在宅勤務「死なせるか・生かせるか」の致命的差

緊急事態宣言下で一気に普及した「テレワーク」だが、その実施率は今後半減するとの見方も。今こそメリット、デメリットの検証が必要だ(デザイン:杉山 未記)

緊急事態宣言下で一気に広まった企業の「テレワーク」。だが5月25日に、宣言が続いていた首都圏と北海道で解除されたことで、局面が変わりつつある。在宅勤務を続けていた人が、オフィスワークへと回帰しつつあるのだ。

都内のメーカーに勤務する坂本太郎さん(仮名、38歳)は、緊急事態宣言下で会社から「原則」在宅勤務と言われていたが、解除後に「推奨」に変わった結果、上司や同僚がこぞって出勤を再開したことに驚いたという。

「出勤したほうが、仕事が効率的に進むと考える社員は多い。だから“推奨”だと強制力が弱くて、同僚が続々と出勤を再開している。そうした中、自分ばかりが在宅勤務を続けることはしにくい」(坂本さん)

グーグルは3000人のオフィスワーカーを対象とするテレワークの意識調査(4月28日~30日)をまとめたが、それによると新型コロナウイルス拡大の懸念が収まった後も、テレワークを「続けたい」「やや続けたい」と答えた人は49.3%で、「続けたくない」「あまり続けたくない」の計23.1%を大きく上回った。

テレワーク実施率は半減するとの見方も

企業の中にも、原則在宅勤務を継続する富士通やドワンゴ、週1~3日を目安とする在宅勤務を継続するGMOインターネットなど、「ウィズコロナ(withコロナ)」の時代に向けて、新たな働き方を導入する企業が出始めている。

だが、必ずしもそうした企業ばかりではない。緊急事態宣言下での“半強制的”な在宅勤務が終わると、今後テレワーク実施率は低下していくだろうと専門家は指摘する。「テレワークはかつて新型インフルエンザ流行後の2009年、一時的に伸びたが、その後低下した経緯がある」。そう解説するのは、パーソル総合研究所の小林祐児主任研究員だ。

(出所)『週刊東洋経済』6月6日号(6月1日発売)

「東日本大震災後にも一時的にテレワークが普及したが、一過性で終わった。今はビデオ会議などのツールも発達しており、過去よりは根付くだろうが、日常が戻り始めると実施率は4~5月の半分くらいに減り、風化も起こるのではないか」(小林氏)。

『週刊東洋経済』は6月1日発売号で、「テレワーク総点検」を特集。緊急事態宣言下におけるテレワークの実態を業種別に検証し、今後定着させるための道筋を探った。

では、なぜテレワークは根付きにくいのか。その背景にあると考えられるのが、テレワークを経験して、多くの人が感じた“デメリット”である。週刊東洋経済の読者アンケートから浮かび上がったデメリットは、大きく以下の3つだった。

1つ目は、仕事環境である。アンケートには、「自宅のパソコンではモニターが小さい」「通信回線が不安定」「セキュリティー面で不安がある」といった声が多く届いた。加えて緊急事態宣言下では、子どもが休校で家にいたため、仕事をしづらく感じたとの回答も目立った。

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2つ目が、コミュニケーションだ。アンケートには「オフィスなら1分で済むような会話も、ビデオ会議するには事前調整の手間がかかる」「職場と違い、ちょっとした相談をしにくいのがストレス」といった声が多かった。ビデオ通話はやはりリアルなコミュニケーションにはかなわない、と感じた人も少なくないだろう。

3つ目が、上記のコミュニケーションと関連するが、社員の評価である。普段の部下の状況を観察しやすいオフィスと異なり、テレワークでは部下の仕事のプロセスが見えづらい。アンケートでも、「部下の仕事ぶりを把握しにくく、人事評価に課題がある」といった回答が届いた。