春は、企業が新入社員を迎え、学生が就職活動を始める季節だ。
しかし、この時期になると毎年のように耳にするのが、「最近の学生は主体性がない」「優秀な人材が採れない」といった“学生側の問題”を指摘する声である。
だが、実際に現場を見てきた立場から言えば、学生の質はむしろ上がっている。
問題は学生ではない。
企業側の“判断力の空洞化”が深刻になっているのだ。
いま、多くの企業の採用プロセスはこうなっている。
つまり、採用の中核が外部委託化しすぎて、企業の中に“人を見る力”が蓄積されない構造になっている。
KPMGの調査※では、日本企業の60%が人事を「価値創造部門ではなく管理部門」と見なしている。世界平均46%を大きく上回る数字だ。
採用が“事務処理”になり、「どんな人を採りたいのか」という根本的な問いが曖昧なまま、外部サービスに依存してしまっている。
※「Future of HR 2020 - 岐路に立つ日本の人事部門、変革に向けた一手」
日本企業のもう一つの問題は、若手に本物の仕事を任せない文化である。
イノベーションが生まれる組織には共通点がある。若手に権限を与え、責任ある仕事を任せる文化があることだ。象徴的なのが、ソニーのウォークマンの話だ。
発表当初売れ行きが伸び悩んでいた時期、状況を変えたのは丸井の20代の若手バイヤーだという逸話がある(急成長していた駅の近くにある丸井は若手起用を進めて老舗百貨店との差別化をしていた)。
一挙に1万台の発注。 この大胆な判断が、ウォークマンを社会現象に押し上げた。若手の判断が市場を動かした典型例である。
しかし、いまの日本企業ではどうか。
これでは、判断力が育つはずがない。
就活の季節になると、
「学生が何を考えているかわからない」
「主体性がない」
といった声が上がる。
しかし、実際に学生と接していると、彼らは驚くほど勉強しており、情報感度も高い。
問題は学生ではない。企業側が“人を見る力”を失っているのだ。
特に最後の点は深刻だ。
環境が激変する中で、企業を変えられる人材を採るべきなのに、面接にあたって会社情報を丁寧に読んでいる、つまり“会社に合わせてくれそうな人”を選んでしまう。
これでは、優秀な若者は外資やベンチャー、起業に流れる。
AIが進化するほど、人間にしかできない仕事の価値が上がる。
これらはすべて、人間にしかできない。そして、これらを担うのが人事であり、企業の“人を見る力”である。
春の就活シーズンにあたり、企業が取り戻すべきは、AIでもDXでもなく、「人を見る力」そのものだ。
企業が取り戻すべき力は次の3つだ。
① 採用を“外注”から“戦略”に戻す
SPIやナビは補助であり、判断の中心ではない。企業自身が「どんな人を採りたいか」を言語化する必要がある。
② 若手に本物の仕事を任せる
判断力は、現場でしか育たない。若手に権限を与える文化を取り戻すべきだ。
③ 越境経験を評価する
異分野の経験、アートやスポーツに没頭した時間、成績には表れない個性──。こうした“文脈の違い”こそが、AI時代の判断力の源泉になる。
AIが進化するほど、人間にしかできない仕事の価値が上がる。
これらはすべて、人間にしかできない。そして、これらを担うのが人事であり、企業の“人を見る力”である。
春の就活シーズンにあたり、企業が取り戻すべきは、AIでもDXでもなく、「人を見る力」そのものだ。