ながらの寝言を聞いて何かを決意したらしく、妹達にこう切り出した。
「確かめるべきだと思うの……あの噂の真相を……」
ちなみにウォタレンが呟いた寝言は「置いてかないで……」だった。
姉の提案を聞いてビクッと肩を震わせたウォタレンは、静かに俯く。
「何を?」
「わかってるでしょう、ウォタレン」
ウォタレンが姉から目を逸らす。
「きっと、根も葉もない噂に違いない……」
いまだ小刻みに震えているウォタレンの肩を、ウィドレンがガッシと掴んだ。
「それを、確かめましょう」
「……おねちゃんダヂ、他人の幸せを妬んじゃだめだなし」
末っ子のフィアレンは、彼女達の故郷の訛り丸出しで二人を諌める。
普段は、姉達から「訛りがひどいから人前で喋るな」と言われているフィアレンだが、さすがに自宅でまでは禁じられていない。
しかし、しょせんは末っ子。
嫉妬に狂った姉二人の意向には逆らえなかった。
「だまらっしゃい! これがじっとしていられますか! ウォタレンなんて、昨夜は泣きながら魘されていたのよ?」
「な……自分だって、毎晩魘されているではないか、ウィドレン!」
「確かめるのよ! 『ドワーフ三姉妹が嫁に行った』っていう噂がデタラメだということを!」
「ああ、デタラメに決まっている! よし、それをはっきりさせよう!」
にわかに意気込む姉達に、末っ子フィアレンはこう言うほかなかった。
「やめたほうがいいペした……」
その日から数日かけて、町の人々に聞き込みをして確認した噂の真相は――ウィドレン・ウォタレンの二人を嫉妬の炎で焼き尽くすほどの幸せ丸出しエピソードばかりであった。
何日か経って出向いたエンガルギルドで、偶然、件のドワーフ三姉妹を娶ったという男を見つけ、ウィドレンが絡んだ。
だが彼の向かいにいた受付係が、以前にいざこざを起こしたことのある相手だったためにウィドレンは少々不利だった。
さらに、その場にドワーフ三姉妹の中でも挑発が得意な次女が現れ、煽られて、結局こちらは怒りに身を焦がしながらギルドをあとにすることになった。怒りに震えていたのは、主に姉二人だったが。
翌朝、姉達のアイデアで、せめてもの意趣返しにと貸馬屋で待ち伏せ、独身女の経済力を見せつけようと自家用馬をアピールしたのだが――あろうことか、こちらの馬よりも数段格上の自家用馬を見せつけられてしまった。
「ユルサナイ……」
「奴らの不幸はワタシノコウフク……」
怒り狂って貸馬屋から走り去りながら、馬上で魔物のような形相をする姉二人。
彼女達を止めることなど、末っ子のフィアレンにはもはや不可能だった。
ドワーフ三姉妹の行き先は、エンガルギルドの入り口で盗み聞きして掴んである。
「こうなったら……やるわよ、ウォタレン、フィアレン」
フィアレンは頷くしかなかった。
こうしてエルフ三姉妹は、先回りをして目的地付近にあらゆる罠を仕掛け、宣戦布告として、二本の矢を彼女達の夫に向けて放った。
相手側に、罠のスペシャリストがいることも忘れて……。
◇◇◇
その夜――。
エルフの姉二人はそれぞれ顔に死神を模した化粧をし始めた。これはエルフ族に伝わる、宿敵を殺しにいく前に行う儀式である。
「んだは! 行くど!」
「絶対にきゅう言わせてやるぺした!」
「おねちゃんだぢ訛り戻っでる……」
エルフ三姉妹は夜の闇にまぎれ、ドワーフ達の野営場所へと向かった。
ゴブリンの巣から少し離れた場所に、テントが張られているのが見える。そのすぐそばで、絶やさないように火を守る不寝番らしき小さな人影も確認できた。
エルフ三人は音を立てず慎重に近づいていく。途中、自分達が先回りして仕掛けた罠のデンジャーゾーンの印が見て取れた。うっかりその罠にかからないよう、小さな印のある辺りに注意しながら、そっと樹上に移動する。
足場の不安定な樹上での素早い行動こそ、彼女達エルフの真骨頂である。
