モスの「音楽レーベル」面白いけど厳しそうな理由

全店舗の9割がフランチャイズ店舗であるモスバーガーで、こうした新機軸がどこまで浸透するかは未知数である。この企画の1つの魅力として、デビューする予定のアーティストが、モスバーガーの店舗を使ったタイアップに臨めるということがある。

具体的にそれがどのようなものになるのかは発表されていないが、全店舗を挙げてのバックアップとなれば、もちろんフランチャイズオーナーたちの協力がなくてはできないだろう。

ただでさえ忙しいフランチャイズオーナーたちにとって、こうした取り組みへの協力が負担に感じられないか、そこは検討の余地があるかもしれない。アーティスト支援を全社的に継続していく体制の構築は容易でない。本部主導で始まった施策だけに、加盟店を巻き込んだ推進ができるかがカギとなる。

また、デビュー後のアーティストの音楽性と、企業側の方針とのすり合わせも難しい問題をはらんでいる。クリエイターの自主性を尊重しつつ、ブランドイメージに沿った活動を促すことはどのようにするのか。

もちろん、最初のオーディション段階である程度はモスのブランドイメージに沿ったアーティストが選ばれるのだろうが、彼らも同じスタンスで活動を続けるわけではない。その辺りのすり合わせが難しいだろう。

このように、フランチャイズオーナーやアーティストなどのセクターと、本社がどのようなコミュニケーションを取れるのか、未知数な部分がある。これが、継続的な活動の足枷になることも否定できない。

取り組み自体に有効性があるのか

②取り組み自体の有効性とその評価の難しさ

次に、こうした取り組みがモスバーガーへの入職を促すのか、ということも不明瞭だ。

そもそも、この取り組みの目的の1つが人材難の確保にあったことは最初に書いた通りだ。しかし、私の知り合いのアーティスト志望者数名に話を聞いてみたところ、彼らはすでに他のアルバイトをやっていたり、あるいは「タイミー」などのスポットバイトアプリでスキマ時間を利用して効率的に働いていたりして、「わざわざ、これを動機にモスバーガーにバイトを変えることはないかも」と言っていた。

実際、人材難ということは、より高待遇のバイトに多くの人が集まっているということでもあり、特にスポットバイトアプリの興隆によって、すでにアーティスト志望者の中ではバイトに困っていない人も多い。そんな状況の中で、この取り組みがどれほど成功するのか、難しいところである。

加えて、具体的な成果の測定が難しい点もある。この取り組みによって、求人への応募者がどの程度増えたのか、入職への動機にどう影響したのかは、定量的に測るのが難しい。継続性を考えるときには、その成果をデータとして捉え、活かしていく必要があるが、そのデータが取りづらいわけだ。

話題性だけが先行して、結局人材難の解消にはつながらなかった……となる可能性もある。ちなみに、私が話を聞いた人たちからは、「時給が高い、コスパのいいバイトだったら変えると思う」という声が多かった。単純に、賃金上昇をさせた方が、より直接的に人材増につながるのかもしれない(そう簡単に給料をアップできないから、今回のようなプロジェクトを打ち出したのかもしれないが……)。

③音楽とサービス業のタイアップは苦戦の歴史だった

最後に、これがもっとも重要なのだが、これまで、飲食チェーンが音楽とタイアップしてきた歴史を振り返ると、それは苦戦の歴史だったことが見えてくる。

そもそも、こうした音楽への訴求は、直接的に顧客にとっていいことがあるわけではない。ブランド力の強化には寄与しても、商品の味や価格を左右するものではないのだ。一時的な話題で終わり、その後の展開を誰も追わなくなるリスクは拭えない。いくつか具体例を挙げよう。