プーチンもトランプも戦争を始めたものの、当初の予想と違って勝つことが出来ず、今や両者とも戦争から抜け出そうともがいているが、進展は見られないと、元スウェーデン首相のカール・ビルトが2026年5月18日付Project Syndicateで論じている。
二人の高齢の指導者が自ら引き起こした戦争から抜け出そうともがいているが、うまく行っていない。22年にウクライナ侵略を始めた時、プーチンは数日でキーウの政府を倒し、勝利を宣言するつもりだった。だからこそそれは「戦争」ではなく、「特別軍事作戦」だった。同様に、トランプもイランに攻撃を仕掛けた時は数日でテヘランの政府を倒し、勝利を収めるつもりだった。
両者とも通常の政策立案過程は経ず、ましてや起こり得る種々の結果や二次的影響など考慮せずに開戦を決めている。コロナ禍の時、プーチンは隔離された場所で旧ロシア帝国の歴史書を読み漁り、時が来ると、ロシア安全保障会議で「特別軍事作戦」を強行に承認させた。同様に、トランプもベネズエラで軍事的勝利を収め、さらにイスラエルのネタニヤフ首相からイランは圧力をかければ崩壊すると聞かされると、イランに対して戦争を始めた。
そして今両指導者は自ら作り出した混乱から抜けだす道を見出せないまま行き詰っている。ウクライナではゼレンスキー大統領が自国防衛を指揮し、4年にわたってロシア軍の侵攻を限定的なものに抑えてきた。一方、イランも最高指導者を失い、通常戦力を大きく損傷されながらも政府は存続し、ウクライナと同様にドローン技術を駆使してホルムズ海峡を事実上支配することに成功している。
ウクライナもイランも降伏は考えていないため、プーチンもトランプも当初の戦争目的を後退させ始めている。プーチンはウクライナを征服できないと表立って認めるわけには行かないものの、軍事力で獲得できなかったドネツク地方の一部を得られるような政治的解決を切望している。またトランプもイランを抹殺すると脅してはいるが、ホルムズ海峡を再開させ、18年に自ら離脱した核合意と類似の取決めを許すような政治的解決を切望している。
ロシアはイラン型の攻撃用ドローンを大量に製造しているが、ウクライナの方が上手で、そのドローンは防衛線を維持するだけでなく、ロシア領の奥深くにあるエネルギーインフラや軍事施設も攻撃している。今やウクライナは軍事的ニーズの半分は自前で生産している。
他方、ロシアは経済的に中国への依存を深め、砲弾や前線に送る兵士の調達も北朝鮮に頼っている。もちろん米国とイスラエルは軍事力でイランを圧倒し、両国はイラン領内のどこでも爆撃して廃墟にすることができる。しかし地上軍を送り込まない限り、軍事的優位は政治的成功につながらない。
戦争は始めるのは容易だが、終わらせるのは至難の業だという格言は正に真実だ。いずれかの時点で失敗した戦争はそれぞれの指導者の政権を変えることになろう。
1905年の日露戦争での敗北、そしてアフガニスタンでのソ連の敗北のように、ロシアでは失敗した戦争は政治的変革につながった。プーチンの政治的遺産もウクライナでの失敗によって規定されることになるだろう。他方、トランプは政権転覆を目指す戦争はしないと約束したが、米軍は全能だと思い込んでしまい、その代償を今米国の消費者が支払いつつある。
プーチンとトランプは、ノルウェーのノーベル平和賞選考委員会が余計な雑音なしに受賞者を選考できるようにはしてくれた。プーチンは元々対象外だったが、トランプはそうであったとしてももはや二度と選考の対象にはならないだろう。