住宅市場、活況で“取得競争”過熱…新築マンションや中古一戸建てはコロナ前“超え”

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成約価格は3カ月連続して5%台の上昇

 しかも、成約価格はこのところ上昇が続いています。さすがに、新型コロナウイルス感染症拡大の影響が本格化した4月、5月は前年同月比でマイナスを記録しましたが、6月には上昇に転じ、6月5.3%、7月5.4%、8月5.3%と5%台の上昇が続いているのです。

 8月の成約価格の平均は3644万円で、コロナの影響が広がる2月の成約価格3573万円を上回るレベルに上がっています。このまま順調に推移すれば、過去最高だった20年1月の3672万円を上回る可能性もあります。この3カ月続いている5%台の上昇が9月も続けば、3800万円台まで上がる計算です。

 こうした好調な成約状況のため、市場は売手優位の売手市場になっています。図表4をご覧ください。これは、首都圏中古マンションの成約価格、新規登録価格、在庫価格の1平方メートル単価の過去1年間の推移を示しています。

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ほとんど売出し価格で売れる売手市場に変化

 一見してわかるように、コロナ禍が深刻だった時期には、ブルーの折れ線グラフである成約価格の単価は急速に下落、オレンジの新規登録価格との差が極端に大きくなりました。つまり、この時期には買手が少ないため、売手としては売値である新規登録価格よりある程度低い価格に値引きしないとなかなか売れなかったのではないかと推測されます。いわば買手優位の買手市場だったわけです。

 それが、緊急事態宣言解除後には、急速に成約価格の1平方メートル単価が上昇、新規登録価格と成約価格の格差はほとんどなくなりました。4月には11.8%あった差が、8月には2.7%まで縮小しているのです。

 こうなると、ほとんど新規登録価格のままか、それに近い状態で売れているとみられます。値引きなしの、出し値で売れる公算が高く、完全に売手優位の売手市場になっているということです。

物件不足で困り果てている仲介会社の担当者も

 買手からすれば、価格の上昇が始まっているので、今のうちに買っておかないと、次にいつ自分たちに合う物件が出てくるかわかりません。もし出てきたとしても、大幅に上がっているのではないかと考えると、早めに買っておいたいいだろうということになります。

 こうした売手市場だと、市場に新たな物件が出ても、すぐに客がついてしまいます。コロナ禍に襲われる昨年までの好調な時期には、業界では“瞬間蒸発”ということがささやかれました。せっかく物件が出てきても、たちどころに売れてしまい、物件が決定的に不足している状態を意味します。

 それと同じような事態が、いま起こりつつあり、「お客はいるのに、物件がなかなか出てこない」と嘆く仲介会社の担当者が多くなっています。

一戸建て市場にも活況が戻りつつある

 これは、一戸建て市場にもあてはまります。やはり新型コロナウイルス感染症が拡大し始めた当初は新築一戸建て、中古一戸建てともに成約が減少しましたが、それもあっという間に回復、むしろ19年よりも成約数が多い状態が続いているのです。たとえば――。

 図表5にあるように、20年4月の首都圏中古一戸建ての成約件数は686件と1000件以下に落ち込みましたが、早くも6月には1173件と1000件台を回復、7月は1186件、8月も1175件と1000件を超える水準が続いています。19年には1000件以下の月も多かったので、現在の中古一戸建て市場は、むしろコロナ禍以前より活気にあふれているといっていいでょう。

 成約価格をみても、20年8月は3216万円で、前年同月比6.1%上昇しています。折れ線グラフにあるように、明らかな右肩上がりです。

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コロナ禍でなぜこんなに元気があるのか

 以上、みてきたように、首都圏の住宅業界は、マンション、一戸建てにかわらず、また新築、中古にかかわらずコロナ禍以前の元気を取り戻しています。むしろ、中古一戸建てのように、コロナ禍以前より活性化している分野もあります。

 コロナ禍で先行きが見えにくいなか、住宅業界はなぜ、こんなに元気なのでしょうか。その理由については続編で分析してみましょう。

(文=山下和之/住宅ジャーナリスト)