米国のトランプ大統領がイスラエルのネタニヤフ首相を6月1日の電話会談で口を極めて罵倒した。「2人の蜜月関係の終わりの始まり」というのが大方の見方だが、あらためてトランプ氏の身勝手さも浮き彫りに。
首相は大統領の怒りを受けてレバノンの武装組織ヒズボラ攻撃を停止したが、国内では「米国の家来」などとの非難が続出。今秋の総選挙を前に窮地に追い込まれた格好だ。
それにしてもトランプ大統領の首相に対する物言いは相当ひどかったようだ。米ニュースサイト、アクシオスなどが伝えるところによると、大統領は首相を「ファッキング・クレージー(完全に狂っている)」「何てことしやがるんだ」などと罵倒し、一方的に怒鳴りまくった。
大統領はさらに「私がいなければ、お前は刑務所に入っていた。私が救ったんだ」「いまや皆がお前を憎んでいる。このせいで皆がイスラエルのことも憎んでいる」と言い募った。
首相は確かに汚職などで起訴された刑事被告人だが、一国の指導者を相手にここまで傍若無人ぶりの振る舞いを見せるのは常軌を逸している。自分の方が地位も名誉も上だとの驕りが見える。
大統領が我を忘れて怒り心頭に発したのは首相が命じたレバノンの首都ベイルートのヒズボラ拠点への空爆だ。イラン戦争の終戦協議ではイラン側がレバノンを含むすべての戦線での戦闘停止を要求しており、交渉は佳境に入っている。イスラエルのレバノン攻撃のエスカレートが土壇場の協議をつぶそうとする試みだ、と大統領が感じたためだろう。
イスラエルにとってヒズボラとの戦闘は国家の安全保障の要で、イラン戦争の協議とは切り離したいところ。だが、トランプ氏がイランとの終戦協議を始め、ネタニヤフ氏には不満がたまっていた。
一方のトランプ大統領が望んでいるのは早期決着。最近の米テレビとのインタビューでは「戦争が終わろうがどうでもいい」と述べ、イラン側の抵抗にうんざりした感想を漏らしていた。
米国では、戦争でガソリンの高騰が続き、与党共和党からも戦争に反対する声が強まり、トランプ氏のイライラは高まる一方。イラン側のしぶとい粘りに「投げ出したいのが本音」(米専門家)。飽きっぽい同氏は面倒なイランよりも国民の支持がより高いキューバの政府転覆などに関心を移しつつある。
米専門家によると、トランプ氏は「イランの最高指導者ハメネイ師を殺害すれば、政府転覆できる」というネタニヤフ首相の甘言に乗ってイランを攻撃したことに後悔し始め、4月ごろから首相に対する不満を一段と強めていたようだ。中東の戦争には関与しないと言ってきたのに、まんまと誘い込まれたとホゾをかんだ。
元々ギクシャクしていた2人の仲は「戦争がうまくいかなくなって悪化するのは目に見えていた」(同専門家)。トランプ大統領の周囲では最近、不愉快なことが相次いだ。建国250周年記念コンサートに出演を予定されたアーティストたちが次々に辞退、大統領は「三流の歌手のくせに恥を知れ」などと激怒していた。
著名なワシントンの複合文化施設の名称を「ケネディ・センター」から「トランプ・ケネディ・センター」に改称したものの、連邦地裁からトランプ大統領の名前を削除するよう命令を受けた。同施設の理事長を務める大統領はこの件でも「恥を知れ」と判事を非難した。
大統領は一連の悪い出来事と思い通りにいかないイラン戦争を一緒くたにし、「自分を引きずり込んだ首相」を“逆恨み”、怒りをぶつけたということだったのではないか。それだけ大統領の焦燥感が深いということだろう。ルビオ国務長官が議会証言で首相のガザ占領政策を批判したのもこうした空気を反映したものだろう。