何より94年の大会との大きなもう一つの大きな違いは、今回がダイナミックプライシングの導入など、利益を極大化することを徹底させた大会であるという点である。極めて少ない数しか用意されていない最安カテゴリーのチケットでもおよそ1万円、高いチケットでは80万円以上するものもあるという。
国際サッカー連盟(FIFA)自体が転売における上限を設定していないため、決勝戦では、高いものでは1億円を超えているチケットもある。ちなみに前回のカタール大会では決勝の一番高いチケットでも30万円を下回っていたという。
今回は、企業の接待用のバックスタンドの個室スイートや豪華な飲食がセットになったパッケージも各種用意されており、それには1000万円を超すものもある。あまりの高値と不透明な販売方法に、ニューヨーク州の司法当局が調査に乗り出す事態となっている。
利益極大化が最も明確に表れているのが障がい者に対する対応である。前回のカタール大会では、障がい者のチケットは1500円ほどで、介助者は無料であった。今回の障がい者のチケットは、カタール大会の約38倍の値段で、介助者も有料となっている。
しかも、障がい者と介助者の席が隣かどうかは保証されない。また駐車場も一般車両と同等の高額で販売されている。これらは人権団体が国連に通報する事態にまで発展している。
これらの障がい者対応は、一義的にはFIFAの責任であり、「FIFA平和賞」を創設し、第一回としてトランプに授与するなどの姿勢と相まって、インファンティーノ会長への批判も高まっている。40億ドルのビジネスを壊されないためには、スポーツマンシップも、人権に対する配慮も、政治的中立も、サポーターへの配慮も捨て去ったというのである。
このようなビジネス最優先の大会が、米国で開催されるというのは偶然ではない。ある種の公共財であったスポーツの国際大会を、巨大ビジネスへと変貌させたのは、ほかならぬ84年のロサンゼルス・オリンピックであった。
その立役者であったピーター・ユベロスの手法に、同時代にニューヨークで大規模な商業ビジネスを展開していたトランプが注目していたことは想像に難くない。同時期にトランプは、新興プロフットボールリーグUSFLのチームを買収し、巨額の資金と派手なマーケティングで既存のNFLに挑んでいたのである。この事業自体は失敗に終わるが、ここからトランプは、メディアを巻き込んだ宣伝手法を習得し、また、政治を絡めることの重要性を学んだとされる。
トランプにとってさらに都合の良いことに、28年にはロサンゼルスでオリンピックが開催されることが決定している。ユベロスが84年に成功させたオリンピックをそれ以上の成功したビックビジネスに導くチャンスが巡って来ているのである。
トランプはこのチャンスに並々ならぬ関心を示しており、LA28組織委員会には、トランプの大口献金者や元政権幹部が名を連ねている。トランプは28年大会準備のためのタスクフォース立ち上げの大統領令に署名し、組織委員会は84年大会のメダルセットをトランプに送るなどしている。
12日にロサンゼルスで行われた米国戦の初戦において、ICEが表立ってスタジアム周辺に展開するということはなかった。14日にトランプが80歳の誕生日を迎えるという慶事による恩赦的な配慮かもしれないし、米国が早々と敗退して、トランプ政権が好ましくない移民の送出国と目している中南米やアフリカなどの国同士の対戦などになれば、そこにICEを投入する心づもりかもしれない。
様々な不安はあるが、戦争や物価高による生活苦のことなどを忘れて人々が熱狂することができるのがスポーツである。それは国の指導者にとっては都合の良いものともなる。
トランプは、この熱狂の中、建国250年の祝祭を経て、中間選挙を乗り切り、28年のオリンピックを迎えるのだろうか。今の米国は、国家の団結を深めるはずのスポーツの国際大会が、分断をさらに深めていることもまた事実である。