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かつて、この世界には「恐怖」という言葉が存在しなかった。
空は青く、風は穏やかで、人々はただ日々を生きていた。
だが――それは終わった。
魔王が現れた、その日から。
黒き霧と共に現れた魔王は、大地を歪め、命を狂わせた。
森は牙を持ち、獣は理性を失い、そして――“モンスター”が生まれた。
人々は抗った。
剣を取り、槍を持ち、魔法を編み出した。
そして「勇者」と呼ばれる者たちが現れた。
だが。
幾人もの勇者が、魔王の元へと挑み――
そして、帰らなかった。
勝てない。
そう囁かれ始めた頃。
世界は静かに、絶望へと傾いていった。
⸻
それでも。
「……絶対、連れ戻す」
小さな村の外れで、一人の少年が呟いた。
ミナト。
まだ幼さの残るその目には、不釣り合いなほどの決意が宿っていた。
握りしめた剣は、決して名剣ではない。
訓練も、まだ十分とは言えない。
それでも彼は、旅に出る。
理由はただ一つ。
魔王に連れ去られた、大切な友達を取り戻すために。
「待ってろよ……必ず行く」
朝焼けの中、ミナトは振り返らなかった。
それが――
終わることのない冒険の、はじまりだった。
文字数 4,590
最終更新日 2026.03.18
登録日 2026.03.18
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