物価高騰でも給料は上がらない3つの理由…電気代は“ダブル値上げ”の影響が直撃

 しかし、これだけ原材料価格や輸送コストが上がっており、耐えかねたメーカーが次々値上げを表明している現状を見ると、PBとはいえ、その中身は苦しいはずだ。「企業努力」とは利益を削るということにほかならず、そのしわ寄せはどこにくるのか。私たち消費者のためにがんばってくれるのはありがたいが、日本の企業の目指すところが「さらなる企業努力による低価格」だとすると、そこで働く人たちの給料の上がり幅も抑えられてしまう。

「物価高なんだから給料を上げろ」という声と釣り合いをとるのは、「高い価格でも買います」という意思表明でないといけない。高くても買いますよ、と私たちは言えるだろうか。企業努力という美しい言葉が使われる限り、働く人への給料や手当てが今以上に増えるとは考えにくい。

「給料が変わらない週休3日制」は実現可能か

 最後は「働き方の多様化」だ。

 パナソニックや日立製作所が週休3日制導入を検討するという。コロナ禍のせいで、これまでは難しいとされてきたテレワークが実現したことを考えると、その導入企業が増えてくる可能性はある。働き方の選択肢が増えることは望ましいが、問題は給料はどうなるのか? だ。給料の金額は変わらないまま週休3日制になるなら、反対する理由はない。しかし現状では、勤務時間が減った分減収となるケースもある。

 報道を読む限り、日立では出勤する日の労働時間を延ばすことで給料を維持するようだ。つまり、休みとなる1日分を他の日に振り向けて長く働くということらしい。

 昭和の頃は土曜が半休という企業が多かった。それが、いつしか週休2日が当たり前になったように、週休3日制も多くの会社の常識になるかもしれない。業種や企業の規模によって異なるが、ITやテックの進化により、長時間ずっと仕事をしているというスタイルは必要なくなってくるだろう。休日分の労働時間を振り向けて3日の休みを確保するのか、それとも成果労働的な目標値を定められるのか、同じ給料をいただくためには、それなりの条件がついてくる。

 しかも、企業には高齢者の継続雇用も求められる。一人が細く長く働き続けるとなると、給料の増え方も低く抑えるしかない。前段の「企業努力」ではないが、働き方の変化とともに、給料の決まり方や伸び方も変化するだろう。効率よく働き、3日の休暇を楽しみ、かつ給料も従来と同じだけ受け取れる――そういうユートピアが、働く人に平等に訪れればいいが。

 鎖国していた日本に黒船がやってきた……ではないが、物価高騰という黒船が襲来し、ようやくデフレの夢から覚めたのが今の日本の姿だ。これまではモノの値段が安かったからこそ、収入が伸びなくてもやってこれた。政府が物価高騰対策を打ち出すとしているが、給付金という打ち上げ花火を配ってもらったくらいでは儚く消えてしまう。通勤が減り、休みが増え、職場ストレスから解放されるのはうれしい半面、我々の収入の先行きはまだまだ厳しいものになりそうだ。

(文=松崎のり子/消費経済ジャーナリスト)

●松崎のり子(まつざき・のりこ)
消費経済ジャーナリスト。生活情報誌等の雑誌編集者として20年以上、マネー記事を担当。「貯め上手な人」「貯められない人」の家計とライフスタイルを取材・分析した経験から、貯蓄成功のポイントは貯め方よりお金の使い方にあるとの視点で、貯蓄・節約アドバイスを行う。また、節約愛好家「激★やす子」のペンネームでも活躍中。著書に『お金の常識が変わる 貯まる技術』(総合法令出版)。Facebookページ「消費経済リサーチルーム