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人口約五万人ののどかな王国に、絶世の美女にして、王の妻に君臨しようとした女がいた。大富豪ヴァジス家の令嬢、リリア・ヴァジス。すきとおった青い瞳に、美しくなびく金髪。刺繍のほどこされた紅いドレスに茶色のコルセットを纏う彼女は、誰にでも気を許させる優しい笑顔を浮かべ、誰もが「親しみやすい聖女」だと信じて疑わなかった。――だが、人々はまだ知らなかったのだ。彼女の裏の顔が、自身の美と、決して誰にも汚させない絶対不可侵の領域を守るため、百五十人もの若き女を解体してきた冷酷な猟奇暗殺者であることを。「私は美しくあるために若き女を天に返したのよ。王子にふさわしい美しい妻として――‼」婚約者であるフランツ王子とのヒリヒリするような心理戦。屋敷の地下から漂う、薔薇の奥に隠された鉄の匂い。そして、すべてを欺いた聖女が最期に断頭台の上で放つ、狂気と気高きプライドに満ちた言葉とは。美を求めすぎた女の、あまりにも美しく残酷なピカレスク・ゴシックホラーサスペンス、開幕。
文字数 2,795
最終更新日 2026.07.23
登録日 2026.07.11
これは、その青年の短き物語。激しい戦火が吹き荒れる地。戦闘部隊に入れず、通信部隊として派遣された一人の不器用な青年がいた。青年は、一度見た他人の文字の癖を完璧にコピーできる「人の文字を真似る」という特技を持っていた。戦う技術はなくとも、文字が書けない戦友たちの代わりに家族への手紙を何枚も代筆してきた、誰にでも優しい従順な青年だった。泥の坂道を駆け上がったとき、彼の目の前を一羽の真っ白な蝶がふわりと通り過ぎる。硝煙の煙の中、右からは激しい銃声、左は不気味なほどの静寂。青年は、真っ白な蝶を信じるように、激しい銃声が響く「右の道」へと果敢に飛び込んだ。それから、数ヶ月にわたる手紙を渡す任務が、すべて終わりを迎える――。不器用ながらも、実直に、命がけで役割を全うし続けた青年が辿り着いた、本当の真実。すべての任務を終え、みんなが待つ家の扉を開けたとき、その手に抱えられた12本のバラの上へ、一羽の真っ白な蝶がふわりと止まった。選択を信じた青年が掴み取る、もう一つの未来の記録。
文字数 1,197
最終更新日 2026.07.05
登録日 2026.07.05
あの時、右を選んでいたら、青年の運命は変わっていたのでしょうか。激しい戦火が吹き荒れる地。戦闘部隊に入れず、通信部隊として派遣された一人の不器用な青年がいた。連隊長から託された手紙の束を抱きしめ、彼は「自分もようやく認められたんだ」と、どんなに足がすくんでも進み続けた。泥の坂道を駆け上がったとき、彼の目の前を一羽の真っ白な蝶がふわりと通り過ぎる。硝煙の煙の中、右からは激しい銃声、左は不気味なほどの静寂。青年は蝶の誘いを振り切り、安全そうだと思った静かな「左の道」へ慎重に足を踏み出した。数分後、砂ぼこりが薄れ、視界が晴れて少し安心したその瞬間――。足元から、カチッと起動音が聞こえた。遅れてやってきた別の通信兵が目撃した、遺体の回収すらできないほど凄惨な罠の跡。そして、その通信兵が何より不気味に思ったのは、そこにいた、青年の血を吸う「二匹の黄色の蝶」の姿だった。選択を誤った青年が辿る、残酷で美しい、ある『短き物語』の記録。
文字数 888
最終更新日 2026.07.05
登録日 2026.07.05
「あれは、本当に夢だったのかな……」数年前の秋の夜、どうしても寝付けなかった私の友達は、気晴らしに街灯ひとつない暗い山道へドライブに出かけた。時速60キロで走る車。急な尿意に焦る友達のヘッドライトが照らし出したのは、暗闇にぽつんと浮かび上がる「赤い服の人影」だった。運転中だから、よくは見えなかった。追い抜いて、一瞬で通り過ぎたはずだった。なのに、カーブを曲がったその先で、またしてもそいつが突っ立っている。進む先、進む先に、そいつは車を上回るスピードで必ず先回りしてこちらを見つめていた。ようやく山頂に車を止め、ホッとして一瞬だけ目を閉じる。次に目を開けたとき、フロントガラスのすぐ向こうにいたのは――。日常が静かに、しかし圧倒的な恐怖のスピードで狂っていく、実話風ショートホラー。
文字数 1,408
最終更新日 2026.07.04
登録日 2026.07.04
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