ハンガリー総選挙の結果が国際社会への影響が大きい理由、欧州“小国”が持つ外交的影響力、ロシアが持つ不安の正体

2026.04.30 Wedge ONLINE

 このように小国が影響力を発揮している理由一つは、NATOの決定がコンセンサスによること、また、EUの決定のうち外交・安全保障等の重要事項に関係する問題が全会一致を必要とするという両組織の手続きが関係している。しかしながら、より重要なことは、ウクライナ戦争を契機にして、戦場に近い「前線国家」の北欧や中東欧諸国にとって、自らの国の運命や国益を欧州の主要国である英独仏伊や域外大国の米国の思惑に唯々諾々と委ねるわけにはいかないという問題意識がある。

オルバン政権からマジャル政権への移行

 オルバン政権は、内政においては、反リベラリズム、移民反対、キリスト教的伝統の維持、反EU官僚組織を標榜し、外交的には、ロシア産エネルギー依存を背景に親露姿勢をとるとともに、イデオロギー的に近い米国トランプ政権とも良好な関係を維持してきた。その結果、欧州による対露制裁やウクライナ支援を妨害してきたことはよく知られている。特に、ウクライナに対する900億ユーロのEU融資の実施を25年秋以来妨害してきたことは、ウクライナの26~27年の財政、ひいては継戦能力自体に深刻な事態をもたらしかねなかった。

 また、ロシアとの関係では、EU内での対露制裁等に関する議論をロシア側に漏洩していた疑いがメディアで大々的に報じられ、シーヤールトー外相が批判の矢面に立たされている。選挙戦最終盤には、米国のヴァンス副大統領がオルバン政権をあからさまに応援する為にハンガリーを訪問した。

 このような親プーチン・親トランプの姿勢が欧州内でのハンガリーの深刻な孤立を招き、ハンガリー自体の安全保障を損なっていることや長期政権の下で深刻な経済停滞、縁故主義、汚職・腐敗を招いた。それが国民の大きな反発を生み、「ロシアかEUか」の選択を迫る野党の巧みな選挙戦術も相まって、歴史的な敗北に繋がった。

 次期首相のマジャル氏がEUとの関係改善、対ウクライナ融資に対する反対取り下げ等の政策変更の明確に打ち出していることを受けて、退陣前のオルバン政権は、ウクライナ支援と対ロ制裁に対する方針を早々と変更して、4月23日にEUは、900億ユーロの対ウクライナ融資およびロシアに対する第20次制裁を決定した。筆者の友人でEU事務局における外交政策の責任者は、総選挙におけるオルバン政権の敗北の結果、EU内の雰囲気が一変して、皆喜びを隠しきれないと述懐している。

 ウクライナ政府は、マジャル次期政権下のハンガリーとの関係改善に大きな期待を寄せている。ただし、マジャル氏は、ウクライナ国内のハンガリー系少数民族の地位改善を強く要求しており、この問題がウクライナのEU加盟条件の一部であることからウクライナ側の対応が求められている。

 ロシアにとって親露派のオルバン政権を失ったことは大きな打撃である。マジャル氏の非友好的な姿勢、特に、オルバン政権下でハンガリーに不利な融資条件で無理に進められていた露ロスアトム社による原子力発電所の拡張工事の見直しに対して警戒心を示している。

周辺国への影響

 ハンガリー総選挙の一週間後の4月19日に実施されたブルガリア総選挙では、親露派と目されるラデフ前大統領の率いる野党が逆に勝利したが、EU事務局内の筆者の友人は、「ラデフはオルバンではなく、ブルガリアもハンガリーとは違う」とあまり心配していない。

 来年には、親露派のフィツォ首相のスロバキアにおいても総選挙が実施される。また、ルーマニアにおいても親EUの現連立政権内で分裂が起きており、早期の選挙が取り沙汰されている。

 ハンガリー総選挙に加え、ブルガリアやルーマニアの選挙に対する日本での関心は低いように見える。我が国の外交、メディア、経済界に今後求められるのは、欧州の主要国やEUの動向だけではなくて、存在感と影響力を増している北欧や中東欧諸国への関心と関係の強化である。

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