〈視点〉イーロン・マスクはなぜ、モディ首相と会談するのか?インドがテスラの投資によって得るものとは?

2024.04.22 Wedge ONLINE

 つまり、インドにとって安全保障の重要な側面の一つは、国内の武装蜂起であり、中国とパキスタンがこれを支援してきたことが問題であった。

 そう考えると、モディ首相が何を狙っているのか、わかる。インド経済を語るとき、人口構成が若いから将来性があるといわれるが、その若い人口に十分な仕事が与えられなければどうなるか、武装蜂起につながるのではないか、常に不安がある。しかも、過去の紛争のデータを見ると、それは根拠のない不安ではない。

 例えば、『文明の衝突』という本を書いたハーバード大学の故サミュエル・ハンチントン教授は、「スリランカでは、シンハリ族の民族主義的な反乱が1970年代に、またタミール族の反乱は1980年代末に最高潮に達したが、これは両集団で15歳から24歳までの「若者の数の膨張」が、その集団の総人口の20パーセントを超えたのと時期を同じくしている」と指摘している(サミュエル・ハンチントン著、鈴木主税訳『文明の衝突』集英社、395ページ)。インドの人口構成を見ると、14~25歳の人口は全体の18%程度。しかし、14歳以下の人口が25%を占めているから、理論だけでいえば、武装蜂起が最高潮になる時期はこれからくることになる。

 そして、一旦、武装蜂起が始まれば、過去と同じように、中国とパキスタンは、これを支援する可能性がある。つまり、インドに大型の投資を呼び込み、若者に仕事を作ることは、インドにとっては安全保障問題なのである。

最新技術を自国で作りたい

 また、中国と争うモディ首相には、もう一つの安全保障の課題がある。技術開発能力の向上である。

 次々と新型兵器を開発するようになった中国に対抗していくには、インドも技術開発能力を高めなければならない。インドの兵器輸入額は、今、世界トップになっているが、兵器を輸入しているだけではだめで、自国で開発しなければならないのである。

 現在のインドの兵器開発は、ようやっと自国製の戦車、艦艇、戦闘機を作れるようになったし、ミサイルに関しては、世界トップレベルになりつつある。だが、全体には、ようやっと追いつき始めた程度で、国産の武器でも、そこに搭載した最新の部品は外国からの輸入である。これで中国と争っていくには、まだまだ不利な勝負である。

 インドは、外国から技術を導入し、自国でつくれるようになりたい。半導体産業なども含め、積極的なハイテク技術の導入も必要となっている。その点でも、マスク氏に会って、投資を促したいのである。

14億人の安定へ、海外投資を促す

 今後、モディ首相は、マスク氏だけでなく、多くの起業家に会い、投資を促すだろう。もともと社会主義だったインドは制度面でも、海外の投資を呼び込むのに改革を必要とする多くの問題を抱えている。

 しかし、14億の人口に、安定した生活を与え、中国とパキスタンの介入に対抗することができるか。それは、インドの政権が抱える、逃げることのできない、重要な安全保障問題といえる(※モディ政権は実際に治安を重視しているものとみられ、現在、治安情勢は改善傾向にある)。

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