F15戦闘機行方不明事故に見る、自衛隊広報戦略の変化…マスコミ敵視から融和へ

 再び秋山氏に、当時の海自当局の対応について聞くと、痴漢冤罪事件については「痴漢冤罪を世に知らしめられなかったことは残念」とし、元特別警備隊長の女性問題への対応については、「怖い組織ですよね」と言ったきり口を閉ざした。

 かつて自衛隊の広報は、内部では第一線から退いた人が就く閑職とまで言われていたものの、自衛隊の人材難に泣いたバブル期前から、自衛隊という組織そのものの広報の重要性も相俟って「優秀な人材が送り込まれる」ようになったという(元陸上幕僚監部広報室勤務者)。

 事実、幹部自衛官のなかには、TBS系列でドラマにもなった有川浩の小説『空飛ぶ広報室』でも触れられているように、電通、博報堂といった大手広告会社に出向、研修を受けた広報の専門家もいるくらいだ。

 その広報を専攻する幹部自衛官らによって自衛隊の広報は、まるで公用文さながらで無味乾燥な、およそ「広報の体をなさなかった広報」から、軟派系のソフト路線と硬派なハード路線をその時々の社会情勢に合わせて巧みに使い分けていくようになる。

マスコミは敵ではなく味方へ

 また、広報に携わる隊員たちの意識も変わった。ある元空幕広報室員は言う。

「(マスコミ記者らから)ただ聞かれたことに応えるのではなく、日頃から彼らと付き合い、彼らの関心事がどこにあるかを見いだし、それに合わせた広報を心掛けるようになった。彼らを敵ではなく“潜在的な味方”と考えるようにした」

 こうした自衛隊の広報への捉え方が変わったこともあってか、2014年の輸送艦「おおすみ」とプレジャーボートの衝突事故では、それまでの自衛隊絡みの事故の第一報は「自衛隊悪」とする風潮から、まずは客観的に事を見極めるという冷静な対応へと変わったといわれる。

 この自衛隊における広報の捉え方、広報戦略の変化により、国民、とりわけそれまで自衛隊に批判的だった人への理解につながったに違いない。これからの広報の在り方、戦略は、民間企業でも今後参考になる好例といえよう。

(取材・文=川村洋/フリーライター)