生まれ落ちた時から森で生活するエルフは、森の中で地上と樹上を高速で移動することで敵を翻弄し、罠にかけ、弓矢などの遠距離攻撃で仕留めるのを得意とする。
樹上を自在に行き交うこと……それが、ドワーフ三姉妹が彼女達を猿呼ばわりする所以だった。
幹の太さと樹皮の張り具合から、とくに音を立てにくい木を選び、それぞれの配置につくエルフ達。
樹上からドワーフ達の野営テントを眺めながら、思い思いの言葉が口をついて出る。
「くくく……あなた達が悪いのよ……あたし達より先に結婚なんかスルカラ」
「さよなら……オチビサン」
その時だった――。
「ああああああああああああああああ!」
フィアレンの、闇を切り裂くような悲鳴が響いた。
ウィドレンは悲鳴のしたほうに目を向ける。
両足を蔓でぐるぐるに巻かれたフィアレンが、別の、一際高い木の上にいるウォタレンのほうへ飛んでいくところだった。
ウィドレンが、妹達を庇うか、それとも自分の身を守るか……と一瞬思考を巡らせた時には、妹二人は激しく衝突していた。
フィアレンが体にぶつかった衝撃でバランスを失ったウォタレンは、体を支えるために近くの枝を掴んだ。
だが、枝はぬるりと滑り、彼女は樹上から落下した。
「……動物の、脂?」
思わず頭に浮かんだ疑問を口にしながら、ウォタレンは地面に向かって落ちていく。
地上には、力任せに折られて槍のように先の尖った何本もの木が、上を向いて立っていた。ウォタレンは藁をも掴む思いで、いつもなら触ることのない細い枝に手を伸ばすが、重力加速度のついた状態では細い枝など掴んだところで折れるだけだ。
何度目かに掴んだ枝が折れた瞬間――。
「!?」
ウォタレンの落下するベクトルが、下ではなく真横に変わった。
掴んだこの枝には、横にめいっぱいしならせた別の枝が固定されていた。そして枝が折れるとともに、しなっていた部分が一気に元に戻り、その軌道上にいたウォタレンを弾き飛ばしたのだ。
彼女が飛ばされた方向には、ウィドレンがいた。
ウィドレンは、フィアレンの悲鳴とウォタレンの落下が続けざまに起きたことでパニックに陥っていた。
事態の把握ができないまま樹上で呆然としていたが、暗闇の中から突然自分に向かって飛んできた、死神の化粧をして恐怖に歪んだウォタレンの顔を目にし――わずかに残っていた理性をあっさり手放した。
ウォタレンの体に薙ぎ払われたウィドレンが、エルフなら誰もが知っている格言――「樹上から落ちるは一生の恥」をたとえ一時でも捨てていれば、あるいはこのあとの展開は違ったかもしれない。
だが、彼女に一族の誇りとも言えるこの格言を投げ出すことなどできはしなかった。それは二人の妹達も同じである。
そしてこれらの罠を仕掛けた恐るべき人物は、ウィドレン達エルフの誇り高い精神をも利用したトラップを重ねがけしていた。
そのために――ドミノ倒しのように、罠コンボが繋がる。
地面めがけて落下するウィドレンの目に、ちょうどよい横枝が映った。
あれなら掴まれる!
そう思い、腕を伸ばして猿のようにしがみついた瞬間、彼女は全身に違和感を覚えた。
「これは……松脂?」
極めて粘着力が強いタイプの松脂らしく、体は枝にぴったりくっついて離れない。嫌な予感がしたのと同時に、仕掛けがガクンと外れ――ウィドレンを載せたままブランコのようになった横枝が、大きく後ろに振れ、そして手前に戻ってくる。
「おおおおおおおお!」
振りが頂点に達したそのブランコに、さきほど蔓に足を絡め取られたまま飛ばされたはずのフィアレンが、同じ要領で戻ってきて激しくぶつかった。
するとフィアレンを捕らえていた蔓が途中からぶつりと切れ、ウィドレンの貼りついている横枝に彼女と向かい合うようにくっついた。
二人分の体重がかかったことにより、横枝をブランコたらしめていた二本のロープが、ちぎれる。
