09年に温家宝が退けたG2を、中国は今回、拒まなかった。中国外交部報道官は「大国としての責任を共に担うことができる」と応じている。
そして26年5月のトランプ大統領の訪中では「建設的戦略安定関係」が合意された。今回、習近平国家主席の訪米で「尊重、公平、対等に基づく建設的戦略安定関係」へとたどりついた。12年に提唱された新型大国関係が14年の時を経てついに米中間で合意されたかに見える。
では、中国は最後の一押しをどうやって手に入れたのか。
「米中は世界反ファシズム戦争をともに戦った盟友である」
これはもともと中国自身が掲げてきた物語だ。
15年の抗日戦争勝利70周年の閲兵式で、習近平は中国が「世界反ファシズム戦争の東方主戦場」だったと強調した。日本から見れば「抗日」の式典だが、中国が打ち出したかったのは、日独伊のファシズム陣営に米欧ソ中が立ち向かった世界大戦の一部として日中戦争を位置づけ、米中は肩を並べて戦った戦友だと示すことだった。南シナ海の人工島造成で悪化していた対米関係を修復する狙いがあった。
ところが25年、この物語は後ろに下がる。9月の抗日戦争・世界反ファシズム戦争勝利80周年の閲兵式では、習近平の両脇にプーチン大統領と金正恩総書記が並んだ。
これにかみついたのがトランプ大統領だ。ソーシャルメディアに「大きな問題は、習主席が、非常に非友好的な外国の侵略者から中国が自由を勝ち取るために米国が与えた膨大な支援と『血』に言及するかどうかだ」と投稿し、「米国に対して陰謀を企てているプーチン、金正恩によろしく」と皮肉った。中国の戦勝物語から米国が消えたことへの不満である。
1年後、物語は戻ってきた。いや、以前より激しく強調された。9月24日の歓迎式典でトランプ大統領が「第二次世界大戦で我々は同盟国となった」と述べると、習近平は「肩を並べてファシズムの侵略と戦った」と応じた。
王毅外相の成果説明によれば、習近平は訪米中、「中国の軍民は数十万の命を代償に、数百人の米軍飛行士を救った」と何度も語った。米国の血に言及するどころか、中国も米国のために血を流したと、相互の犠牲の物語として語り直したわけだ。
かくして訪米後の米中両国の成果文書には「二次世界大戦の同盟国」なる文言が書き込まれたのであった。中国の狙いはたんに古い友好を確認するだけではない。米中がともに血を流して作り上げた戦後国際秩序を、米中で守っていくというストーリーが続く。
王毅外相は成果説明で「中米はともに国連安保理常任理事国である。戦後国際秩序を守り、軍国主義の復活を防ぐことは双方の共同責任だ」と述べている。
ファシズムと戦った戦勝国として戦後秩序をともに作り、守っていく。この物語こそ、中国が米国と「対等」を名乗る根拠である。米国にも語らせた「二次世界大戦の同盟国」の物語を最大限活用している。
だが、米国も狡猾だ。中国に花を持たせつつも、「罠」をしかけている。
米国のファクトシートは、第二次世界大戦の同盟の一文のすぐ後に「第二次世界大戦以来、米国の前方展開は自由で開かれたインド太平洋を守り、何世代にもわたる米国の繁栄に貢献してきた」と続けている。中国との過去の同盟に言及した後に、米軍の前方展開、すなわち日米同盟や米韓同盟が自由で開かれたインド太平洋を守ってきたと言っているわけだ。
さらに、中国がこだわった「尊重、公平、対等に基づく建設的戦略安定関係」という言葉にも含みを持たせている。米国側の英文は "on the basis of respect, fairness, and reciprocity" だ。reciprocityは、通商の文脈では「互恵」と訳すのが適当だろう。トランプ政権が「相互関税(reciprocal tariffs)」で掲げてきた旗印であり、これまで不公平だった貿易を正し、互いに――とりわけ米国が――利益を得るという意味で使われてきた。大国としての地位を認めた言葉とは言いがたい。