9月下旬の10日ほどの間に、ウクライナ戦争に影響を与えると思われる重要な出来事が立て続けに起こっている。特に重要と思われるものを3つ挙げると、第一に、国家院選挙における与党「統一ロシア」の勝利。第二に、ウクライナによるモスクワを含むロシア領内への大規模攻撃。第三に、トランプ大統領による対ロシア制裁法案(いわゆるリンゼイ・グラハム法案)への署名である。
以下では、これらの3点につき、ウクライナ戦争にとっての意味合いという観点から、それぞれにつきコメントしたい。
9月20日に行われた、2022年のウクライナ侵攻後初となるロシアの議会選挙で、プーチン氏は「筋書き通り」の勝利を収めた。9月21日の中央選管発表によれば、プーチン氏の与党「統一ロシア」が450議席中355という圧倒的多数を確保した由である。
9月23日、プーチンは政府閣僚との会合で、今回の選挙結果は、ロシア国民が「国家の強化に向けた我々の取組みを支持」していることを示した、とした上で、前線で戦っている兵士たちに呼びかける形で、「今回の投票はあなた方のためであった」としてこの選挙の意味を規定し、続けて「『特別軍事作戦』」の目標が達成されることに何の疑いも抱いていない」と表明した。
今後、プーチンはこれまでにも増してウクライナ戦争の目標を達成するための措置を強化していくと思われるが、その一つには、「動員」という形をとるか否か、またどのタイミングかは別として、兵員を大幅に増やす措置が含まれるだろう。
理由は簡単だ。プーチンの当面の目標は何が何でもドンバスの全域を占領することであるが、いまだ占領できていない地域が少なくとも4000平方キロメートル(㎢)程度ある。ところが領土の占領は、ミサイルやドローンだけでは絶対に無理で、必ず「人」を出さなければならない。現地の情報がどれほど歪んだ形でプーチンに報告されていても、さすがに4年半以上戦ってもいまだに「完全制圧」の報告がなされないことが何を意味するかはプーチンにも分かるはずだ。
ただし、仮にプーチンが動員(あるいは名称を異にする他の方法)によって数十万人規模の兵員を追加したとしても、戦況の急転は期待できないだろう。
あくまでウクライナ側の数値であるが、ロシア軍は本年に入って1㎢を占領するごとに316人の死傷者を出している(昨年は120人)。これを300人の死傷者として単純計算すれば、残りの地域を占領するために120万人の死傷者を出さなければならないことになる。これが140万人とも言われるこれまでの死傷者数に加わるので総数260万人というとんでもない数になる(負傷者の一部は重複し得るので、実際にはこれより多少少なくなる可能性はある)。
これだけの生産年齢人口の損失にロシア社会は耐えられるだろうか。ロシア側の戦い方に抜本的な改変がない限り、全域占領は遠い目標ということになる。
ウクライナは、プーチンが議会選挙で「筋書き通り」の勝利を収めたまさにその日、9月20日にモスクワ周辺だけで少なくとも450機、ロシア全土では1600機以上という、過去最大規模のドローンやミサイルを同時投入する「飽和攻撃」作戦を実行した。その結果、モスクワ州の燃料の3割以上を供給するモスクワ製油所が停止に追い込まれ、人身被害も出ているようだ。
ウクライナによる戦い方の変遷という観点で見れば、今回の攻撃は、ロシア軍がこれまでウクライナ全土への攻撃で行ってきた飽和攻撃の手法をウクライナも使うことができるようになったことを意味する。ロシアはこれまで、ドローン、巡航・弾道ミサイルなどを同時に使い、まず大量のドローンでウクライナ側の防空システムを消耗させて迎撃能力を削ぎ、続いてミサイルが飛来して標的を正確に攻撃する、というやり方をとってきた。今回のウクライナの戦い方はこれを踏襲したもので、複数の種類に及ぶ長短さまざまなドローン、巡航ミサイル、弾道ミサイルなどを組み合わせて、同様の効果を狙ったものだ。