「仕事の質とスピードを両立」するシンプルな法則

スピードが勝負を決めるビジネスの世界では、寝ているライオンには目もくれずに吠える犬を選ぶことが成功のカギとなります。そこで私たちは、どのようなときに、不完全でもスピードを優先すべきかを、普段から部下と共有しておくことが大切です。

たとえば、次のような場合です。

〇いますぐに情報が必要なとき

〇不完全でも、少なくともいまよりは業務が改善するとき

〇問題点は残っても、それ以上にいい方法が見つからないとき

〇それ以上にいい方法があったとしても、コストや時間の面で見合わないとき

〇経験則が頼りにできず、やってみなければわからないとき

〇何もしないと事態が悪化するとき

部下がニーズを把握しているかどうかは次の質問でわかります。「その件で、最も大切なことはなに?」。先ほどの証券マンの場合、正解は「すぐに回答すること」です。

このように部下が即答できればよし、できなければ相手のニーズを把握しているとは言えません。ニーズ把握の重要性を頭では理解していても、「理解している」と「できる」とは別のことです。

意味のない完成度へのこだわりを捨て、「最も大切なこと、イコール相手の譲れないニーズ」が何かにつねに意識を向けることで、かけた労力に対する相手の満足度、すなわちサービスの生産性は大きく向上します。

米国にスペースX社という民間の衛星打ち上げ企業があります。同社は、衛星の打ち上げで2段目ロケットを切り離したあとに、1段目ロケットを逆噴射させて着陸回収・再利用する技術を世界で初めて確立させました。高額のエンジンの回収・再利用により、打ち上げコストを当時の約100億円から数十億円単位で大きく引き下げ、あっという間に世界シェア・ナンバーワンの打ち上げ企業になったのです。

打ち上げコストを低下させることができた理由がもう1つあります。エンジンが高額になっている最大の理由は、エンジントラブルが絶対に起きないよう、品質を極限まで高めた開発、製造がなされてきたからです。しかし、同社CEOのイーロン・マスク氏は「クライアントの本質的なニーズは確実に衛星を軌道に乗せること。しかもできるだけ安価で」という原点に立ち返ります。

であれば、そこまで品質を高めなくても、エンジンをたくさん装備して、たとえ1基ぐらいトラブってもほかのエンジンでカバーできればいいのではと考えます。それで開発されたのが、9基のエンジンを装備して同社の主力ロケットとなった「ファルコン9(ナイン)」です。

究極の品質追求というコスト高要因を取り除き、量産効果も相まって、エンジン製造コストを大きく低下させました。2012年には、打ち上げ直後にエンジン1基にトラブルが発生したものの、衛星を問題なく軌道に乗せ、顧客ニーズを完全に満足させています。

過剰品質を美談とする時代を終わらせる

歴史ある企業によく見られる品質至上主義は、顧客の本質的なニーズとは必ずしも合致しない、過剰品質の文化を生み出しています。この文化が生産性や競争力の低下要因となっている現実に私たちはもっと向き合い、それを美談とする時代を終わらせなければなりません。

ちなみに、スペースX社のプレゼンは、回収に失敗した1段目ロケットが大爆発を起こしている動画から始まるそうです。「これだけの失敗をして、そこから多くを学んできた私たちの技術を信頼してください」ということです。失敗からの修正過程が、技術的、ビジネス的なノウハウを蓄積させ、それがチームの財産となっているのです。

管理職にとっての重要な役割の1つはチームの生産性を高めることです。そのためには、従来の効率化といった発想ではなく、仕事やアウトプットの「質」により一層目を向ける必要があります。