不幸話が溢れるインターネットで使える鋭い一言

それだけではない。さらに面白いのは、マダラヒタキのオスは巣穴から200~300メートルくらい離れたところで浮気をするのだ。これはマダラヒタキにとっては結構な距離だ。他の巣穴をいくつもスルーすることになる。つまり彼らは、わざわざ遠くに移動して浮気をする。

なぜなら、バレたくないからである。自分の巣穴から離れたところでなら誤魔化せる、ということだろう。

これも人間とギョッとするほど似ている。おそらく、マイホームの近くで浮気する男性はほとんどいない。最寄り駅付近のラブホテルに入るのはあまりにもリスクが高いと思うはずだ。

だから彼らは、浮気をするなら少なくとも数駅は離れたところでするだろうし、この心理はマダラヒタキのオスとまったく同じである。

ところで、浮気相手のメスの視点に立ってみよう。マダラヒタキのメスは、(多くの人間の女性と同じく)愛人であるよりは正妻でありたいと思っている。なぜなら、愛人と正妻では待遇に大きな差があるからだ。

オスは、正妻の子どものために一生懸命エサを運んでくるが、愛人の子どものためにはあまり運んでこない。そのため、生存する子どもの数には如実に差が出る。正妻の子どもは平均して5.4羽生存するが、愛人の子どもは3.4羽しか生存しない。

したがって、マダラヒタキのメスも(たいていの人間の女性と同じく)、なるべく既婚者オスと交尾はしたくないのだが、前述の最寄り駅から離れたところで浮気をする工作のせいで、気づかずに交尾してしまう。

このあたりの悲喜こもごもも、人間とまったく同じで実に味わい深い。「2年付き合ってた彼氏が既婚者だったんだけど? 完全に騙されてた! 信じられない?」みたいなのも、Twitterでよく見る不幸ツイートだ。

2年間も騙し通せるということは、その男性のカモフラージュはさぞ上手だったのだろう。家から離れた場所で浮気をするのはもちろん、適切なタイミングで指輪を外し、適切にLINEを運用し、適切にクリスマスに会えない言い訳をこしらえる。

こういったカモフラージュも、マダラヒタキにそっくりだ。われわれ人間は他の生物よりもずいぶん賢くなった気でいるけれど、案外、鳥類と大差ないのかもしれない。

不幸ツイートに対してコメントするときに

……ということで、浮気をする男性をバカにしたくなった時や、ありふれた不幸ツイートに対して気の利いたコメントをしたくなった時は、「マダラヒタキのオスじゃん」を使ってほしい。人間そっくりの行動をするマダラヒタキに思いを馳せながら、生物の業の深さについて考える良い機会になるだろう。

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特にハマるのは、「奥さんが妊娠している間に浮気をする男性」「既婚者であることを上手に隠して浮気をする男性」「マイホームから適切な距離で浮気をする男性」などである。

また、自分が被害者になったなどの理由で、もっと思いっきりバカにしたい時は「本能に抗ってくれよ。鳥じゃなくてホモ・サピエンスなんだから」とつけ加えるといいと思う。適宜トッピングをしながら使ってもらえると幸いだ。

【使用例】
「私が妊娠して入院してる間に、旦那が浮気してた……」
「やば。マダラヒタキのオスじゃん」

【参考文献】
ジャレド・ダイアモンド『人間の性はなぜ奇妙に進化したのか』(長谷川寿一訳・草思社)