「キャリアアップを気にする新人」に伝えたいこと

この悩ましい問題に対処するためには、自身のラーニング効率という視点で眺めるとヒントがありそうです。同時に、自分はキャリアでどこを目指すのか明確にしつつ、適宜、自身の成長速度を把握しておく仕組みを持っておくと客観的に判断できそうです。

キャリアに迷ったら「給料アップ」を意識してみる

【質問】
このままマーケターとして生きていきたいと思っていますが、迷いもあります。キャリアについて音部さんはどのように考えられますか?
 

マーケターのキャリアについて考える場合、「いいマーケター」の定義が必要なスキルを示すように、目指すべきプロフェッショナル像が明らかだと、必要な経験が示唆されることでしょう。「いま勤めているこの会社でCMO(最高マーケティング責任者)になる」というのも1つの考え方ですが、「消費者を相手にビジネスをする企業で、マーケティング部門長の職責を持つ」と、少し幅を持たせて考えるのも悪くないアプローチです。

前者のほうが明確で強い動機を持てそうですが、後者のほうがフレキシブルで前向きな姿勢を維持しやすいかもしれません。

キャリアや人材開発の領域には、「プランド・ハプンスタンス(planned happenstance)」という考え方があります。「計画された偶然」といった意味です。キャリアの構築ではなかなか予定通りには行かないことが多く、偶然の要素がとても大きいので、偶然をうまく積み重ねましょう、という考え方です。

振りかえれば、私のキャリアもかなりの偶然とご縁に影響されてきました。どのブランドを担当したとか、誰が上司にいたとか、どの都市で働いたとか、誰が同期だったとか。偶然に左右されるなら、キャリアプランに幅を持たせて、フレキシブルに対応していくのは理にかなっているかもしれません。

とはいえ、完全に運を天に任せてしまう、あるいは行きあたりばったりで構わないということでもなさそうです。なるようにしかならないけれど、なるようにはなれるのです。そのためには相応の努力も働きかけも意味があるでしょう。やはり、ある程度の目的設定は役に立ちます。

いずれ(5年後か、10年後か)自分はどうなりたいか、何が起きたらうれしいか、何を残せたら満足できそうか、あるいは何をすれば世の役に立てそうか、といったことを考えてみるのはヒントになるでしょう。自分はどうなりたいのか分からないときは、中学生の頃に好きだったことを思い出してみるのも手です。

なぜ子供の頃の「好きだったこと」が大切か

戦略を策定する際に「目的」から考えるのは正統で定石です。しかし、戦略を構成するもう1つの要素である「資源」から考えてみることが有効な場合もあります。特に運用できる資源の総量が小さめの個人やスタートアップなどでは、手持ちの資源から考えるのは有効です。数年前から学術の世界で議論されるようになった「エフェクチュエーション」という考え方は、資源に立脚した起業論であると解釈すると、理解しやすいかもしれません。

さて、資源とはすなわち、自分が持っているスキル、能力、ネットワークなど「自分のこと」です。中でも生来の気質は、長期的には大きな影響をもたらすことでしょう。好き嫌いにはいつも明確な理由があるわけではなさそうですが、動機づけや能力の発揮に大きく影響するように見えます。

サッカー選手のほとんどは、サッカーが大好きだろうと想像します。棋士のほとんども、将棋が大好きではないでしょうか。音楽家も、小説家も、俳優も、それぞれに自分の専門分野を大好きなのだと思います。

自分が大好きだったことに、「生来の強み」や「向いていること」が潜んでいても不思議ではありません。持って生まれた能力を発揮するのは、きっと、直感的・本能的に楽しく、好きになることなのだろうと考えます。