横枝ごと投げ出される二人――ポトリ、と着地した先は、何者かの規格外の力で限界ぎりぎりまで曲げられてロープで固定された、大木の幹の上だった。
そしてここには、先客がいた。
ウォタレンだ。
エルフ三人が「乗せられた」大木……それが「発射台」であることにウィドレンが気づいた時には、もう遅かった。
そこから先も、為されるがままだった。三人はもはや抗う気力もなく、縦横無尽に投げ飛ばされ続けた。
――どれほど時間が経っただろうか。
ようやくフリーフォール地獄から解放され、ふらつく足取りでドワーフ達がいると思われるテントに向かうと――焚き火の前で暖をとっていたのは、ドワーフほどの身長の、妙に力の抜けた顔つきをしたクマのゴーレムだった。
ウィドレンが腹立ちまぎれにそのクマゴーレムを蹴飛ばす。するとテントの中から同じ顔つきの……しかし筋骨隆々として体長は三メートルほどもあろうかという異形のクマゴーレムが二体出てきて、森の中を朝まで追いかけ回された。
もはや叫び声も出ないエルフ三人娘は、泥沼の中で体中に赤土を塗りつけて擬態することで何とか筋肉クマゴーレム達をやり過ごした。
息を殺し、祈る思いで地面と同化していると――筋肉グマの叩く太鼓の音が近づき、やがて、遠ざかっていった。
太鼓の音がほとんど聞こえなくなった頃、三人は深いため息をついた。
「どういうこっだ? 何であげなバケモンがこいなどごうろついでっだ?」
「もうやんだ~、もうやんだ~、森さ帰るぺした」
「だがら、言ったぺした」
数日後――。
エルフ三姉妹は、自分達の仕掛けた落とし穴の中で虫とドングリを食べて生き延びているところを、ゴブリンの巣殲滅の裏づけ調査に来た新人ハンターに発見された。
◇◇◇
翌朝。
目を覚ますと、ヴィータがいなかった。
彼女お得意の関節技がかかっていなかったので、いつもよりよく眠れた気がする。
俺の口の中に入っているエステアの足を出し、さらに俺の喉仏を鷲掴みにしているデックスの手を外して、表に出てみた。
寝ずに火の番をしていたクマゴーレムが、こちらに向かって手を振っている。
他のクマ兄さん達が見当たらないと思ったら……ちょうど、奥の森の中から太鼓を叩きながら出てきた。
ゴブリンでも追い込んだのだろうか?
寝てないのかな? 働き者だなぁ。
「ダーリン、おはよう」
振り向くと、ヴィータがいた。
「おはようございます、ヴィータさん。今日は早いですね?」
「後片付けしてたの~」
「言ってくれれば、手伝ったのに」
「いいのよー、ダーリン、よく寝てたみたいだしね~」
「もうルッソくんを外に出しても平気ですかね? 朝の散歩をさせてあげたいので」
「ふふふ、大丈夫よ~」
土魔法で緩やかなスロープを造って地下室に繋げ、ルッソくんを表に誘導してあげる。
ルッソくんは、野営地の下草を美味しそうに食みだした。
水飲み場も造ってあげて、一息ついたところで、お約束の露天風呂をこしらえようとしたところ――。
「ダーリン、お風呂造るの?」
「はい、外のお風呂って気持ちいいですから。とくに朝は」
「じゃあ、こっち~」
ヴィータが俺の手を引いて、小高い丘の上に案内した。
罠だけでなく関節技の達人である彼女に掴まれると、合気道のような要領で体を自在にコントロールされてしまう。
「ここに造って~」
「見晴らしがいいですね。最高に爽快な風呂に入れそうです」
いつもより広めの露天風呂を造り――早速入ってみる。
「あ~、気持ちいい~」
「本当ね~」
ヴィータが隣でくっついてくる。
「んふふ~、ドキドキする? ダーリン?」
「慣れたっす」
「ひどい!」
腕と首の関節を捻られ、水中に沈められる。
「くはあ! 酸欠でドキドキするっす!」
そばで食事しながら俺達の様子を見ていたルッソくんが、お風呂の周りをウロウロし始めた。
風呂に興味があるのかな?
