社員成長の決め手は、人事が9割

中小企業の経営層が知らなきゃマズい「人事」の第一歩

2023.10.25 公式 社員成長の決め手は、人事が9割 第11回

採用を考える前に、まずは「人員計画」を考える

人事の仕事といえば「採用」をイメージする人は多いでしょう。実際、人事担当者の多くも採用への関心が高く、私たちが主催している人事担当者の育成プログラム「人事の学校」でも採用に関する講座は特にたくさんの人が集まります。

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人事を志望する求職者も、ほとんどが「採用をやりたい」という人です。学生のときにいろんな会社でいろんな人事の方と会って話をしますし、内定したらその後のフォローをしてくれるのも人事の人。企業側も採用担当には見栄えが良くて好感度の高い人を置くので、実際に会って「いいなぁ」と、その会社に憧れを持つ人も多いのだと思います。

採用は人事における大事な仕事の1つですが、実はそれ以上に重要な職務があります。それが「人員計画」の策定です。採用の背景には、そもそもこの計画があるのです。

人員計画とは、会社が必要とする人材を確保するための中長期的な視点での計画のこと。人手不足が深刻化する昨今、その重要度はますます増しています。人事部創設を検討している経営者、人事を志望する人、これから人事の職務を任される人は、まずはここから把握していきましょう。

人員計画のプロセスは「定員計画→要員計画→人員計画」

人員計画の策定方法にはいろいろなアプローチがありますが、一般的には「定員計画」「要員計画」「人員計画」、そして「異動計画」「採用計画」と進めていきます。どんな計画を立てるのか、何をするのか、それぞれ順を追って見てみましょう。

① 定員計画
まず考えるべきは人件費予算に基づく「定員計画」です。定員計画とは、経営目標の達成や業務遂行に必要な機能と、それを実行する組織・予算・人件費を決めること。まずは会社全体として「社員数はどうする?」「雇用形態はどうする?」「人件費予算はどれくらい割けるのか」などを考え、各部門別の人件費予算を割り出します。

② 要員計画
各部門の人件費予算が決まったら、「要員計画」をつくります。要員計画とは、定員計画に基づいて組織の構成員の数を決めること。正社員だけでなく、契約社員・アルバイト・パート・業務委託など、各部門にどういう雇用形態の人を何人ずつ置くのかを考えます。ここまでは「人数」の議論です。

③ 人員計画
要員計画の後は、いよいよ「人員計画」です。定員計画や要員計画を含めた総称として「人員計画」と呼ばれることもありますが、この場合の人員計画とは、要員計画に対して実際の人材の配置を決めること。誰をどこに置くか、です。具体的な人物を想定して、メンバーの名前を入れていきます。異動希望や退職予定、育児休業の予定、契約の満了など、個別の事情も考慮することや、それらに対しての対応も必要となります。

④ 異動計画
人員計画を立てたら、欠員・余剰に対してそれぞれどのような手を打つのか、まずは社内異動で対応できるのかを検討します。それでも人が足りない場合に必要となるのが「採用計画」です。また、要員計画より実際の人員数が多ければ、「代謝計画」となります。人員削減を想定することになります。

⑤ 採用計画
採用計画は、要員計画と人員計画の差異を埋める施策です。人員計画を立てた結果、要員計画で決めた配置の人員が埋まらない。社内異動でも対応できない。そういう場合に、外部から採用するのか、派遣社員を採るのかなどを決めていきます。

このようにして人件費予算を決めたうえで、「どの部署にどういう人を入れるのか」「何人必要なのか」といった議論から始まり、人員計画を作った結果、「人が足りない」となった場合に「それは他の部署から異動させられないのか」「派遣や業務委託じゃダメなのか」といった話し合いを踏まえたうえで、最終的に「採用」となるわけです。

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人事担当者になる人は、こうした採用の背景を知っておかなくてはいけません。「いい人が来たから採用しましょう」という簡単な話ではないので、定員計画→要員計画→人員計画→異動計画→採用計画、この一連の流れは極めて重要な職務となります。

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プロフィール

西尾 太
西尾 太

人事コンサルタント。フォー・ノーツ株式会社代表取締役社長。「人事の学校」主宰。
1965年、東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。いすゞ自動車労務部門、リクルート人材総合サービス部門を経て、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)にて人事部長、クリーク・アンド・リバー社にて人事・総務部長を歴任。
これまで1万人超の採用面接、昇降格面接、管理職研修、階層別研修、また多数の企業の評価会議、目標設定会議に同席しアドバイスを行う。
汎用的でかつ普遍的な成果を生み出す欠かせない行動としてのコンピテンシーモデル「B-CAV45」と、パーソナリティからコンピテンシーの発揮を予見する「B-CAV test」を開発し、人事制度に活用されるキャリアステップに必要な要素を体系的に展開できる体制を確立。これまで多くの企業で展開されている。また2009年から続く「人事の学校」では、のべ5000人以上の人事担当者育成を行っている。
著書に『人事担当者が知っておきたい、10の基礎的知識。8つの心構え』(労務行政)、『人事の超プロが明かす評価基準』(三笠書房)、『プロの人事力』(労務行政)、『人事の超プロが本音で明かすアフターコロナの年収基準』(アルファポリス)、『超ジョブ型人事革命 自分のジョブディスクリプションを自分で書けない社員はいらない』(日経BP)などがある。

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