【経済成長よりも習近平?】中国経済が持つ4つの問題点とは

2024.04.01 Wedge ONLINE

 2024年3月7日付の英フィナンシャル・タイムズ紙は、中国経済は、成長よりイデオロギーに優先度が与えられ、成長目標を達成するための信頼できる政策が脱落しているとする社説を掲載している。

全人代で、中国経済が習近平のイデオロギーが反映されていることを見せた( Kevin Frayer /gettyimages)

 今週北京で開催されている全国人民代表大会(全人代)での李強首相の初演説は、過去にその国を強く支配していたイデオロギーが再び噴火した印象を与えた。李強首相は、習近平を毛沢東以来の中国最強の指導者であると持ち上げたが、中国政府が経済的障害をどのように克服するかについては、具体的な説明は何もしなかった。 

 李首相は今年の国内総生産(GDP)の上昇目標を「約5%」と設定したが、目標達成のための政策についての説明はなかった。その経済政策の目標としては、技術面での自立や経済面での安全保障などの優先順位が上げられた。このことは、中国政府がもはや経済成長を経済目標の主眼としないことを示している。

 李強首相は、23年の成果は、「新時代の中国の特色ある社会主義」を説く習近平思想の健全な指導のおかげだと強調した。中国の政策目標の主眼は、繁栄の創出ではなくイデオロギーの強化なのだということが認知できる。国際資本は、中国から離れ、日本、インド、東南アジア、その他の市場へ流れ始めている。

 中国政府の昨年の公式発表成長率5.2%に続いて今年は「約5%」の目標を達成するのだという楽観論に根拠があるとは思えなかった。消費者物価は深刻なデフレ現象を示しているのに、同首相の演説には個人消費の上昇を促す具体的経済計画は全く含まれていなかった。昨年の報告書の最優先事項であった内需拡大の目標は、今年は第3位に格下げされ、上位の目標は、「産業システムの近代化」と「質の高い新たな生産能力の開発」という2つの産業政策的目標だった。

 財政分野では積極的政策が一つ発表された。「安全保障の重要分野」に資金を供給するため、中国政府は1兆元(1390億ドル)の特別国債を発行するという。

 中国政府の安全保障重視を示すもう一つの兆候は、李首相が国防費を経済成長の目標率を上回る7.2%増額し、1兆6000億元にすると発表したことに現れている。中国は米国に次いで世界第2位の国防予算を有し、李首相は「外部からの干渉」に反対すると発言していた。

 中国が経済成長よりも安全保障、技術そして自存を進める経済政策を優先することには、現実の危険が伴う。不動産市場の低迷、地方政府の負う多額の債務、デフレの深刻化、若者の高失業率など、この国の脆弱性は経済成長を必要としている。

 しかし、宣言した成長率の目標を達成するための具体策を中国政府が有している証拠はほとんどない。経済がイデオロギーに感染すれば、急激な経済的破綻が発生しかねないという中国自身の歴史からの警告を、中国は教訓として学び取るべきである。

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中国経済の4つの問題点

 中国の経済成長率に関し、12年までは、政府の当初の目標値と事後の実績値には乖離があった。ところが、習近平政権が成立した12年以降は、政府目標値と事後に計測される実績値が「奇妙にも」一致している。

 このことは、実測値の信憑性に疑念を抱かせる。現在の成長率は1%以下ではないかとする中国経済研究者の分析さえある。

 故李克強首相の時代には、国務院は特に経済分野に関しては経済合理性に基づき政策を立案し執行しようとしていたが、一昨年の第20回党大会で習近平総書記が三選され、政治局常務委員がその息のかかった者で占められて以来、党高政低が一層進み、政府の諸活動は党の決定を執行する実行部隊という性格を強めてきている。