2000年まで、運動は健康によいもの、やったほうがよいものという捉えられ方だった。しかし、ここ20年の医学的研究により、運動不足は、慢性疾患や死亡の実際の原因である、と分類されるようになった。それは運動不足が、喫煙やアルコール、悪い食習慣と同じく病気の原因であるという意味だ。
「健康」と「運動」に関する10万件以上の論文が発表され、心臓病、認知症、乳がん、大腸がんなど35もの疾患の原因と定義された。そして、「運動」はこれらの病気のリスクを低減することがわかってきた。
2000年に、運動刺激で筋肉が、「インターロイキン6」というホルモンを分泌し、筋肉以外の場所で働くことが発見された。運動をすると、筋肉から分泌されたこの物質が脳に働いて食欲を落とす。そして脂肪を分解するのだ。
筋肉が収縮する間に分泌されるため、筋トレはホルモンの強力な誘発剤だ。分泌には筋肉を壊すほどの刺激は必要ないため、適度に筋肉を動かすトレーニングで十分だ。
インターロイキン6は、一般に炎症を引き起こす化学物質(サイトカイン)だ。普段から濃度が高い場合、慢性的な炎症を原因とする糖尿病などを引き起こす。主に脂肪組織がこの物質を分泌し、インスリンというホルモンの働きを悪くする(インスリン抵抗性)。内臓脂肪の多いメタボリック症候群になると、インスリン抵抗性の病的状態である糖尿病になりやすい。
しかし運動によって筋肉から分泌されるインターロイキン6はまったく逆の働きをする。インスリン抵抗性を改善して糖尿病を予防する効果があるのだ。このメカニズムは筋肉と腸の会話によって引き起こされる。
そして、運動によって、腸内の善玉菌の割合が増え、腸内細菌の多様性(種類)を増大させる、ということもわかってきた。
運動が腸内の善玉菌である乳酸菌の数を増加させる。乳酸は腸内を酸性環境に保ち、病原菌を排除し腸粘膜の免疫機能を維持するうえで重要な物質。さらに運動によって数が増える別の菌がこの乳酸を餌にして短鎖脂肪酸を合成する。
習慣的に運動を行っている人は運動を行っていない人と比べて明らかに「腸内細菌の多様性が高い」ことも報告されている。「腸内細菌が多様であること」が、免疫力を高め病気にならないために重要であることがわかっている。
運動不足の人の代表は、座っている時間が長い人だ。仕事で1日中デスクワークをしている人は、その行為自体が寿命を縮めていると認識しなくてはいけない。座位時間が延びれば延びるほど、全死亡および心臓病による死亡に関連があることが報告されている。座位時間が最大の場合、死亡のリスクは1.54倍だった。
その要因は、筋肉の血流が低下することだ。筋肉はわずかながらの動きがあれば代謝が低下することはない。しかし座った状態では筋肉の活動、とくに下肢の筋肉の活動は完全に停止している。筋肉内の血管の刺激がなくなり、血管の細胞で作られる一酸化窒素合成酵素が低下する。この結果、慢性炎症を引き起こしてさまざまな疾患の誘因になることが想定される。