「ポスト柳井」に浮上、44歳ユニクロ新社長の手腕

商品仕入れ日数の問題については、船便より短い日数で着荷できる航空便を活用。売れ筋商品の追加投入を迅速にできるようにした。こうした取り組みの結果、粗利益率(売上高に占める粗利益の占める割合)はコロナ前に比べて約8ポイント改善した。

並行して赤字店の閉鎖を進め、人件費や家賃など固定費も削減した。塚越氏がユニクロUSAのCEOに就任した2020年以降、コロナの影響でニューヨークやサンフランシスコといったアメリカ主要都市部では観光客をはじめとした人流が減少し、実店舗は大きな打撃を受けた。

ユニクロは西海岸初の店舗だったサンフランシスコ・ユニオンスクエアの約800坪の店舗、ニューヨーク中心部の34丁目にあった1000坪規模の店舗などを閉鎖。いずれもアメリカ本格進出を象徴する旗艦店だったが、メスを入れた。その他の既存店舗では賃料の見直しを進めている。

こうして約17年に及ぶ苦節の末、ようやく達成した北米事業の黒字化。前出のファストリ関係者は「塚越氏は、先人達が積み上げてきたノウハウ、一方で失敗などもきっちり取り込みながら成功を収めてきたのではないか」と評価する。

ユニクロ社長就任で何が変わる?

今後の焦点は、何と言ってもポスト柳井の行方だ。塚越氏がユニクロの社長に就任したとはいえ、経営の意思決定などには柳井氏が深く関わることになるのは確実だ。

ファストリを率いる柳井正氏も今年で74歳。40年近く社長を務め、グループの成長を率いてきた(撮影:尾形文繁)

ファストリ側もリリースで「(柳井氏は)今後も代表取締役会長兼CEOとして、経営の意思決定および事業拡大をリードしていきます。また、柳井は、株式会社ファーストリテイリングの代表取締役会長兼社長としても、これまでと同様にグループ全体の経営の意思決定ならびに経営執行を担っていきます」と表明している。

このため「ユニクロの社長に就任しても、グローバルCEO時代と実質的には変わらないのではないか」と見る市場関係者も少なくない。柳井氏の後継者をめぐっては、過去に候補と目される人物が何人も現れてはファストリを去っていった。結局は柳井氏自らが舵取りし、アパレル業界で世界3位まで上り詰めて今に至る。

次世代の経営について柳井氏は「チーム経営」を標榜する。その中で塚越氏が、中心的な役割を担うことになるのか。北米事業を立て直した手腕を、ユニクロ事業全体でも発揮することが期待されていることは間違いない。44歳の次世代リーダーの活躍に注目が集まる。