「失敗を過度に恐れる人」に知ってほしい7名言

6.安藤百福(日清食品創業者)
人生に遅すぎることはない。50歳でも、60歳からでも新しい出発はある。

安藤百福は、2018年10月から放送されたNHK連続テレビ小説「まんぷく」の主人公の夫のモデルだ。独力で世界初のインスタントラーメンを開発し、日清食品を創業する。48歳。遅い出発と言われて、「人生に遅すぎることはない」と返す。百福は破産から無一文となり、「敗者復活戦」を勝ち上がってきた。遅い出発と見られて当然だった。

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1932年、父の遺産を元手に繊維会社を興す。これが当たった。メリヤス貿易のほか光学器械、精密機器の製造など事業を急速に拡大。だが、戦後、GHQ(連合国軍総司令部)が百福を狙い撃つ。脱税容疑で逮捕され、2年をかけて裁判で争う。さらに理事長を務めていた信用組合が経営破綻し、私財をなげうって借金を清算。「失ったのは財産だけ。その分、経験が血や肉となって身についた」と前向きにとらえる。百福は決して腐らなかった。

ある日、屋台のラーメンに並ぶ行列を目にする。お湯をそそぐだけで食べられるラーメンが作れないか。ここから「敗者復活戦」がはじまる。早朝から深夜まで、狂気の挑戦の日々をへて「チキンラーメン」は完成する。

平均寿命が65歳の時代に、48歳の百福は「人生に遅すぎることはない」と言った。年齢のことだけを言っているのではない。人生の再出発を期することもまた「遅すぎる」はないということを百福はこの言葉に込めるのだ。

7.野村克也(プロ野球選手・監督)
恥をかき続けた27年間を終わってみて、「人間は、恥ずかしさという思いに比例して進歩するものだ」と、気がついた。それが「修行」。「恥ずかしい」と感じることから進歩は始まる。

恥ずかしいことは隠すものだ。口にできないから苦しむ。高卒でプロ野球の世界に入った野村がルーキー当時、「俺、無知無学だから」と自らの劣等感を語ったとすれば、それは逆説的な自慢である。苦しみの本質は自分を恥じる劣等感からくるのではなく、悩んでいる自分を隠すことにあるのだ。

智将と称賛され、球界のトップリーダーの一人である野村が「恥ずかしい」と感じることをエネルギー源にして進歩につながったと語る。だが劣等感を飛躍のバネにしたというよりも、努力が報われて振り返ったとき、劣等感がバネであったことに気づくのだ。

プロボクシングの世界チャンピオンが引退後、テレビ局から解説者をオファーされて断った。「中卒の自分にしゃべれるだろうか」──自信がなくて断ったのだと、かつて取材したとき私に語った。あのときが人生の分かれ目だったかもしれないと気弱く笑った。

野村も引退後、テレビ解説者のオファーが来た。当時のプロ野球解説者は大卒のインテリばかりだったと野村は言う。それでも、野村は絶壁に爪を立てるようにしてよじ登り、世界チャンプはその場に立ちつくした。野村の言葉は私たちの心に刺さり、チャンプの言葉は素通りする。リーダーの言葉とは結局、体験なのだ。成功例でなくてかまわない。自分はかく思い、かく働き、かく生きてきた。体験で濾過した言葉だけが部下の心を打つ。

(文=向谷 匡史:作家)