〈野球場からボールパークへ!〉北海道・エスコンフィールドに続く“新たな魅力”へ必要なものとは?アメリカから学ぶ大切な「空間の演出」

2024.05.09 Wedge ONLINE

 ちなみに、米国人が室内型球場を嫌いになったわけではなく、アメリカン・フットボールの場合は、シーズンが秋から冬ということもあって、プロ、アマともに、最近でもドーム球場が数多く建設されている。もっと言えば、4大スポーツの残り2つ、バスケットボールとアイスホッケーは、いずれも室内競技場が主となっている。

 けれども、やはり野球に関しては開放的な空と風を感じる中で、天然芝のまぶしい色を楽しみながら観戦するというのが、完全に主流になっている。その開放感は何物にも代え難いからだ。

 特に、ゲートから入場して通路をめぐり、自分のシートのある場所を見つけて、スタンドに出た際にパッと空間が広がる感じは何物にも代え難い。その際に、昼ならば青空と陽光、夜ならば眩しい照明に照らされて光る天然芝の緑が目に飛び込んでくるのは感動的だ。

 さらに言えば、野球の「華」というのは何と言ってもホームランだが、豪快な打球が広い空に巨大な円弧を描いていく、その美しさにファンは魅了される。今、大谷翔平選手がホームランを量産することが、全米を興奮させているが、現在の「ボールパーク」の思想、特に美しく広大な空間の設計が、その打球を美しく見せているということも野球の魅力を高めていると思われる。

周辺との“親和性”

 空間の魅力ということでは、立て込んだ市街地に球場を建てるよりも、周囲の空間を大事にするということもある。市街地にある伝統的な球場としては、ボストンのフェンウェイ・パーク、シカゴのリグリー・フィールドなどの例外はあり、歴史の重みから愛されている。けれども、近年建設された人気球場はいずれも周囲の空間との調和が重視されている。

 例えば、フィラデルフィア・フィリーズの本拠、シチズンズ・バンク・パークは、広大な敷地(スポーツコンプレックス)に建っているのが特徴だ。巨大な駐車スペースを確保し、その中に野球場、フットボール球場(イーグルスの本拠)、バスケットボール球場(76サーズの本拠)があり、その空間のスケールが魅力となっている。

 前述したシアトル・マリナーズの本拠、Tモバイル・パークの場合は、隣にフットボールのシーホークスのスタジアムが同じように可動式屋根を備えるデザインで建っている。この2つのスタジアムが並ぶ様子は壮観で、そのスケール感も魅力となっている。

 水辺に建っている球場もある。例えばサンフランシスコ・ジャイアンツの本拠地、オラクル・パークは、サンフランシスコ湾の海岸に建っており、ライト方向の外野スタンドが少ないことから簡単にホームランボールが海に落ちるようになっている。また、ピッツバーグ・パイレーツのPNCパークも、3つの川の交わる水辺にあり、夏場でも独特の清涼感を演出できている。

 ニューヨーク・ヤンキースの場合は、2009年から新築の新球場に移転したが、隣接している旧球場の跡地にはリトルリーグなどの子供用の球場が建設されており、全体が広大な野球の公園となっている。これぞ、まさにボールパークというわけである。

日本はどう取り入れるべきか

 日本の場合だが、球場別の食文化だとか、グッズ販売ということでは米国に全く引けを取らないエンタメ性を確保していると思われる。問題は空間の見せ方だ。

 例えば、広島東洋カープの本拠「マツダスタジアム」は最新の米国の球場デザインを良く研究して美しく設計されている。だが、残念ながら敷地が大きくないので、球場全体の開放感にはどうしても限界がある。

 カープ球団の場合は、広島県だけでなく隣接する中四国各県へのマーケティングも熱心に行っており、次の黄金期には改めて猛烈な集客を実現する可能性は十分にある。それまでに何らかの拡張工事を行い、空間の見せ方をもう一段スケールアップできれば、素晴らしい球場になるであろう。