佐野氏は12年3月、穐田氏を後継社長に指名し、佐野氏は料理レシピサイトを米国に広げるため渡米。穐田氏は時価総額経営を進め、クックパッドは急成長をたどることとなる。
投資家である穐田氏にはレシピサイトに対する思い入れはなかった。入山章栄・早稲田大学ビジネススクール准教授との対談(15年9月25日付「ダイヤモンド・オンライン」記事)でこう語っている。
<クックパッドはまだ“一発屋芸人”レベルだ。時流を捉えて一度大ヒットすると、後を営業しながら、しっかり稼ぐ。一度当ると意外に長持ちするな、みたいな(笑)>
<もっと便利なものができたら(クックパッドは)なくなると思ってます。Facebookの料理投稿で充分とか、YouTubeの料理動画で良いじゃんとなれば、それでお終いです>
レシピサイトで食えなくなることに備え、穐田氏はM&A(合併・買収)に打って出る。米国、スペイン、インドネシア、レバノンなど海外レシピサイトを買収。スーパーの特売情報の提供や食材の定期宅配などEC関連、電子書籍のイーブック、子育て支援の日本テクノ、結婚式口コミサイトのみんなのウエディングなど新規分野のM&Aを次々と進めた。
13年4月期単独決算の売上高49億円だったが、事業の多角化の結果、決算期を変更した15年12月期の連結売上高は147億円まで急拡大し、時価総額は7倍以上になった。レシピと関係ない投資を加速させた穐田氏に、佐野氏の怒りが爆発。16年3月の定時株主総会後の取締役会で佐野氏は穐田社長を解任した。
クックパッドを去った穐田氏は不動産情報サイトのオウチーノと結婚式場口コミサイト、みんなのウエディングを経営統合。18年10月、共同持ち株会社くふうカンパニーを設立。オウチーノとみんなのウエディングに替わって、東証マザーズに上場した。穐田氏は、くふうカンパニーの57.15%を保有するオーナーだ。
ロコガイドも、もとはクックパッドの新規事業だった。クックパッドを去った後、16年7月に設立した。穐田社長は新規上場のオンライン会見でこう語っている。
「新聞を購読しない人が増えてチラシの部数が減ったうえ、仕事で忙しいときにチラシをスマートフォンで見られると考え事業を始めた。スーパーなどにとっては低価格で電子チラシを掲載できる。デジタルなのでチラシよりも情報量が多く、アプリの利用動向から顧客データの分析ができるのも電子チラシならではの優位性だ」
3月に上場承認を受けたが新型コロナウイルスの感染が広がりで株式相場が変調をきたしたうえ、業績への影響も勘案して、いったんは上場をとりやめた。ロコガイドは全国のスーパーやドラッグストアなど5万店の電子チラシを読めるスマートフォンのアプリを運営する。店舗のチラシ投稿が3月後半から減少。全国ベースでは5月前半の投稿は3月から5割減、特定警戒地域となった東京都や大阪府などは6~7割減まで落ち込んだ。「火曜市」「シルバーデー」といった定例の特売をやめた店が目立った。
コロナの影響で業績がどうなるかわからなかったが、3~5月は想定していた以上の数字が出た。上場しても問題はないと判断した。ユーザーに課金する新サービスを追加するなどして、「税引き前利益を毎年2倍に伸ばしたい」という。上場後も穐田氏は7割強の株式を保有する。
2021年3月期決算は売上高が前期比31.5%増の18.7億円、営業利益は47.7%増の5.0億円、純利益は53.7%増の3.4億円を見込んでいる。7月8日の終値を基準にした時価総額は765億円。喧嘩別れしたクックパッドの341億円の2.2倍だ。くふうカンパニーの133億円の5.7倍である。
個人投資家の期待の大きさがわかる。新興株の狂騒曲がいつまで続くか、にかかっている。
(文=編集部)