京都大学、工学部の入試で女子枠、議論呼ぶ…「差別」批判が的外れな理由

京都大学の公式Instagramアカウントより
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 京都大学が2026年度入学の試験から理学部と工学部で女性募集枠を設けると発表し、議論を呼んでいる。ここ数年で増加する大学の理工系学部の女子枠設置をめぐっては必要性を訴える声がある一方で「志望者差別」といった批判的な声も聞かれるが、国立大学トップクラスである京大の決断の背景には何があるのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。

 公益財団法人「山田進太郎D&I財団」の調査によれば、理工系学部のある大学で24年度の入試から女子枠を導入した大学は16校にも上る。近年、理工系学部の入試で女子枠を設ける大学は増えている。1994年度入試より、名古屋工業大学では機械工学科(現・電気・機械工学科)の推薦入試において女子枠を設けており、93年度に2人だった女性入学者は20人を超えている。2016年度入試からは兵庫県立大学が工学部3学科で学校推薦型選抜「女子学生特別」を実施しており、共通テストなしで書類審査、適性検査、小論文のみで選考している。私立大学でも、18年度入試より芝浦工業大学が工学部機械電気系4学科で公募制推薦に女子枠を設置し、22年度入試からは工学部全学科に拡大した。

 22年度からは政府が理工系学部で女子枠を設置する大学に財政支援を開始したことで、この動きは加速。23年度入試より名古屋大学は工学部2学科の学校推薦型選抜に計9人の女子枠を、富山大学は工学部の学校推薦型選抜に8人の「女子特別推薦」枠を設けている。東京工業大学は24年度入試から4学院で58人の女性枠を導入し、25年度入試からは残り2学院で85人の女子枠を設ける。広島大学も25年度入試から情報科学部、理学部、工学部で始める。

 背景には、理工系学部に所属する女子学生の少なさがある。日本では22年に大学の工学部に所属する学部生のうち、女子学生が占める比率はわずか15.8%。19年のOECD(経済協力開発機構)による調査では、日本の大学で理系分野に進む女子学生の比率は主要先進国38カ国中で最下位となっている。

産業界の強い危機感

 こうしたなかで東大と並び国内最難関国立大学である京大が女性募集枠の設置に踏み切った背景は何か。

「大きな要因としては、日本政府が国策として理工系学部の女子学生の増加を推進している点があげられます。文部科学省「学校基本調査」(2022年)によると、理学部系統の学生数は男子5万7379人、女子は2万2141人、工学部系統は男子32万2418人、女子6万0383人と女子の比率が圧倒的に低く、この傾向は長年変わっていません。海外の先進諸国と比較しても非常に少なく、産業界は技術職や研究職などに女性が極端に少ないままで将来的に国際競争力を維持できるのか、特に欧米市場で多様性のある企業だと認められるのかと、強い危機感を持っています。

 こうした産業界全体の危機意識もあり、文科省は22年に大学に向けて通達を出し、「多様な背景を持った者を対象とする選抜」を行うことが望ましいとし、「理工系分野における女子」を例示しました。また、22年度入試から理工系学部の入試で女性枠を設ける大学に財政支援を始めており、国立大学である京大がこの国策に沿うのは当然の流れです。もちろん、女子学生の増加を含む多様化を進めることが大学の発展に寄与するという面も大きいでしょうか」(石渡氏)

 女子だけの入試枠を設けることをめぐっては「志望者差別」につながるとの批判的な声も以前からある。

「九州大学は2012年後期入試から理学部数学科で女性枠を導入する予定でしたが、批判が強まって見送りしたことがありました。当時とは明らかに社会の風向きが変わっています。国が大学に理工系学部における女子枠設置を促す背景には、企業がグローバル展開を進めるうえでは急いで多様化を進めなければいけないという切羽詰まった問題があります。