8月7日、トルコのエルドアン、サウジアラビアのムハンマド、パキスタンのシャリフがサウジアラビアのメッカで共同防衛協定に署名した。協定は、何れかの国への攻撃は「三カ国すべてへの攻撃とみなす」という同盟条約であるという(テキスト未公表)。
中東の大国の新たな同盟が今後如何に作動していくかを見る必要はあるものの、その象徴的かつ潜在的意味合いは、極めて大きい。それは中東にとり地殻変動的でさえある。
米国の信頼性が益々疑われる中で、中長期的に見れば、中東の安定にとって悪いことではないと思われる。中東の安定のために地域大国間の均衡が今後一層重要になるとすれば、それに資するだろう。
フィナンシャル・タイムズ紙の8月17日付け社説は、中東の断層線が変化しており、イラン戦争は米国やイスラエルが予想していなかった形で地域の同盟関係を再編している、と述べている。
この社説は、メッカ協定署名につき、①「現時点でこの協定が持つ意義は、むしろその象徴性にある」、②「対立する二つの「枢軸」が形成されたと語るには、時期尚早だ。しかし、メッカ協定は、中東の断層線が変化していることを浮き彫りにする。イランの脅威がその中心にある一方で、この三か国は同協定をイスラエルに対する潜在的な対抗勢力とみなすだろう」、③メッカ協定とは別の陣営が、アブラハム合意(その代表格がイスラエルとの関係を深めるアラブ首長国連邦〈UAE〉)である、④トランプとネタニヤフが「イランとの戦争によって地域諸国がイスラエルに接近し、アブラハム合意の拡大への道が開かれると考えていたのであれば、彼らは失望する可能性が高い」、「それは彼らの意図や予想ではない形で進むことになるだろう」と言う。
メッカ協定は、トルコがここ1年余主導してきたようだ。エジプトを含め4カ国外相が協議を重ねていた。エルドアンらしい構想だ。
これまで、なかなか中東の中心に入ることができない微妙な扱いをアラブの国から受けていたトルコは、これで名実共に中東での中心的なプレーヤーになれたことに満足しているだろう。トルコ外相フィダンは、エジプトはいずれ協定に参加する、と自信ありげに述べている。
今回、エジプトはなぜ参加しなかったのか。トルコなどとの協議には6月21日にカイロで4カ国外相会合を開催するなど積極的に参加していたにもかかわらず、8月7日には署名しなかった。
今も13億ドルの軍事援助を受ける米国に気兼ねしたのか。あるいはパレスチナ問題で緊密な関係を有するイスラエル、さらには経済的支援国のUAEとの関係を慮ったのか。エジプト政府は協定への参加を「真剣に検討中」と説明している。
サウジアラビアは、米国、イスラエルに対し確固とした立場を示したように見える。パレスチナの大義を重視するサルマン国王の意志に従ったのであろうか。
ムハンマド皇太子は、二国家解決がない限りアブラハム合意に与しないとの立場を堅持した。アラブでのサウジアラビアの立場は強化されるだろう。
イスラム国で唯一の核を持つパキスタンの対中東関与の野望は広がる。それを睨んでか、近年インドはイスラエルやUAEとの関係を緊密化させていた。
イランは反発している。なお、メッカ協定には、今後エジプト、カタール、アゼルバイジャン、ヨルダン、シリアが参加するとの見方もある。
メッカ協定の展開は、トランプとネタニヤフにとり想定外だったに違いない。10月27日のイスラエルの選挙にも影響するのではないか。
特にネタニヤフは、戦後の中東秩序の柱である領土と平和の交換、パレスチナ二国家解決の追及という中東和平の主要パラダイムを破壊してしまった(23年7月のハマスの奇襲は弁護できないが)。今や、パレスチナ問題の解決の方向性さえ、見通せない。イスラエルは安全保障のために、永遠の戦いをするつもりなのか。