アメリカとの全面的〝貿易戦争〟はカナダにとって危険な賭けに…勝ち目のない「報復の連鎖」を避けるべきこれだけの理由

2026.09.18 Wedge ONLINE

 今回、相互に関税を引き下げる合意が妥結寸前まで行ったにも関わらず、なぜ決裂したのか良く理解できないが、カーニーの言い分では、交渉の最後の段階で、米側がトラックについての関税引き下げを撤回したことに加えて、他国との貿易協定の締結を制限し、また、ケベックのフランス語優遇政策の是正を求めたことを主権に関わることとして到底受け入れられないとして拒否したという。

 他方、8月26日、米通商代表部(USTR)のグリア代表は記者会見で、第三国との貿易協定を制限する条項は存在せず、また、フランス語等に関する文化的措置は米国側の重要な交渉条件ではなかったと述べたが、いずれにせよ交渉のチャネルはもはや存在しないとして、問題が長期化する可能性を示唆した。

 トランプが追加的な措置を来年1月から実施するとしたのは、またそれまでに何らかのディールを期待してのことだろう。その狙いが、カナダとの貿易赤字の解消や米国産業の保護にあるのであれば、それも可能であろうが、カナダを屈服させ政治、経済面でカナダを従属的な地位に固定しようという地政学的意図が優先するのであれば、カナダ側は到底受け入れることができないであろう。しかし、トランプのことだから、何か綿密な計画がある訳ではなく、ディール思考と地政学的野心とが入り交ざり、その時々の状況でいずれかが優先されるので、予測は困難だ。

合理的な判断はできるのか

 カーニーの毅然とした対応はカナダ国民の支持を得ており、米国のカナダ産品に対する当面の50%関税の対象は、米国への輸出全体の5%程度なので、その影響はある程度限定的であろう。しかし、今後生じるカナダ経済と国民生活に及ぼす影響次第では、国民の支持も変化する可能性もあろう。

 特に、トランプが来年1月1日から自動車等に追加の50%関税を課すとの脅しを実施する場合には、カナダ経済に対する影響は深刻なものとなり、米国への輸出を目的にカナダで生産している日系自動車企業にも重大な影響が生ずることになる。米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)は形骸化し、北米全体の競争力が損なわれる。

 自動車産業分野で構築されている二国間のサプライチェーンは米加双方の企業にとって極めて重要な利益をもたらしており、また、国境貿易やエネルギー分野における相互依存も相互の利益となっているので、合理的な判断ができれば、米側もカナダとの全面的な貿易戦争を回避したいはずである。関税措置の影響や世論の反応を見つつ交渉再開の糸口を探る状況となる可能性は十分にあると期待したい。

 カーニーは、米国の中間選挙に向けていわゆるスウィング・ステートを意識した対抗策を取っており、この社説もそれがある程度の効果を持つことを期待しているようであるが、トランプが反発して逆効果ともなりかねない。やはり、トランプのやり方の米国経済に与えるマイナスの影響についての米国民の不満が高まり、中間選挙全体で共和党に不利に働くというような認識が生まれることが望ましい。

 社説の指摘の通り、カーニーとしては、事態の更なる悪化を回避するためにも交渉の再開を模索しつつ、カナダ国民に忍耐を求め、米国への経済的依存を少しでも減らすための時間を稼ぐという選択しかないのかもしれない。

 

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