水害の原因はテレビ画面の外にある!千葉・印旛沼の決壊が与えた〝教訓〟災害対策は「点」でなく「流域」を

2026.10.01 Wedge ONLINE

 例えば、冠水した道路が、広い範囲から雨水の集まる低地にあったとする。その場合、道路の排水能力を高める方法だけでなく、上流で水を一時的にため、流れ込む時間を遅らせる方法も考えられる。

 ただし、どこにでも水をためたり、しみ込ませたりすればよいわけではない。水をためるには、適切な場所と十分な容量が必要だ。地中にしみ込ませる対策も、地質や地下水の高さを調べたうえで行わなければならない。

 森林、農地、湿地には、水を受け止めて流れを遅らせる働きがある。一方、長雨で土が水を含みきれなくなれば、その働きは弱くなる。

 まず調べるべきことは三つある。水はどこから集まるのか。どこで受け止め、流れを遅らせられるのか。どこを重点的に守るべきなのか。

 その結果を基に、上流で水をためる、地中にしみ込ませる、河川や下水道を強化する、土地の使い方を見直す、避難に備えるといった対策を組み合わせる。調べた結果、冠水した場所の下水道を強化するのが最も効果的だと分かる場合もある。

 水の流れを遅らせれば、必ず下流の水位が下がるわけでもない。別の川の増水と重なれば、かえって下流に水が集中する可能性がある。どこで、どれだけ水を受け止めるのかは、流域全体の水の動きを計算して決める必要がある。

 壊れた施設の復旧と、流域の点検を同時に進める。復旧を「元に戻す」だけで終わらせず、調査の結果を次の対策につなげることが重要だ。

水はつながり、管理は分かれる

 水は、市町村や行政組織の境界を知らない。一方、管理する側は、河川、下水道、道路、農業、都市計画、防災などに分かれている。それぞれの組織が担当する施設や区域だけを見ていては、水の動きに沿った対策はつくれない。

 流域を共有する自治体や施設の管理者が、同じ「水が流れる地図」を見る必要がある。その上で共通の目標を定め、どこで対策を行うのか、誰が費用を負担するのか、誰が維持管理するのか、効果をどう確かめるのかまで決める。

 上流の農地や公園で水を受け止めれば、下流の被害を軽減できる。一方、上流側には、土地利用の制約や維持管理の負担が生じる。下流が受ける利益と、上流が担う負担を、どう分かち合うのか。土地の提供や施設の維持管理を、所有者や地域の善意だけに任せることはできない。

ため池を誰が管理するのか

 流域治水で見落としてはならないのは、施設の数だけではない。それを維持する人の数である。農業用ため池は、全国に約15万カ所ある。本来は農業用水を確保するための施設であり、いつでも雨水をためられる空きがあるわけではない。安全性を確認した上で、大雨の前に水位を下げて空き容量を確保できれば、下流へ流れる水のピークを抑える効果も期待できる。

農業用のため池(中央)の水害リスクをはらむ(StudioYummy/gettyimages)

 問題は、施設の老朽化だけではない。農業者の高齢化や減少、離農によって、ため池の点検、草刈り、清掃、補修を担う人も減っている。日常の管理が滞れば、漏水、亀裂、沈下などの異常を見つけにくくなる。余分な水を安全に流す「洪水吐」に土砂や流木、草木がたまれば、大雨の際に水を排出しにくくなる。

 2018年7月豪雨では、西日本の2府4県で農業用ため池32カ所が決壊し、死者1人、負傷者4人の人的被害が報告された。

 ため池防災には、堤防を補強する工事と、それを維持する体制の両方が必要だ。所有者や管理者だけに負担を集中させず、市町村、都道府県、土地改良区、ため池サポートセンターなどが点検、技術改修を支える仕組みが求められる。

危険を減らしても、危険は残る

 流域で対策を進めても、水害の危険をゼロにはできない。

 住民はハザードマップを使い、水害時に逃げられる場所、冠水しにくい経路、避難を始める目安を平時に確認しておく。ため池の下流では、決壊した場合に水が到達するまでの時間と、逃げる方向も確認したい。大雨の最中に、ため池や川、水路の様子を見に行ってはいけない。

 行政は、土地の高さや使われ方、河川、水路、下水道、排水機場、農地、過去の浸水履歴などを重ね、水が集まりやすい場所や排水しにくい場所を探る。さらに大雨が降った場合の水の流れを計算し、対策によって水位や浸水範囲がどれだけ変わるのかを確かめる。

 被害は「点」に現れる。水は流域から来る。壊れた場所を直すだけでなく、水がどこから来て、どこで滞り、どの施設に負荷をかけたのかを調べる。その結果を基に、対策を行う場所と優先順位を決める。

 流域治水は、思いついた対策を並べることではない。水の動きに沿って、対策と責任のあり方を考え直すことである。