社員成長の決め手は、人事が9割

中小企業ほど「人事制度」が人材育成のカギになる

2024.05.22 公式 社員成長の決め手は、人事が9割 第25回

いきなり「研修」から始めてはいけない

人事という部署は、中小企業にはあまりありません。これまで人事担当者すらいなかった会社で、経営者から人事に任命されてしまった。しかも担当は、自分ひとりだけ。そんな“ぼっち人事”に、会社は何を期待しているのでしょうか?

Getty Images

よくあるケースは「教育」です。私は人事コンサルタントという職業柄、さまざまな企業の経営者からご相談をいただく立場にありますが、「社員が成長してくれない」「もっと自分で考えて動けるようになってほしい」という悩みをよく伺います。

「これからは社員教育に力を入れたい。まずは研修をやってほしい」

私自身も以前に在籍していた企業で、そのように指示されたことがあります。社員の成長を促すために研修をする。とても良いことです。世の中にはさまざまな研修会社があり、充実した教育プログラムもたくさんあります。

ですが、いきなり研修から始めてはいけません。多くの会社では、高いお金を払って研修をしても単発で終わってしまうケースがほとんど。効果が持続しません。覚えているのは、宿泊先の食事とお風呂だけ。そんな結果になりがちです。

効果が持続しない原因は、研修の目的が曖昧だから。研修を行う前に必要なのは、社員のキャリアステップと評価基準を明確にすることです。「会社が社員に求めるもの」が曖昧な状態で研修をしても、あまり意味がないのです。

キャリアステップが見えなくなっている企業は、社員の離職率も高くなります。「キャリアステップ」とは、ある職位や職務に必要な業務経験とその順序。何をしたら評価が上がり、昇格できるのか、「評価基準」が不明確な会社も同様です。

この会社にいても、先が見えません

かつて私が在籍していた2つの企業も離職率が高く、若い社員が次々に辞めていってしまった時期がありました。離職の理由は人それぞれでしたが、かなりの割合で共通していたのは「先が見えない」という言葉です。

「この会社も、働いている人たちも、仕事内容も好きですが、先が見えません。このままこの会社で働いていても、自分が成長できるような気がしません」

退職する社員の多くが、そう語るのです。どちらの会社にも共通していたのは、人事制度が整っていなかったため、キャリアステップの具体的なイメージがわきにくいことでした。また、何をしたら評価が上がるのか、昇格できるのか、その基準も曖昧でした。だから将来に不安を感じ、多くの社員が辞めてしまったのでしょう。

キャリアステップと評価基準。これらの重要性を痛感した私たち人事は、「等級制度」「評価制度」「給与制度」といった人事制度を導入し、キャリアステップと評価基準を明確にしました。その結果、どちらの会社も離職率を大幅に下げることに成功しました。

人手不足が深刻化している昨今、社員の離職を防ぐことは人事にとって特に重要な職務の1つになっています。社員の教育・研修も大事ですが、その前に必要なのはキャリアステップと評価基準を明確にすることです。そのためには真っ先に人事制度の導入、あるいは見直しに取り組むことをおすすめします。

Getty Images

ご感想はこちら

プロフィール

西尾 太
西尾 太

人事コンサルタント。フォー・ノーツ株式会社代表取締役社長。「人事の学校」主宰。
1965年、東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。いすゞ自動車労務部門、リクルート人材総合サービス部門を経て、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)にて人事部長、クリーク・アンド・リバー社にて人事・総務部長を歴任。
これまで1万人超の採用面接、昇降格面接、管理職研修、階層別研修、また多数の企業の評価会議、目標設定会議に同席しアドバイスを行う。
汎用的でかつ普遍的な成果を生み出す欠かせない行動としてのコンピテンシーモデル「B-CAV45」と、パーソナリティからコンピテンシーの発揮を予見する「B-CAV test」を開発し、人事制度に活用されるキャリアステップに必要な要素を体系的に展開できる体制を確立。これまで多くの企業で展開されている。また2009年から続く「人事の学校」では、のべ5000人以上の人事担当者育成を行っている。
著書に『人事担当者が知っておきたい、10の基礎的知識。8つの心構え』(労務行政)、『人事の超プロが明かす評価基準』(三笠書房)、『プロの人事力』(労務行政)、『人事の超プロが本音で明かすアフターコロナの年収基準』(アルファポリス)、『超ジョブ型人事革命 自分のジョブディスクリプションを自分で書けない社員はいらない』(日経BP)などがある。

著書

人事はあなたのココを見ている!

人事はあなたのココを見ている!

西尾 太 /
空前のリストラ時代、ビジネスマン人生の明暗を分けるのは、人事の評価である。...
人事の超プロが本音で明かすアフターコロナの年収基準

人事の超プロが本音で明かすアフターコロナの年収基準

西尾 太 /
「頑張っている」はもはや無意味。「成果」こそが揺るぎない価値になるこの時代...
出版をご希望の方へ

公式連載