「ルッソくん、君も入ってみますか? とりあえず、前脚だけ」
熱い湯にいきなり全身を浸からせて驚かれてもいけないので、うまいこと誘導してひとまず前脚を湯に入れさせた。
ルッソくんは目を細めて、気持ちよさそうにしている。
「こんなところにいたのか、ダンナ! コッソリ朝風呂なんてズルいぞ!」
ザブンと飛び込んでくるエステアと、デックス。
「まったく、ルッソくんの足跡がなかったら、二人がどこ行ったかわからなかったわよ」
ご褒美にと、デックスがルッソくんを撫でる。ルッソくんの目がさらに細くなる。嬉しそうだ。
「えーと……それで、今回の仕事はこれで終わりなんですか?」
ふと思い出してそう聞いてみた。デックスが答える。
「そうね、『ゴブリンの巣の調査』っていうギルドの依頼は達成したし、ついでのゴブリン討伐も終わったからね。あ、でもあと一つ残ってるわ。討伐部位の剥ぎ取りが」
「……俺の苦手な、血がいっぱい流れるやつですね?」
頷くデックス。
「ええ、でも私達三人でやるからいいわよ? あなたは不寝番やってたようなものだしね」
「寝ずに見張っててくれたのはクマ兄さん達ですよ?」
「そのクマ達を造ったのはあなたでしょ? 外敵の襲ってこない地下室を造ったのもそうだし、今回はその活躍に免じて剥ぎ取りは勘弁してあげる。でも、あなたももうハンターなんだから、そういう処理をいつまでも避けてはいられないわよ?」
デックスの目つきが少しだけ真面目になる。
「はい、わかってます。剥ぎ取りは、今度やり方を覚えますね」
俺達のやりとりを横で聞いていたエステアが、きししと笑った。
「デックスは、何だかんだ言ってダンナに甘々だよなぁ……『あなた』とか言ってるし、きしし」
「そうよー、ダーリンの前だといつものデックスちゃんじゃないわよねー」
ヴィータまでそう口を挟むと、デックスの頰がみるみる真っ赤に染まった。
「な! バカ言ってんじゃないわよ!」
勢いよく立ち上がり、二人にお湯をかけ始めるデックス。笑いながら逃げ出すヴィータとエステア。
俺は浴槽の端に移動して、キャイキャイと元気よくはしゃぎ回る三姉妹と、いつの間にか後ろ脚まで湯に浸けてゴロゴロと喉を鳴らすルッソくん、それから向こうに広がる、見渡すかぎりの大自然を眺める。
「幸せっすねぇ……」
ピタリと動きを止める三姉妹。
こちらを、キョトンとした顔で見ている。
「幸せ……なの?」
デックスが代表して聞いた。
「ええ、幸せっすよ」
俺の答えに、三人は顔を見合わせたあと、にっこり微笑む。
「そう。……なら、私達も幸せよ」
柔らかい笑みを浮かべたまま、三姉妹がそっと身を寄せてくる。
心なしか、こちらに顔を向けているルッソくんも、笑っているように見える。
俺は空を仰ぎながら、呟く。
「なんか……『次回最終回』みたいな雰囲気っすね」
「台無しだよ、ダンナ!」
エステアのツッコミが、朝日に照らされた大自然に響いた。
◇◇◇
困った……。
今、目の前にいるのは、三歳ほどの女児。火がついたように泣いている。
なぜ、こうなった?
つい一時間前までは、ルッソくんを連れてのんびり温泉に浸かっていたのに……道端で小さな女の子に泣かれて、まるで俺が何かひどいことをしたみたいだ。ここは山道で、他に通行人がいないのが不幸中の幸いである。
――俺は今朝から、エンガルの町の外れにあるロクゴウ山の麓で、野草採取の依頼をこなしていた。ギルドにおける依頼の中でも、一番ショボイ部類のものだ。
三姉妹は色々忙しいらしくて、こんなショボショボの依頼には付き合っていられないとのことで、俺一人でやることになった。
というわけで、ルッソくんと一緒に朝から山にやってきて採取を始め、昼前には、持ってきたリュックサックが野草で一杯になった。
そこで、いつものように小高い丘を探して土魔法で風呂を掘り、前回のゴブリン討伐以来すっかり風呂好きになったルッソくんも入ることのできるサイズの浴槽に浸かることにした。
そして行きつけの「うどん屋」――否、「酒場」で持ち帰り用にと先日買ってみた「エール」という、前世で言うビールっぽい酒を飲んでいたのだが……。
ルッソくんが何かの気配を感じたらしく、ヒクヒク鼻を鳴らしながら教えてきたので、俺は慌てて服を着て、念のためそばに掘っておいた落とし穴の中に隠れた。
そして、アースソナーと名づけた便利な魔法――動物が歩くことにより発生する振動を感知できる、土魔法の応用技を使って周囲を探ってみたら、聞き覚えのある足音をキャッチした。
フォレストウルフだ。それも、数頭分。
フォレストウルフは、エンガルではザコモンスター扱いの害獣で、戦闘が苦手な俺にとっても脅威ではない。
本来ならもう少し奥の森に生息するはずなんだけど……こんな麓まで下りてくるのは珍しいな。
まあ、しょせんザコなので……問題なくやり過ごせる。
はずだったのだが――。
「ん?」
アースソナーに、フォレストウルフ以外の足音も混ざっていることに気づいた。
どうやら……人間のものみたいだ。
これは、もしかして追われているのか?
「山菜でも採りにきた一般人かもしれませんね。ルッソくん、助けにいきましょう」
俺が言うと、ルッソくんはさっと湯から上がった。やる気満々らしい。
俺はルッソくんの背中によじ登り、足音の方向へ走り出した。
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