生成AIブームの中で独り勝ちするエヌビディア、追いすがる「日の丸半導体」 「オムディア」のコンサルティングィレクター・杉山和弘氏に聞く

2024.03.15 Wedge ONLINE

 自社では半導体は作らずに台湾のTSMCに製造を委託。大手IT企業である、グーグル、マイクロソフト、アマゾンなどの企業は、データセンター向けにサーバーにエヌビディアの半導体を多く採用している。

 その理由について杉山氏は「エヌビディアの『H100』と呼ばれるAIチップと同じだけのパフォーマンスを出せる半導体がほかにないためだ。ハードウエアだけなら、インテルやAMDもあるが、エヌビディアのAIチップには『クーダ(CUDA)』というソフトウエアシステムが2010年ごろから付いている。しかも医療、自動車などそれぞれの産業に特化したソフトも提供可能な状況であり、各ユーザーの使い勝手が良い。勝ちパターンができている」と指摘する。

 このため同社のソフトシステムが付いた「H100」のチップは、1個が500万円もする高額で取引されており、高収益を生み出しているという。

「これに対してAMDもソフトの会社を買収するなど対抗しようとしているが、エヌビディアはさらに先に進んでいる。今年中にさらに性能をアップし、電力消費を半分に抑えた『H200』を出すと発表している」と話し、同社のAIチップは引っ張りだこの状況だという。これだけ大量に半導体が使われると電力消費が過大になるだけに消費量を抑えた半導体を量産できるかどうかがポイントになるが、エヌビディアはこの課題も克服して低消費電力のチップの量産を始めようとしている。

ユーザーサイドも独自に半導体作る

 これに対して半導体のユーザーサイドも、「エヌビディアに対抗して独自の半導体を作ろうとする動きが生まれている。メインユーザーである、グーグル、マイクロソフト、アマゾンなどがエヌビディアの半導体を使わなくて済むように自社で設計開発を開始している。なぜなら、エヌビディアの半導体が高額なことと、電力消費の少ないものの開発を迫られているためだ」と指摘する。

 半導体製造の歴史を見ると、数年おきに回路の線幅をより狭くして、一つのチップでより多くの性能を発揮できるように開発されてきた。しかし、現状で最先端の2ナノメートル(1ナノは1億分の1)を超える微細加工は物理的に難しくなってきており、これまでのチップを作るうえでの平面的な設計から、上に積み上げるような3次元のタイプが主流になりつつあり、「チップレット」と呼ばれる積層型のものが多く使われるようになってきている。エヌビディアもこの「チップレット」タイプのAIチップを設計し、TSMCに委託して量産している。

キーボードのないパソコン

「年内に発売するといわれているマイクロソフトの生成AI機能内蔵の高性能パソコン(AIPC)は、拡張性を持ったもので、将来的にはキーボードがなくなる。ボタンが一つあるだけで、あとはしゃべる音声だけですべての動作をしてくれるパソコンが登場し、メタバースの世界にどんどん近づいてくる。今年の夏には新しいChatGPTが登場して、プレゼンテーションとか企画書とかは、人間が要望を出すだけですぐに作ってくれるようになる。その先は、自分のアバターが仮想現実の中で書類を作るようになり、人間は提出されたレポートを見るだけという世界になってくる」と近未来を予測する。

 アップルが自動運転の開発を中止したというニュースには「そういうAIに関する大きな流れの変化を感じたから、開発を中止したのではないか。実用化には時間と費用が掛かる自動運転よりも、アップルが得意とするAI系の分野にフォーカスした方が良いと思う。中止の発表があってからアップルの株価も少し改善し、自動運転の開発がスローダウンしている中で、無理に自動車に投資する必要はないのではないか」と説明する。