絵本の読み聞かせが親子に大事な時間となる訳

小学校までは、いかに心豊かに過ごせるか。そちらを優先したほうがいいのです。

大丈夫。

「ゆったり」と豊かに心が育っていれば、「テキパキ話す」「テキパキ食べる」「テキパキ支度をする」は後からちゃんとついてくるものです。ある時期を迎えると、子どもは途端に成長するものなのです。

それまでは、「ほかの子の2倍時間がかかる」でもまったく問題ありません。

むしろ、子どものゆったりのんびりペースに、時間が許す限りは、親御さんが合わせてあげてほしいのです。

できるだけ子どものペースを尊重する。

そして同じペースを親もいっしょに楽しむ。

そうすれば、子どもも追い立てられるような気持ちを持たなくて済みます。子ども時間を存分に過ごすことができるのです。

絵本の読み聞かせは、なかでも、親と子がいっしょに過ごす貴重な時間です。

読み聞かせのときに早口になる人はいません。

ゆっくり、ゆったり伝わるように、絵本の世界を親子で共有します。

それは、そのときしか成り立たない大切な贈り物の時間なのです。

“目覚めたまま見る夢”の効用

子どもにとって絵本を読んでもらっている時間は、ふんわりとあたたかくてやわらかい布団のなかで半分夢を見ているようなもの。絵本がもたらしてくれる“目覚めたまま見る夢”のなかで、子どもは確実に成長しています。

読んでいる途中で「う~ん」と何かを考え込んだら、答えを急かさずにゆっくり次のひと言を待つ。もう一度見たいページを探し始めたら、見つかるまでいっしょに探す。

あくまでも子どものペースで。

子どもはそうした時間に、力を蓄えています。

植物はある日突然芽を出します。種を蒔いたことを忘れてしまうくらい、長い期間、土のなかで必要な水分と養分を吸収した種は、準備が整った瞬間、ヒョッコリと芽を出します。そしてにょきにょき生長を始めます。土のなかでじっとしている時間は、何も起きていないように見えて、大きなことが起きているのです。

時に、もどかしく感じられるものですが、まずは親御さんがどっしり構えて、とにかく、子どものペースを守ってあげることです。

子ども自身の時間を過ごすことが、その後の成長の糧となります。 親子が1つの絵本を見る。

同じ言葉に触れて、同じ絵を見て、同じ物語の世界に身を置く。

そこで生まれる感情を分かち合う。

絵本の読み聞かせは親子に、密度の濃いコミュニケーションをもたらします。

子どもが、迷子になった主人公になりきって困っていたら、「困ったね。どうするのかな」と声をかける。それだけで子どもは「お母さんも同じ気持ち」と心のつながりを感じとるもの。

気持ちのつながりを持っていたかどうか

こうした気持ちのつながりの確認が、子どもの生きる力を育てます。
大人になって「ここぞ」というときに踏ん張れる力を発揮できるかどうか。

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これには、幼児期にこうしたつながりを持っていたかが関わっています。

誰かと確実につながってきた感触は、幹となってその後の人生を支えます。物語の内容だけでなく、絵本を読んでくれる声からも、抱っこされている肌の温もりからも、子どもは親の愛情を感じとります。

読み聞かせは子どもを絵本の世界に導くためだけのものではありません。

親子が互いに愛情を伝え合い、触れ合うための時間なのです。

だからこそ、「絵本を読んでもらった幸せな時間」は、子どもにとって何ものにも代えがたい財産になるのです。

(文=齋藤 孝:明治大学教授)