UAEはもともと20年8月に、イスラエルとの関係正常化合意を結んでおり、サウジアラビアとは一線を画す行動を取っていた。そのUAEはイラン戦争において、イランからの3000回以上の攻撃にさらされ、サウジアラビアを筆頭とする周辺諸国がUAEの(イランへの)反撃を支援してくれることを期待した。しかし、周辺諸国は戦火の拡大を望まず、UAEは独力で自国の安全保障を確保する方向に舵を切った。UAEのOPECからの脱退は、その一環としての行動である。
OPECでは長年にわたり、サウジアラビアのリーダーシップのもとに生産量を低く抑え、原油価格の下落を防ぐ政策がとられてきた。これにUAEは不満を有しており、「自国ファースト」の安全保障政策の追求を余儀なくされる中でOPEC脱退に踏み切った。UAEには脱炭素時代に入り石油が座礁資産となる前に、可能な限りこの資源を有効活用したい考えがあり、日本にもすでに輸入の増加を持ちかけている。
イラン戦争はまた、米国とイスラエルの間にも隙間風を生じさせた。ホルムズ海峡封鎖の長期化は、米国内のエネルギー価格の上昇につながり、中間選挙を控えるトランプ政権には不利である。そうであるにもかかわらず、米・イラン間の覚書の前提であるレバノンにおける停戦をイスラエルが尊重しないことに、トランプ大統領はいら立ちを示した。
米国とイスラエルの関係は簡単に揺らぐものではないとはいえ、米国がイスラエルと距離を置くような行動が、今後の中東秩序に与える影響が注目される。
今回のイラン戦争が日本に与えた教訓は、第一に、エネルギーを輸入に頼る日本は調達源の多様化という原則を忘れるべきでない点である。25年の時点において、日本は原油の95%近くを中東から輸入していた。ここまで高い中東依存度は、中東原油の生産コストの低さに加え、日本の製油所の設計が中東原油に最適化されていることなどに起因しており、つまり経済合理性を追求した結果であった。
しかし、リスク分散という観点から日本は中東以外からのエネルギーの調達を推進しつつ、原子力や再エネなど、エネルギー源の多様化も進めていくべきである。
一方で、中東諸国との良好な関係を維持していくことも極めて重要である。中東依存度の低下は欠かせないが、中東への依存をゼロにするわけにもいかない。長期的な中東地域の安定化にも貢献し得る、湾岸産油・産ガス国のパートナーとして、存在感を高めていく必要がある。
そこで、今日本が取り組むべきこととしてはまず、今回の戦争で損傷した湾岸諸国の「インフラの再建」への協力が挙げられる。
4月中旬に日本政府が発表した「アジア・エネルギー・資源供給力強靱化パートナーシップ(通称パワー・アジア)」構想においては、中東産油国の生産力回復のための原油施設などへの支援も盛り込まれ、産油諸国にも歓迎された。日本は同じ枠組みを活用し、湾岸産油国の原油を東南アジア諸国で備蓄するといった、第三国における産油国共同備蓄体制の確立を支援することもできる。
さらに、湾岸産油国は今後ホルムズ海峡を迂回する輸出ルートを開拓していく見込みだが、日本としてはそれらのインフラの建設や防御という面においても、支援を実施することができる。
日本は長年にわたり、脱炭素時代の到来を見据え、水素・アンモニア製造とサプライチェーンの構築などの分野において、湾岸諸国のエネルギー・トランジションも支援してきた。日本としてはその過程で積み上げてきた湾岸諸国との信頼関係に基づき、それらの支援を今後とも続けていくことが重要である。
湾岸諸国は今後、戦争からの復興と並行し、各国が掲げる「ビジョン」の通り、経済多角化の試みを続けていくと考えられる。湾岸諸国が様々なインフラや脱炭素をめぐる高い技術力に信頼を寄せる日本には、今後とも多岐にわたる分野において、湾岸諸国との協力を深める余地がある。湾岸諸国はAIやデータセンター事業にも力を入れたい意向であり、AIや自動運転を活用する日本のスマートシティー構想にも関心を有している。また、若い世代を中心に、日本のエンタメ産業にも熱い視線が注がれている。
イラン戦争を経た中東は、まだ新たな秩序を構築する途上にあり、極めて不安定な状況が続く。エネルギーを輸入に頼る日本にとって、中東の資源国との関係は今後とも不可欠かつ重要だが、彼らを単なる「資源供給国」と捉えてはならない。相手の「記憶に残る」支援を模索し、双方に利する経済関係を拡大させていく必要がある。