早稲田大学「医学部」設置構想、統合の本命相手は東京女子医大ではない理由

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早稲田大学(「Wikipedia」より/Arabrity

 日本大学の経営混乱が続いているが、大学経営のガバナンスでは東京女子医科大学も相当に脆弱だ。2020年に起きた看護師約400人の退職騒動に続いて、21年には医師100人超が一斉に退職した。そしてネガティブなニュースが出るたびに東京女子医大の経営悪化が指摘され、早稲田大学への身売り話が蒸し返される。たびたび出ては消える早大への身売り話は、2000年代の初頭からささやかれ始めたが、本格的に検討されたという情報はない。原則としてM&Aは守秘義務契約のもとに検討され、双方が情報を開示する前に流出すれば破談に終わるのが通例である。まして何度も噂に上がっては消えるような案件は憶測が飛び交うだけで、きわめて信憑(しんぴょう)性が低い。大学ジャーナリストの石渡嶺司氏はいう。

「20年以上、噂レベルで出ているということは、それだけ実現の可能性が低いことを示しています。東京女子医大の創業家に同大学を手放す意図があれば、もっと早い段階で統合がまとまっていたでしょう。その意図・意志が弱いからこそ、20年以上も噂になっているのでしょう」

 身売りの相手先に早大が名指しされる理由はおもに2つある。ひとつは、女子医大と早大との長年にわたる連携関係だ。

「東京女子医科大学・早稲田大学共同先端生命医科専攻」公式サイトによれば、早大と東京女子医大は、「すでに50年にわたり、人工臓器、医用材料、医療計測の分野での共同研究を進めて」きたという。その後2000年に両大学は学術交流協定を締結し、01年に東京女子医大は「先端生命医科学系専攻」を、早大は「生命理工学専攻」を立ち上げ、08年には両校の連携施設「東京女子医科大学・早稲田大学連携先端生命医科学研究教育施設」(通称TWIns=ツインズ)を東京女子医大の隣接地に開設した。

 もうひとつは、早大が医学部開設を構想していることである。「早稲田大学からすれば医学部新設は悲願」(石渡氏)という。その意図に呼応するように、医師不足の続く茨城県は11年、早大の鎌田薫総長(当時)に要望書を提出し、笠間市の県畜産試験場跡地での医学部開設を目論んだ。18年の総長選では、現在の田中愛治総長が医学部新設の検討を公約のひとつに掲げた。

稲門医師会の存在

 さらに石渡氏が「将来の医学部新設構想の一環と見られている」と指摘するのが、16年に発足した稲門医師会の存在である。この団体は早大を卒業して他大学で医療を学んで医療職に就いた卒業生の校友会で、23年9月1日現在の会員数は259人(医師167人、歯科医師22人、薬剤師14人、看護師16人、公認心理師13人など)。ただ、武田淳史会長(東京医療学院大学名誉教授)は活動の柱のひとつに「保健医療学部構想の検討」を表明しているが、「医学部」は表明していない。どんな意図があるのか。

「早稲田大学OBのなかに医学部新設を望む声は強くあります。一方、巨額の投資となることから反発も一定数あります。稲門医師会が最初から医学部構想を掲げると反発を受けるので、保健医療学部でアドバルーンを上げる、つまり、反応を見て、ということと推察します」(石渡氏)

 確かに医学部を開設すれば大学のステータス向上や他学部の偏差値向上を期待できるが、万が一、経営状態が芳しくない東京女子医大を買収すれば大きな負担要因になりかねない。大学経営全体の足を引っ張ってしまうかもしれない。

「学生は集まったとしても、医学部単独ではどの医大および医学部を持つ総合大学も赤字であり、病院を合わせて経営することによって初めて黒字にできます。早稲田大学が東京女子医科大を買収・統合した場合、大学病院もそのまま早稲田大学医学部付属病院となりますが、東京女子医大は医療ミスなどが相次ぎ、患者数は減ったままです。大学は赤字、病院で黒字とするはずが、大学・病院ともに赤字です」(石渡氏)