〈野球場からボールパークへ!〉北海道・エスコンフィールドに続く“新たな魅力”へ必要なものとは?アメリカから学ぶ大切な「空間の演出」

2024.05.09 Wedge ONLINE

 日本でも米国でも野球のシーズンが始まり、既にさまざまなドラマが生まれている。日本では、北海道日本ハムファイターズが昨年から本拠地としているエスコンフィールドの集客が好調だ。このエスコンフィールドのように、米国の「ボールパーク」の手法を日本でも取り入れる動きが出てきている。

北海道日本ハムファイターズが本拠地としているエスコンフィールド。米国の「ボールパーク」思想を取り入れている(時事)

 英語で言えば、野球場イコール「ボールパーク」ではあるのだが、野球場の設計において、米国では1990年前後から新たな考え方が導入されてきた。これが、野球界に与えたプラスの効果は顕著であり、この「新しい野球場」の考え方を「ボールパーク」という考え方で、日本でも検討が進むのは良いことだと考える。

 では、この「ボールパーク」の思想とはなにかというと、良く言われるのは、野球に「プラス・アルファ」の魅力を加えたエンタメ性ということだ。例えば、各球場には名物の食べ物がある。

 シカゴならホットドック、フィラデルフィアなら「チーズステーキ」という炒めた肉をはさんだサンドイッチという具合である。特にホットドックというのは、米国の場合に子どもたちが参加するリトルリーグの球場で売っていたり米国の野球文化には欠かせない。

 近年は、大谷翔平選手などの活躍により、アジア系のファンが増えたこと、一般の米国人にも日本の食文化が浸透したことなどから、西海岸を中心に野球場ごとに名物の寿司を売るようになった。さらにハワイ料理である刺し身を使ったポケ丼など、球場の「食」のバリエーションは広がりを見せてきている。

 その他にも、ダイヤモンドバックスの本拠地チェイス・フィールドでは、野球を見ながら入れるプール(高額なスイート席の客専用)があったり、各球場の名物アトラクションがある。球場内に、永久欠番選手を表彰したチームの野球殿堂を作るなどということもよく行われる。

 ビジネスとしてバカにならないのはグッズ販売で、ユニフォーム(ジャージーという)、野球帽をはじめグッズ販売の店舗は球場内の各所に設置されているのが普通である。

米国にドーム球場が減った理由

 けれども「ボールパーク」の概念において、最も重要なのはエンタメ性や食事ではない。そうではなくて、圧倒的な空間の魅力ということだ。これはドーム球場の概念の正反対と言ってもいい。

 米国では1970年代以来、一時期ドーム球場がブームとなった。ヒューストンのアストロドームをはじめ、シアトル、ミネソタなど、各地でドーム球場が建設されて話題となった。全天候型であるから雨天中止がなく、冷暖房が効いていて快適なドーム球場は、先進技術の成果として歓迎されていた。

 だが、90年代からこの考え方は急速に衰えていった。理由としては、もっと自然を、具体的には日光と天然の風を感じたいということがある。

 さらに天井を取り払うことで、圧倒的な開放感があるし、また周辺の自然との調和なども感じられる。その先駆となったのは、ボルチモア・オリオールズの本拠地「カムデン・ヤーズ」である。

 正式には「オリオール・パーク・アット・カムデン・ヤーズ」というこの球場は、左右非対称な設計、隣接するレンガ造りの倉庫との調和など「クラシックなテイスト」のある「都市再生のデザイン」が評価された。そして圧倒的な開放感があることが、観客にも選手たちにも大好評となった。米国に「ボールパーク文化」をもたらしたのは、この球場の成功が契機となっている。

 以降は、シアトルのキングドームが廃止されて、開放感のある可動式屋根を持つTモバイル・パーク(旧称セーフコ・フィールド)になったのが話題となるなど、ドーム球場の廃止が相次いだ。草分け的存在だったアストロドームも廃止されたし、春秋には冷え込むミネソタのメトロドームの後継として建設されたターゲット・フィールドが、屋根のない球場として成功するなど、現在はこのトレンドが主流である。