人手不足だけど「50代は削減」日本企業のジレンマ

モデル賃金とは、標準的に昇給や昇進をした人の報酬パターンを想定して算出する賃金のことです。ライフステージを勘案して20代では安く、家庭をもち、教育費用などがかさむ40代で急激に上昇するように設計します。その延長で50代の報酬は高く固定されているので、会社の負担が大きくなります。

それでも企業に財力がある時代は、若い時代の安い報酬の代償と考えられてきました。ところが、今多くの会社にその代償を支払う余裕がなくなりました。株主も、年齢と報酬が高い社員のリストラをすべきと提案をするようになりました。

先日、仕事で関わった半導体のメーカーでは外資系のアクティビストから人材流動化に向けた株主提案が2年続き、その対応で50代以上の早期退職を行うことを決めました。短期的には総人件費が下がり、収益改善に大きく貢献したようです。ただ、知見のある社員が減少したことで現場ではミスも増えて、生産性も下がってしまったようです。

同じように早期退職後に人手不足の状況がさらに悪化するケースが増えています。なかには早期退職の応募者が予定数を大きく上回り、新たに中途採用で即戦力の採用を開始。ところが採用はうまくいかず、現場が大混乱となっている会社もあるようです。ただ50代を削減すればいいかというと、そう話は単純ではないのです。

人材の配置転換で人手不足を解消する方法

では、在籍する50代以上の人材を配置転換して、人手不足の解消に貢献する方法を考えてみましょう。雇用調整を行わずに、貴重な戦力として、活躍の可能性を考えてみるのです。

まずは、問題となるモデル賃金を廃して、能力や成果に応じた報酬テーブルでリセットするのです。

一時的には賃金が下がっても頑張れば上がっていく制度にすることで、50代の配置転換はしやすくなります。当然のことながら役職定年のような一律で役割を外し、報酬を下げる仕組みも廃するべきでしょう。

役職定年制とは、ある一定の年齢に達した社員が、課長・部長などの役職から退く制度のこと。1986年に「60歳定年」が企業の努力義務になり、1994年には60歳未満の定年が禁止されました。一方で人件費の抑制や組織の若返りなどを図るために50代半ばで部長などの役職を降りることを制度化したもの。その後は大幅に報酬を下げて、定年までの残りの期間を勤務するという設計と考えられてきました。

配置転換を加速させるため、一定のタイミングで能力や意欲を再確認する「アセスメント」なども加えて、公平に働ける機会を提供することで配置転換による活躍機会を増やすことも必要です。

アセスメントとは、客観的視点で人材の能力を評価することです。「職場の仕事に対して何ができるのか?」インタビューや上司評価なども加えて、配置転換できる職場を探すのです。

現在でも再就職支援を行う会社では新たな仕事探しのために行うことが増えていますが、社内での配置転換に活用してみることで、機会を広げることができると考えます。

人手不足が慢性化している製造業で50代超の人材にアセスメントを行い、配置転換を実施。新規採用での人材確保が厳しい状況を補う手法として効果をあげるケースも出ています。

中途社員が社内風土になれるのに苦労するようなリスクも回避できますし、職場環境が変わることで、前の部署では評価が低かった人材が意欲的に成果を出すケースも出てきているとのこと。

新たな仕事への支援態勢が必要

ただし、配置転換に関して否定的に受け止める人もいます。50代になって初めての仕事に配属される不安が大きい人もいます。そこで、新たな仕事に対して意欲的に取り組めるような支援態勢として、オンボーディング(教育・育成プログラム)の徹底も必要です。

例えば、メンター制度なども行い、しっかりと同じ船に乗っている意識を醸成する。あるいはキャリアについて、しっかりと考えていく体制を取ることで50代超の活躍をすすめ、人材不足の解消に寄与してきた会社が出てきています。

最後に、会社員は、自社の社員の働き方をどう考えているか、経営の意向、人事ポリシーをしっかりと理解しておくべきでしょう。経営方針とともに変わる可能性があります。これまで雇用調整なんて考えなかったような会社が取り組む時代です。適切に把握し、自分のこれからのキャリアにつなげていきたいものです。