「あった方がいい病」が組織の生産性を低下させる

話し合う男女
働き方改革の中で、仕事の優先順位付けや取捨選択は必須事項といえます(写真:takeuchi masato/PIXTA)
「日本人の2倍働いて3倍稼ぐ」と言われる外資系管理職だが、どうすれば、そのような働き方ができるのか。また、AI・テクノロジー社会で生き残る管理職の条件とは何か。
このたび、ロングセラー定番書の新版『新 管理職1年目の教科書:外資系マネジャーが必ず成果を上げる36のルール』を刊行した櫻田毅氏が、「2倍働き、チームの成果を最大化」する外資系管理職に共通する、意思決定、部下育成、権限委譲などの仕事のルールについて解説する。

管理職は「引き算」の発想で仕事を取捨すべき

働き方改革が叫ばれる中、私たちはますます仕事の生産性を高めていくことが求められています。限られた時間で最大の成果を出すためには、優先度の高いことに集中して時間の密度を高めることが大切です。

『新 管理職1年目の教科書』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします。紙版はこちら、電子版はこちら。楽天サイトの紙版はこちら、電子版はこちら

そこで、管理職が特に意識すべきことは、何をやるかよりも何をやらないかといった「引き算」の視点で、仕事を取捨選択することです。というのも、私たちは、ついこのようなことを部下に言ってしまうからです。

上司「何かの参考になるかもしれないので、この会議に出席しておいてくれない?」

ジャック「なぜですか? 私が必要なら出ますが」

上司「あっ、いや、必要というわけでは……」

ジャック「じゃ、仕事します」

上司「うぐぐぐ……」

ジャックは外資系企業における一般的な社員の反応です。一方、日本企業の場合、多くの部下は面倒くさいと思いながらも「わかりました」と答えざるをえないでしょう。

しかし、このような上司は、実は部下の時間を無駄に使っているのかもしれません。「日本人は人のサイフは盗らないが、人の時間は平気で盗む」――時間価値の意識が低い日本人を、こう揶揄する外国人もいますが、上司がそのことに気づいていないのです。

「出席しておいた方がいいから」で、いたずらに会議の出席者を増やしてしまう。「あれも調べておいた方がいいから」で検討項目を膨れ上がらせる。「この人にも話をしておいた方がいいから」で関係者を増殖させてしまう――このような「足し算」の発想が、仕事の質を希薄化させ、生産性の低下を招く「あった方がいい病」です。

限りある時間は有効に使うべし、ということに異論を唱える人はいません。しかし、「あった方がいい病」にかかってしまうと、そのことがスポッとアタマから抜けてしまいます。というのは、「あった方がいい」というのは、そこだけ切り取れば正論だからです。ジャックの場合も、出席すれば得るものがあるかもしれない、という点だけ見れば正論です。

しかし、それは「効果がゼロではない」ということを言っているにすぎません。使った時間に応じた効果があるのか、他の選択肢と比べても価値があるのか、つまり生産性の観点からは何も言っていないのです。その点をわきまえずに「あった方がいい」を乱発すると、時間の密度が際限なく薄くなり、生産性低下のドツボにはまり込んでしまいます。

限られた部下の時間をどう使うか

上司は、「ジャックが会議に出ておいた方がいいかどうか」ではなく、ジャックの限られた時間の中で、「会議に出るのと、いまやっている仕事を続けるのとでは、どちらにより意味があるのか?」で判断すべきです。

生意気なところはあっても、仕事はできるジャックです。時間を使えば使っただけの成果を出す力を持っています。であれば、「必要だというわけではないが」という会議に貴重な時間を使わせるのは良い選択とは言えません。