歴史的賃上げのなか「就職氷河期世代だけ賃金が上がっていない」理由

 一方で、高卒・パートタイム労働者の賃金がそれぞれキャッチアップ過程にあることからすれば、生産性に見合った賃金への調整過程にあるともいえよう。他方、シニアの賃金は雇用延長などから平均賃金の押し上げ要因となっているが、これはむしろシニアになる前の賃金の抑制要因となっている可能性があり、総賃金でみれば増加要因と前向きにとらえることができるかは微妙である。

 こうして見ると、結局、日本で平均賃金の上昇を阻んできたのは、労働市場の流動性が乏しいことで経営者の人材流出に対する危機感がこれまで低かったことも一因と推察される。特に最も賃金上昇の足を引っ張っている30代後半~50代前半の大卒一般労働者の労働市場の流動性が低い背景には、同じ会社で長く働くほど賃金や退職金等の面で恩恵を受けやすくなる日本的雇用慣行も影響していると考えられる。

 以上を踏まえれば、日本の個人消費を本格的に回復させるべく必要な恒常所得を引き上げるためには、対内直接投資の更なる促進等により外資参入に伴う賃上げ圧力を強めることや、減税や補助金等も含めた転職支援の充実等の思い切った策が必要となってこよう。

(文=永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト)