夜間に登山、穴掘り競争…「社員を極限まで追い込む」研修の意外な費用対効果

「接客販売職などでは日常業務のなかでお客様から時に理不尽なクレームを浴びせられることもあり、そうした事態に対処できるメンタルを鍛えるという目的で導入している企業もあるようです。ビジネスの現場では、チームで協力して原因を分析し課題を解決したり、詰めの甘い部分を冷静に指摘し合ったり、クリティカルシンキングを行うことが求められるので、こうした研修に一定の効果は認められます。一方、研修が原因で心身を病んだ社員やその家族から損害賠償を求められたり、夜間の登山でもしもの事故が起きたりするリスクもあり、企業が金銭的に被る潜在的コストは高額となります。以上を勘案すると、『もちろん一定の効果は期待できるものの、費用対効果は必ずしも高いとはいえない』といえるのではないでしょうか。そのため、現在では減少傾向にあるという印象です」(安藤氏)

 住宅メーカー営業職の男性はいう。

「かつてはウチの業界では朝7時30分に出社して、飛び込み営業で家を一軒一軒訪問したり電話をかけたりし、夜11~12時近くまで働いて休日も出勤するというスタイルだった。今では長時間残業の禁止やコンプライアンス意識の高まりで、企業もそういうかたちで社員を酷使することが許されなくなり、また、営業もかつてのような『足と根性で稼ぐ』というスタイルが通用しなくなり、より高度な知識と営業スキル・手法が求められるようになった。ウチの業界ですらそうなのだから、昔ながらの『地獄の特訓』的な教育はもう通用しないと感じる」

 証券会社営業職の男性はいう。

「大手だと一定の割合ですぐに辞める社員が出ることを想定して採用している。合わない人は自発的に辞めてもらっても会社としてはそれほど不都合はないので、厳しい研修にお金を使う必要はない。シビアという意味では外資系金融機関のほうがシビアだが、会社側が能力が低いと判断すればすぐに解雇するので、メンタルを鍛えるための研修は必要ないだろう。世間のイメージどおり今でも証券の営業はタフなメンタルがないと続かないが、研修はあくまで研修。結局のところ、その人の資質としてメンタルが強い人ではないと続かないので、ウチの業界に限っていえば、こうした研修はあまり意味がないのでは」

(文=Business Journal編集部、協力=安藤健/人材研究所シニアコンサルタント)