経済産業省資料によれば、24年3月末時点で、機構の投資先サービスを利用して海外需要獲得などにつながった企業数は、機構の定義による集計で6248社だった。投資先の価値向上のためにビジネスマッチングを行った企業は89社である。また、機構の出資を呼び水として民間から投融資された資金は2倍となり、当時設定されていた1.4倍のマイルストーンを上回った。
したがって、機構自身が設定した政策KPIで見る限り、「他企業への波及」「民間企業との連携」「民間資金の呼び込み」について一定の成果があったことは評価する必要がある。さらに、数字に表れにくい政策効果も考える必要がある。
この十数年間で、機構は日本貿易振興機構(JETRO)、日本政府観光局(JNTO)、地域の経済団体などとの連携を進めてきた。投資を通じて海外拠点、流通網、事業者間ネットワーク、人材やノウハウなどが形成され、それらが投資先以外の日本企業にも利用されているのであれば、それも政策的リターンである。また、「クールジャパン」という考え方を通じ、日本のコンテンツ、食、ファッション、地域産品などを単なる文化発信ではなく、海外需要を獲得する産業として捉える視点を広げたことにも一定の意味があっただろう。
しかし、ここにも評価上の難しさがある。6248社がサービスを利用したことと、それによってどれだけ追加的な海外売上や企業価値が生まれたかは同じではない。民間資金が2倍集まったとしても、その資金が機構の出資なしには投じられなかったのかは分からない。
また、現在の日本のコンテンツ産業の世界的成長を、そのままクールジャパン機構の成果とみなすこともできない。企業やクリエーター自身の努力、日本コンテンツへの世界的需要、配信プラットフォームやSNSの普及など、さまざまな要因があるからである。
したがって、本当に問うべきなのはAdditionality(追加性)である。「クールジャパン機構があったからこそ何が生まれたのか」。さらに、その成果を得るために出資という政策手段が最適だったのかを考える必要がある。
比較すべきなのは、「機構があった世界」と「政府が何もしなかった世界」だけではない。同じ政策資源を補助金、融資、保証、規制改革、海外市場データ、翻訳・ローカライゼーション、海賊版対策、権利データベース、人材育成、共同物流などに投入した場合との比較も必要になる。厳密にいえば、こうしたCounterfactual(反実仮想)まで含めて初めて、公的資金に対する政策的リターンを評価することができる。
もちろん、過去について完全な反実仮想を検証することは極めて困難である。だからこそ今後の産業政策では、政策開始時点から「政府が介入しなかった場合」と比較できるKPIやデータを設計しておくことが重要になる。
クールジャパン機構をめぐる議論を、「官民ファンドは失敗だった」「文化産業の発展に貢献した」という二者択一で終わらせるべきではない。重要なのは、この十数年間の経験から今後の産業政策に何を学ぶかである。
13年の設立当時と現在では環境も変わった。市場が未形成の段階では、政府が一定のリスクを取り、市場形成を支援する合理性がある場合もある。しかし、市場が成長し、民間が自らリスクを取れるようになれば、政府の役割も変わるべきである。
クールジャパン機構の経験からは、少なくとも六つの原則が浮かび上がる。段階投資や撤退基準など、投資実務では目新しくないものもあるが、官民ファンドの経験を通じて、公的な産業政策でも徹底すべき原則として改めて確認しておきたい。