早川座水

早川座水

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現代文学 連載中 短編 R15
──1995年1月16日・深夜、神戸市長田区。 夜の住宅街を、自転車のライトが一本の線のように滑っていた。 17歳の西本慎吾は、コンビニで買った缶コーヒーを手に、人気のない坂道を下っていた。 「なんや…やけに静かやな。」 ポケットには、仲間からもらった安物のライター。彼はふと空を見上げた。 黒々とした雲の切れ間に、星が一つだけ浮かんでいた。 ──神戸市中央区・中村家。 8歳の翔太は、布団の中で目をこすりながら母のぬくもりを探していた。 キッチンからは、夕食の残り物を片付ける音が聞こえる。 「ママ、明日も学校あるの?」 「もちろん。お弁当も作るよ。…焼きそばパン、入れとこうか?」 「やったー!」 そんな他愛のない会話が、日常の最後になるとは、この時はまだ誰も知らなかった。 ──神戸市兵庫区・消防第3出張所。 佐伯修平は、詰所のデスクで仮眠をとっていた。 妻と口論して家を出たまま、今日で3日目だった。 「地震…なわけないか。」 小さく軋む鉄筋の音に、彼は目を開けた。 窓の外には、いつも通りの静かな街があった。 彼は、眠りの中に戻っていった。 数時間後、その静寂が音を立てて崩れることも知らずに。 ──午前5時46分──。 空気が破れるような轟音とともに、地面が跳ねた。 アスファルトが裂け、建物が潰れ、天井が落ちる。 誰かの悲鳴、遠くで鳴る警報、火花、崩れる瓦。 恵子は、翔太の叫び声で目を覚ました。 「ママっ、こわいっ!!」 佐伯はヘルメットを掴み、無線機を手に怒鳴った。 「全隊員、出動準備急げッ! 震度…いくつだ、これッ!」 慎吾は、地面に投げ出され、瓦礫の山の中で意識を失っていた。 彼のそばには、まだ温かい缶コーヒーが転がっていた。 街は壊れた。 でも、それは始まりにすぎなかった。
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文字数 12,895 最終更新日 2025.07.08 登録日 2025.07.08
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