日本政府は巨額助成金を投入…「日本の半導体産業が復活」が妄想だといえる根拠

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『半導体有事』出版から約1カ月

 2023年4月20日に文春新書から『半導体有事』を出版した(図1)。その後、約1カ月が経過した。Amazonのブックレビューを見ると、星を4~5個付けて称賛してくださる方もいれば、星1個でボロクソにけなす人もいる。これはもう本を読んだ方の感想であるから、何を言われても仕方がない。買っていただけでもありがたいと思うべきかもしれない。

 また、ある程度予想はしていたが、著者インタビューの打診、動画への出演依頼、寄稿依頼、講演依頼などを多数受けた。しかし、これらをすべて引き受けることは到底不可能なので、お断りするケースも多々あった(大変申し訳ありません)。寄稿については、次のプレジデントオンラインの例のように、拙著の一部を抜粋する形式でWebに掲載することができる→『経産省が出てきた時点でアウト…日立の元技術者が「日本の半導体の凋落原因」として国会で陳述したこと』。この形式なら、筆者は何もしなくていいので、とても楽だ。これは、文春が許可すれば可能となる方法なので、もし寄稿の打診を考えている媒体があるのなら、検討をお願いしたい。

筆者が抱いた大きな違和感

 このように、この1カ月間でさまざまな打診や依頼を受け、実際にいくつかはインタビューを受け、動画出演や講演などを行った。そのなかで、筆者には大きな違和感が生じた。それは、昨今の半導体ブームにおいて、多くの方々が「日本半導体産業の復活」を思い描いていることに対してである。そのため、インタビュー、動画出演、講演において「いま日本で起きていることは復活ではない」ことを説明してきたし、今後もそう主張するだろう。

 そこで本稿では、現在起きていることが、正しくは「日本半導体産業の復活」ではないことを論じたい。もし「日本半導体産業の復活」と思っているなら、それは誤認識であるといわざるを得ない。それでは、現在、日本半導体産業が目指そうとしていることを正しく言うとどうなるか? 以下では、まず時計の針を2021年6月に巻き戻す。

経済省の政策はすべて失敗

 図2に示したように、日本半導体産業の世界シェアは1980年代中旬に約50%でピークアウトした。その後、Selete(セリート)などのコンソーシアム、「あすか」などの国家プロジェクト、エルピーダメモリやルネサス エレクトロニクスなどの設立があったが、日本のシェアの低下が止まることはなかった。

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 筆者は2021年6月1日に衆議院の科学技術特別委員会に半導体の専門家として参考人招致を受けて意見陳述を行った際、この図を示しながら、「歴史的に、経産省、革新機構、政策銀が出てきた時点でアウト」であると論じた。この詳細は、拙著『半導体有事』にも詳述し、前掲のプレジデントオンラインにもそのくだりが掲載されている。また、衆議院が作成したYouTube動画で視聴することもできる

 しかし、その後、日本には、筆者が予期しなかった半導体ブームがやって来ることになった。

半導体ブームの到来

 先端半導体工場の新増設を支援する改正法が2021年12月20日の参院本会議で、与党などの賛成多数で可決し、成立した。その後、改正法に基づいて次々と半導体工場への助成が発表された。その一覧表を図3に示す。

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 まず、2021年10月に熊本に進出することを発表した台湾積体電路製造(TSMC)には、ソニーとデンソーが資本参加することになった。株式比率は、TSMCが約70%、ソニーが約20%、デンソーが約10%である。この合弁会社「Japan Advanced Semiconductor Manufacturing」(JASM)は、12/16~22/28nmのロジック半導体の受託生産を行う。そして、日本政府が4670億円を助成する。