健康寿命を延ばす「無理しない思考法」

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一人で作る料理が面白くない

私の患者さんで奥さんが先に亡くなって、80歳を過ぎて初めて台所に立ったという人がいます。
この方の世代では、料理は奥さんに任せっぱなしで自分は食べるだけ、という人も少なくないようです。

私の10年先輩の医者も似たような感じでしたが、「さすがに最近は皿だけは洗うようになったよ」と漏らしていました。
男性が台所に立って料理を作るのは普通のことになってきましたが、75歳以上の団塊世代では、料理を作ったことがないという人も多いようです。

しかし、いまや長寿の時代。これまで自分では料理をせず、家事のすべてを任せてきた人であっても、台所に立って料理を作らねばいけないときが必ずやってくるでしょう。決して他人ごとではなのです。

とにかく食べられればいいのか

とにかく食べられればいいというレベルなら、コンビニがあります。コンビニの冷凍食品を買ってきてレンジでチンするだけで、それなりにおいしく食べられるのです。
やはり、これだけでは料理とは言えないでしょうが、空腹を満たすことだけが目的であれば、それで済んでしまうかもしれません。

しかし、もう少しレベルを上げることもできます。料理を作れば、それ自体が楽しみになり、脳にもいい刺激になるのです。
何事もそうですが、「まあ適当でいい」という発想では楽しくなることもなければ、脳への刺激にもなりません。
「ただ食べられればいい」という考えで毎日の食事をとっていては、食事は空腹を満たすだけの、味気ないものになってしまいます。

作りだす喜びと面白さを

とはいえ、一人で食べるために、わざわざ料理をしても面白くもなんともないと思うかもしれません。

実際のところ確かにその通りなのですが、料理をすること自体に創造性が加わってくれば、料理の時間は意外に楽しい創作の時間になってきます。

私自身、結構料理を作ります。といっても、手の込んだものはよほどでないと作りませんが。
ちなみに、料理を作るようになったきっかけは、ロブションのジャガイモのピュレ。あの有名なフレンチの巨匠ジョエル・ロブションの名を高めた料理です。じつはこの料理、それほど難しくはありません。

材料は、ジャガイモ、バター、塩、牛乳といたってシンプル。
それらをロブションのレシピに従って作っていくと、1時間以上はかかってしまいますが、バター、塩の絶妙な配合により、ただのマッシュポテトが、一流のフレンチの味になるのです。
なお、ロブションもこのレシピを完成させるまでに、非常に苦労したようです。

簡単な素材だけでここまでの味を出せるのかと思うと驚くばかりですが、ここに料理の原点があるように感じます。
つまり、素材は素朴であっても、創作の努力によってまったく違う世界が見えてくるというわけです。それこそが、料理の面白さであり、醍醐味です。

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プロフィール

米山公啓
米山公啓

1952年、山梨県生まれ。聖マリアンナ大学医学部卒業、医学博士。専門は脳神経内科。超音波を使った脳血流量の測定や、血圧変動からみた自律神経機能の評価などを研究。老人医療・認知症問題にも取り組む。聖マリアンナ医科大学第2内科助教授を1998年2月に退職後、執筆開始。現在も週に4日、東京都あきる野市にある米山医院で診療を続けているものの、年間10冊以上のペースで医療エッセイ、医学ミステリー、医学実用書、時代小説などを書き続け、現在までに300冊以上を上梓している。最新刊は『脳が老化した人に見えている世界』(アスコム)。
主なテレビ出演は「クローズアップ現代」「世界で一番受けたい授業」など。
世界中の大型客船に乗って、クルーズの取材を20年以上続けている。
NPO日本サプリメント評議会代表理事。推理作家協会会員。

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