大統領選「5勝」のプーチンが乗り出す世界戦略

2024年3月20日、モスクワのクレムリンで占拠運動代理人との会合で演説するプーチン大統領(写真・Sputnik/共同通信イメージズ)

ウクライナ侵攻が続く中、2024年3月15日から17日に行われたロシア大統領選でプーチン氏は「記録的圧勝」で、通算5選を果たした。なぜ今回このような結果になったのか。また今後プーチン・ロシアはどういう方向に進むのか。

プーチン氏の得票率が過去最高の87%。今回の大統領選の結果を見て、筆者はある言葉を思い出した。「選挙で大事なのは、誰が投票するかではなく、誰が票を数えるか、だ」。

2000年の大統領選でプーチン氏が初当選した際に、クレムリン高官が口にしたとされる有名な言葉だ。つまり開票作業を操作すれば、自分たちに有利な選挙結果に変えられるとのプーチン陣営の本音の選挙論を漏らしたものだ。

それ以来、プーチン・ロシアの大統領選はそのほとんどが「公正な選挙」とは無縁だった。開票不正はもちろん、大統領以外の候補者選定から、どの程度大統領を勝たせるか、などすべてをクレムリンが振り付ける、いわば「特別軍事作戦」ならぬ「特別政治工作作戦」に過ぎない。

だが、今回の選挙戦はその不正の規模において、これまでとは状況が違ったようだ。ロシアの民間選挙監視団体「ゴロス」が選挙直後発表した声明で、今回の大統領選は「選挙のまがい物」であり、「過去ロシアでの選挙において、これほどの規模で不正が行われたことはない」と強く批判したのだ。

「記録的圧勝」が意味すること

では、今回なぜプーチン氏は、このような大規模不正に対する批判を承知で圧勝劇にこれほどこだわったのか。その狙いはいくつかある。

まず目の前の目的としては、3年目に入ったウクライナ侵攻に対し、初めて国民から選挙で強い信任を得ることだった。そして、今回の「最高得票率」でそれを果たした。選挙後初の記者会見で、プーチン氏が侵攻継続への強い意志を表明したのも、この目標を実現したという満足感の表れだろう。

そしてもう1つの狙いは、軍への第2次動員実施に向けた環境整備だ。第1次部分動員は2022年9月に行ったものの、動員を忌避する国民の大量出国騒ぎにつながった。

これまでプーチン氏は大統領選への悪影響を恐れて、追加実施をためらって来た。今回の選挙圧勝で、国民との間で、侵攻支持という一種の「社会契約」を結ぶことができたプーチン氏は追加動員に踏み切る可能性が高いとみられている。

さらにウクライナに対しては、本来なら2024年3月に予定されていた大統領選をゼレンスキー政権が戦争継続のため延期したことを受け、プーチン氏は自らと対比する形で、選挙を延期したゼレンスキー政権には「政治的正統性がない」と外交的攻撃を始めるだろう。

だが、侵攻への国民の支持確保という当面の目標を達成したプーチン氏には、その先にしっかり見据えている別の「大目標」がある。それは、西側民主主義陣営と全面的に対峙する強権軍事国家としての純化の道を歩み始めた「プーチン・ロシア」の国づくりの総仕上げをすることである。

筆者は2024年1月13日「2024年・ロシアのプーチン大統領はどこへ行く?」で、プーチン政権が2023年から、法律・教育・イデオロギー面などで、西側との全面対決に向けた国家改造に着手したことを報告した。

プーチン氏の次の任期は2024年5月から2030年までの6年間。さらに憲法規定によりさらにもう1期、2036年まで大統領の座に留まることができる。プーチン時代はまだ、あと12年続く可能性が高いのだ。

「ロシアの要塞化」という国家改造

この間、プーチン氏は、政治・社会面で米欧的価値観を排除する、「ロシアの要塞化」とも呼べる国家改造を完遂するつもりだ。